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第4話
まあ、オレは極めて普通の高校生である。
親はほとんど帰って来ないが。
それでも金をくれるし、優しい家政婦さんも通わせてくれてるし、心配はしてくれてるので、母親よりは父親が大好きだ。
家政婦さんのハナさんもお年になったので、オレも今では出来ることは自分でしてる。
週3回、オレの手のまわらないとことかしてくれる位になってる。
それでもオレが高校卒業するまでは頑張って来る、と祖母のようなハナさんは言ってくれてる。
可愛いがってくれたのだ本当に。
その感情がピジネスじゃないのはわかってる。
卒業したら、アパートなり借りて、ここを出る予定だ。
ここを父親は売るだろう。
他所にちゃんと家はある。
オレのために「家庭」を用意してくれただけだ。
でも、たまには帰ってきて、父親をしてくれたことに感謝してる。
父親が居なかったなら、オレとシンは死んでたかもしれない。
父親はまあ、シンの母親と色々あったかもしれないが、シンを確かに助けてくれた
「シンさんはまだ週末来てるんですか?」
オレが干した洗濯物を取り込みながらハナさんは言った。
優しいハナさんは、シンにも優しかったけど、でも、アルファになってからはシンに厳しい目を向けてた。
父親にはっきりシンをオレに近付けない方が良い、とまで言っていた。
その理由も分かってた。
シンがオレに求愛し続けたからだ。
そして、それが明らかな性欲を含んだものだと分かったからだ。
アルファになって帰ってきたシンは、最初はあからさまだったし(今でもだけと)。
アルファになったシンは、強い性衝動を持っていたし、それを何故かベータのオレに向けたのだ。
自分より大きくなったシンに驚いているオレを、シンは帰ってくるなり抱きしめて。
それはもう、今までの甘える子供のハグではなかったし、その日からシンに口説かれた。
ハナさんはそれを見てしまったのだ。
ハナさんもショックだったらしく、シンにオレから離れるように言い、父親に報告した。
父親も驚いてた。
だが、オレが泣いてシンと離れるのは嫌がったし、シンも「大人に知られてはいけない」とすぐに理解したので、まあ、なんとなくなあなぁになった。
シンにはもう、この家しか帰るとこはなかったし、父親はシンの母親と連絡をとることを恐れていたから、余計に問題は深く考えられることはなかった。
父親がシンの母親にされたことが何なのか分からないけど。
まあ、性的なことなのだろうと予想はするけど。
ベータはオメガやアルファとはセックスするもんじゃない、というのは父親の怯えふりからもわかる。
彼らのセックスは俺たちベータのモノとは別モノなのだ。
そして、少なくとも、シンは大人達の前で、そういう言動は取らなくなったし、家政婦さんが帰った夜も、オレのベッドから、オレに追い出されても大人しくシンの部屋で寝るようになった。
だけど、ハナさんは気付いている
シンはハナさんの来ない週末に来ているけれど、ハナさんはシンがオレを口説き続けていることに気付いている
だから、ハナさんはシンに厳しい。
来るなとは言えない立場だけだど、態度で示している。
シンも可愛がってくれていたハナさんからのこの圧には大人しく引き下がり、ハナさんがいる時はオレにちょっかいは出さない。
明らかにシュンとしてしまう。
オレに触れないのと、ハナさんに嫌われたのの両方で。
なんか可哀想なので、シンが来る日はハナさんを休みにして貰った結果、シンからセクハラを受け続けているわけだが。
シンが凹むのがシンからのセクハラよりマシというのがどうにも自分でもどうかしてると思うが、しかたない。
「シンさんは、アルファですからね。キョウさんとは立場が違います」
ハナさんははっきり言う。
ハナさんはわかってる。
だから言う。
オレのためなのだ。
「わかってるよ。そのうちシンもちゃんと自分のオメガを見つける」
オレはハナさんに言う。
「アルファは偉い人達ですよ。でも。ベータが一緒に生きる人達じゃない」
ハナさんの言うことは本当に分かった。
その通りだ。
アルファはベータと生きるようには出来てない。
友人や家族としてならともかく、パートナーにはなれない。
元々、アルファは家族とオメガがいればいい生きものなのだ。
アルファの本能はオメガを求める。
肉体的にもオメガだけがアルファのすべてを受け入れられる。
激しい性衝動。
強い性欲。
そしてベータでは耐えられないほどの激しい行為。
何より、凄まじい執着をするアルファのあの感情を受け入れられるのもオメガだけ。
ベータでは無理だ。
アルファを受け入れられない。
良く分かっていた。
「大丈夫、ハナさん。シンは家族だよ。それ以外にはならない。それにシンはオレに無理やり何かをすることはないよ」
オレはハナさんを安心させる。
アルファがオメガのフェロモンに狂って、オメガを犯すことはある、が、逆に、フェロモンによる暴走や執着などによるアルファのオメガ相手の事件とは異なり、アルファによるベータへの性犯罪はゼロに近い。
アルファがベータに性行為を無理強いすることはない。
それは知られている。
それは、アルファのある意味、支配者であるが故の余裕ではあるし、アルファが本能のレベルではベータを求めてないということでもある。
アルファとベータのカップルは、この世の中にもほとんどいない。
アルファとセックスしたことのあるベータはかなりいたとしても。
添い遂げることはほんとんどない。
アルファはオメガを選ぶから。
そんなことは、誰でも知ってる。
「大丈夫だよ、ハナさん」
オレは笑って言った。
シンは。
家族でしかない。
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