5 / 73

第5話

シンが帰ってくる週末までは、実に普通な高校生として生きている。 帰宅部だけど、友達は多い方。 趣味はSF小説を読むこと。 実はこっそり書いてたりもする 小説好きな女子達と話で盛り上がったりもする。 女の子達とも仲良くやってる。 まあ、男だとは思われてないからだけど。 こちらはそこそこ、意識してるんだけど。 もちろん男子達とも仲良くやれる。 多少女の子に囲まれているのに、妬まれてはいるけど。 でも、放課後はあまり友達と付き合いはしない。 家のことを出来るだけ自分でしたいというのが帰宅部の理由の1つだし、友達を断ってのもそれということにしてるけど、それだけじゃない。 もう高齢のハナさんに無理して来てもらうわけにはいかない、というのもあるけどそれだけじゃない。 上手に人とコミュニュケーションがとれるのと、それが好きかどうなのかは別なのだ。 毎日毎日、子ども2人で閉じ込めれられて。 下手すれぱ学校さえ行けず、狭い空間に2人だけで。 そこで出来上がったコミュニュケーションだけが全てだった人間には、たくさんの人達とする薄くて意味のない交流がしんどいのだ。 生き残るためにシンを助けるために、必死だった日々がそれでもどうしても、オレの中から離れない。 「お腹すいた」 泣くシンのために家を漁って食料を探す。 母親達は帰ってこないし、迎えにこない。 玄関に繋がるドアは危ないから、とカギをかけられ、外に出れなくされている。 カチカチの食パンを見つける。 考える。 砕いて、牛乳と砂糖でレンジで煮る。 吹きこぼしてでレンジを汚した。 母親が帰ってくるまでに綺麗にしておかなければならないが、とりあえず、柔らかくなった。 ふうふう、息を吹きかけて冷ます。 冷えたら小さなシンの口にそれを入れる。 お腹が空いてたシンはガツガツと食べる。 オレもお腹は空いてる。 だが、我慢する。 シンは小さい。 シンはオレが守んなきゃ でもシンがおもいついたように、オレからスプーンをとり、オレの口にも入れるから。 「だいじょぶ、キョウちゃん、だいじょぶ」 とオレがいつもシンに言うみたいに言うから。 オレは泣いてしまったっけ。 母さんはご飯を忘れるのはそんなに多くない。 いつもはちゃんと、置いていくし、帰ってきたら良くしてくれる・・・ そう自分に言い聞かせていたけど。 「だいじょぶ、だいじょぶ」 シンに言われて泣いてた。 これが不幸語りじゃなくて、これが幸せな話だってわかってもらえるだろうか。 オレにはお腹が空いてても自分だけ食べれたら良いと思わない相手がいたんだよ。 そういう相手とずっといたんだよ。 そういう濃厚な関係の中で生きてきたら、どうしても、薄い関係に逆に耐えられなくなるの、わかる? アルファとオメガの関係もこんなのだろうな、と思ってる。 ベータ同士だったら、共依存とか色々言われるんだろうけど、切り離せない関係の中で生きているんだと。 シンはだから大丈夫。 ちゃんとオメガが助けてくれる。 オレは。 オレは。 まあ、薄い空気に慣れていくしかないだろう。 もしかしたら。 オレにも、アルファとオメガみたいな絆が結べる女の子がと思わなかったことかなかったわけじゃない。 いや。 ダメだ。 誰かを閉じ込めちゃいけない。 それはオレたちの母親達がしたことだ。 どれほどシンが母親を憎んでいるのか。 オレがどれほど母親に関心がないのか。 それを誰かにしちゃいけない。 だから、オレは一人でいい。 いいんだ。 そう思ってた。 シンの幸せは望める。 シンは自分の空腹を我慢して、オレに与えてくれようとしたんだから。 オレだってできる。 それに薄い関係に苦しくはなっても、1人はまあ、意外と平気なのだから。 オレは達観していた。

ともだちにシェアしよう!