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第3話
「キョウちゃんがキスしてくれたらかえる」
寮に帰らせるために、沢山説教して、なだめてやっと帰ることを承諾させたが、そんなことを言い出した。
だが、まあ。
今さらだしな。
初めて家に来た時からシンはオレにキスを強請った。
4歳の幼児にキスは必要だった。
シンの母親は息子にキスをしていたからだ。
オレの家にはキスという文化は無かったが、まあ、近所の女の子にキスされたことはあったから、ほっぺにチュッとしてやった。
それから強請られる度にしていて、まあ、今更なのである。
背伸びして、シンの頬にキスしてやった。
黒い目に吸い込まれそうになる。、
綺麗な顔だな、ホント。
なんでこんなに綺麗なんだろ。
「お返し」
シンからキスが返ってくるのも、今さらなんだし、4歳から唇にしてくるのも変わらない。
が、最近では離れ際にそろっと舐めてくるようになって、それがちょっとゾクッとしてしまうのは、内緒だ。
でも、それ以上はして来ないから、まだ怒れない。
「キョウちゃん・・・.キョウちゃん・・・大好きキョウちゃん」
シンが抱きしめてくるのも拒否できない。
これも4歳からだからなぁ。
今さらというか。
それに13歳はアルファでは大人扱いだと言っても、オレからすればシンはまだ13歳なんだし。
大人にしか見えなくても、オレの可愛いシンなのだ。
4歳の。
まだオムツがとれなくて、オムツをしていたシンなのだ。
芽生えた母性みたいなもんはかき消せない。
オレはシンが可愛いのだ。
「キョウちゃん、本当に好き。抱きたい。お願い」
また言い始めてるし。
大きな身体を屈めて、オレを抱きしめて、オレの首筋に顔を埋めて。
「シン、ダメだ。とにかく帰れ、学校は休むな」
優しく言う。
「キョウちゃんが居ないから嫌だ」
また最初からやり直しかよ。
「他のアルファに負けるぞ」
これはあんまり言いたくないが、仕方ない。
「・・・負ける?・・オレが?有り得ない。オレは誰にも負けない」
子供っぽさを見せていたシンが、怖い雄になる。
これがアルファだ。
10歳までのシンにはこれは無かった。
むしろ闘争心がないのを心配してて、こんなに無欲で大丈夫かと思ってた。
シンはオレと居られたらそれで十分な子供だった。
でも、アルファになったシンは闘争心の固まりだった。
特にアルファには。
それがアルファだ。
アルファはアルファ同士の闘争を生きがいにする。
アルファの順位こそが全て。
それも本能なのだ。
だから、ベータの支配がおざなりで済んでいるというのはある。
アルファはアルファと戦うことにこそ、喜びと生きがいを見出しているのだから。
下等なベータなどわりとどうでもいい。
シンがグズグズ言いながらも学校に戻るのは、アルファのゲームを楽しんでいるからだ。
アルファの中で一位を目指し合う。
それがアルファだからだ
ベータと違ってアルファは卑劣を許さない。
だからこそ、実力主義であり、戦いは熾烈なのだ。
「頑張れ、シン」
オレは心から言った。
「うん、キョウちゃん・・・」
やっと帰る気になったシンが、またオレの唇にキスして、今度は少し長く留まり、ゆっくり唇を舐められた。
またゾクッとした。
少し震えてしまったかもしれない。
「キョウちゃん、来週帰るまで、オレ以外とキスしちゃダメだよ」
震える声で言われる。
抱きしめられながら。
耳もとで聞く声は、震えていて、怖がってる声だ。
バカバカしい。
「しないよ」
当たり前のことを言う。
キスの習慣はないし、そもそもシンに合わせた結果だし、オレにキスしたがるのはシンだけだし。
「キョウちゃん、愛してる」
玄関から送り出すのにさらに1時間かかった。
もう一度と、何度もされるキス、その度に離れ際に執拗に唇を舐めるキスになってて、最終的には頭突きが必要だったのは困ったことだ。
それでも、オレはシンからのキスを拒めないんだろうな、と思う。
シンが少しずつ、ここまで、のラインをずらしていってるのに。
最初は舐めるのを許して、今日のはもう舌で舐めまわされて。
ゾクゾクしてしまって、ちょっと勃ったのは内緒だ。
シンには困ってしまう。
どうすれば良いのか。
シンが通う学園には沢山綺麗なオメガがいるだろうに。
シンはアルファだ。
アルファはオメガを求める。
そこにちゃんとシンが気づけることを祈った。
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