7 / 73
第7話
「アルファが何かって分かってる?」
そう聞かれた。
「ああ、はい。大体は」
オレはこたえる。
シンが倒れて、その後センターに連れて行かれた時、家族同然だったからこそ、オレも説明を受けた。
アルファに変化した者の、家族や近しい関係者はその説明を受ける。
ベータとは全く違う種にシンはなったのだと聞かされた。
虫が幼虫から蝶になるくらい、その違いはあるのだと。
全てにおいてベータより優れている生き物、ただし、強い本能に支配されている生き物。
それがアルファだと。
その一つに強い性衝動がある
アルファの欲望はとても強い。
もちろんアルファは理性も強いので、ベータと違って欲望ゆえに性加害を起こすことはない。
フェロモンを除けば。
ただ、オメガへの執着からの加害はある。
それは欲望というよりは、それこそオメガへの執着という本能なので、また別の意味で怖い。
だが、とても強い欲望の抑制が、アルファに苦痛であることは間違いない。
だから、早く番を手に入れようとするし、若いオメガとアルファなら、欲望のためだけのセックスをすることもある。
だけどそれは危険なことでもあって、アルファは一度セックスしたオメガに執着、という本能が働いてしまいやすい。
愛情とかではなく、執着、だ。
番にしたオメガ程のへの強烈さはないが、やはり、一度でも抱けば執着が生まれやすくなるのだ。
結果、オメガの奪い合いの殺し合いや、巻き込まれたオメガが殺される等の事故が起こる。
オメガの取り合いに関しては番にしてしまうまでは、殺し合うくらいのことはよくあるのだが、それが一度でも抱いたオメガ相手でも起こりがちなのが、アルファなのだ。
シンの母親も、そういう揉め事に巻き込まれていたような。
そんなことを思い出した。
シンの母親もアルファやベータを相手にセックスするオメガだったから。
アルファは優れてはいても、オメガに関してはバカになる。
本能ゆえに。
だけど、貴重なアルファを殺し合わせるのを止める必要があった。
まだ、世間に出ていない若いアルファを。
「そのために僕みたいなカウンセラーがいるんだよ」
ユキさんは笑った。
「醜いと、執着しにくいでしょ?」
あっけらかんとユキさんは言った。
意味が分かって、青ざめた。
この人は、シンの学校で番のいない、シンのようなアルファの「相手」をするカウンセラーなのだ。
なんか。
なんか、泣きそうになった。
シンのことで来たってことは、この人の「カウンセリング」をシンも受けたってことだ。
なんか嫌だった。
辛かった。
シンが見つけたオメガと一緒になるのはよろこべるのに、シンがそういう風なことをこの人としてるのは嫌だった。
アルファとはそういうモノなのだとしても。
嫌だった。
「ああ、そんな顔しないで・・・いじわるだったね、ごめんなさい。僕はシンくんの【カウンセリング】はそういう意味ではしてないから」
ユキさんは慌てたように言った。
この人としてない、そう聞いたら、なんだかホッとした。
「むしろ、【しない】ことで聞きにきたんだよ」
ユキさんは言った。
「どういうことですか?」
オレは聞く。
「オメガを拒否するんだよ。学園のオメガからも求愛されてるのに断るし、処理のためのカウンセリングすら受けようとしない。アルファは誇り高いから番を手に入れるまでは、と処理を嫌がる若いアルファは珍しくない。でも、オメガ自体を拒否する、となると話は別だ。そういうアルファは限りなく少ない」
ユキさんは言った。
「オメガ嫌いのアルファも少ないけどいる。でもそういうアルファこそ、処理の必要性は知ってるんだよ。ベータをパートナーにするアルファこそ。何故なら、ちゃんと欲望を処理しておかないと、ベータのパートナーを引き裂いてしまうかもしれないから。ベータの相手をする時は、アルファは加減してやらないといけない。これはオメガでもそうだけど」
ユキさんの言葉は生々しいだけに、それが現実なのだと分かった。
「シンはオメガを一切受け入れようとしてない。そして、その理由は君だと言うんだ。だからね、話を聞きにきた。僕は彼のカウンセリングの担当だから。あ、別に絶対にセックスをしなきゃいけない、とかじゃないんだよ。まだ未熟なアルファやオメガであることに慣れてない彼らの【相談】も僕の仕事なんだよね。アルファの精神状態の査定は必要なんだよ」
ユキさんの言葉は、アルファの現実の話でもあった。
オメガはともかく、アルファは自分たちの社会に害にる、とわかったなら容赦なくアルファでも消し去る。
性衝動を処理してでもコントロールできるアルファの方が「安全」と見なしているのだ。
本能を強い薬品で破壊して、ベータとして生きるアルファもいるらしい。
寿命と引き換えに。
性衝動をどうコントロールできるも、アルファとしての適性を見られているのだとわかった。
シンは危ういアルファだと思われているのではないか。
オレがいいって本気でカウンセラーにも言ってるんだ。
そしてオメガを一切拒否してる。
それはシンの立場を悪くしてしまうんだろうか。
オレは怯えた。
シンが消しさられるのは、駄目だ、絶対。
「・・・心配なんだねぇ」
ユキさんは、複雑そうな声と顔で言った。
その感情はあまりにも複雑すぎて読み取れない。
何?
同情?
感心?
呆れ?
恐怖?
可笑しさ?
色んなモノが混じっていた。
「大丈夫、シンくんが困るようなことにはならないよ。僕もシンくんは好きだし。ただ、ね、話を聞かせて?まずはシンくんとお母さんについて聞かせてくれる?」
ユキさんの言葉を文字通り受け止めたわけではなかったけれど、どう答えれば良いのか分からなかったし、何より答えないことも怖かったから、ただ、シンに悪い結果にならないように祈りながら答えるしか、オレにはなかった。
シン。
どういうこと?
ダメだろ、オメガを拒否したら。
ダメだろ・・・
でも。
でも。
シンがこの人と処理をしていないことに何故かホッとしていた。
ともだちにシェアしよう!