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第7話

「アルファが何かって分かってる?」 そう聞かれた。 「ああ、はい。大体は」 オレはこたえる。 シンが倒れて、その後センターに連れて行かれた時、家族同然だったからこそ、オレも説明を受けた。 アルファに変化した者の、家族や近しい関係者はその説明を受ける。 ベータとは全く違う種にシンはなったのだと聞かされた。 虫が幼虫から蝶になるくらい、その違いはあるのだと。 全てにおいてベータより優れている生き物、ただし、強い本能に支配されている生き物。 それがアルファだと。 その一つに強い性衝動がある アルファの欲望はとても強い。 もちろんアルファは理性も強いので、ベータと違って欲望ゆえに性加害を起こすことはない。 フェロモンを除けば。 ただ、オメガへの執着からの加害はある。 それは欲望というよりは、それこそオメガへの執着という本能なので、また別の意味で怖い。 だが、とても強い欲望の抑制が、アルファに苦痛であることは間違いない。 だから、早く番を手に入れようとするし、若いオメガとアルファなら、欲望のためだけのセックスをすることもある。 だけどそれは危険なことでもあって、アルファは一度セックスしたオメガに執着、という本能が働いてしまいやすい。 愛情とかではなく、執着、だ。 番にしたオメガ程のへの強烈さはないが、やはり、一度でも抱けば執着が生まれやすくなるのだ。 結果、オメガの奪い合いの殺し合いや、巻き込まれたオメガが殺される等の事故が起こる。 オメガの取り合いに関しては番にしてしまうまでは、殺し合うくらいのことはよくあるのだが、それが一度でも抱いたオメガ相手でも起こりがちなのが、アルファなのだ。 シンの母親も、そういう揉め事に巻き込まれていたような。 そんなことを思い出した。 シンの母親もアルファやベータを相手にセックスするオメガだったから。 アルファは優れてはいても、オメガに関してはバカになる。 本能ゆえに。 だけど、貴重なアルファを殺し合わせるのを止める必要があった。 まだ、世間に出ていない若いアルファを。 「そのために僕みたいなカウンセラーがいるんだよ」 ユキさんは笑った。 「醜いと、執着しにくいでしょ?」 あっけらかんとユキさんは言った。 意味が分かって、青ざめた。 この人は、シンの学校で番のいない、シンのようなアルファの「相手」をするカウンセラーなのだ。 なんか。 なんか、泣きそうになった。 シンのことで来たってことは、この人の「カウンセリング」をシンも受けたってことだ。 なんか嫌だった。 辛かった。 シンが見つけたオメガと一緒になるのはよろこべるのに、シンがそういう風なことをこの人としてるのは嫌だった。 アルファとはそういうモノなのだとしても。 嫌だった。 「ああ、そんな顔しないで・・・いじわるだったね、ごめんなさい。僕はシンくんの【カウンセリング】はそういう意味ではしてないから」 ユキさんは慌てたように言った。 この人としてない、そう聞いたら、なんだかホッとした。 「むしろ、【しない】ことで聞きにきたんだよ」 ユキさんは言った。 「どういうことですか?」 オレは聞く。 「オメガを拒否するんだよ。学園のオメガからも求愛されてるのに断るし、処理のためのカウンセリングすら受けようとしない。アルファは誇り高いから番を手に入れるまでは、と処理を嫌がる若いアルファは珍しくない。でも、オメガ自体を拒否する、となると話は別だ。そういうアルファは限りなく少ない」 ユキさんは言った。 「オメガ嫌いのアルファも少ないけどいる。でもそういうアルファこそ、処理の必要性は知ってるんだよ。ベータをパートナーにするアルファこそ。何故なら、ちゃんと欲望を処理しておかないと、ベータのパートナーを引き裂いてしまうかもしれないから。ベータの相手をする時は、アルファは加減してやらないといけない。これはオメガでもそうだけど」 ユキさんの言葉は生々しいだけに、それが現実なのだと分かった。 「シンはオメガを一切受け入れようとしてない。そして、その理由は君だと言うんだ。だからね、話を聞きにきた。僕は彼のカウンセリングの担当だから。あ、別に絶対にセックスをしなきゃいけない、とかじゃないんだよ。まだ未熟なアルファやオメガであることに慣れてない彼らの【相談】も僕の仕事なんだよね。アルファの精神状態の査定は必要なんだよ」 ユキさんの言葉は、アルファの現実の話でもあった。 オメガはともかく、アルファは自分たちの社会に害にる、とわかったなら容赦なくアルファでも消し去る。 性衝動を処理してでもコントロールできるアルファの方が「安全」と見なしているのだ。 本能を強い薬品で破壊して、ベータとして生きるアルファもいるらしい。 寿命と引き換えに。 性衝動をどうコントロールできるも、アルファとしての適性を見られているのだとわかった。 シンは危ういアルファだと思われているのではないか。 オレがいいって本気でカウンセラーにも言ってるんだ。 そしてオメガを一切拒否してる。 それはシンの立場を悪くしてしまうんだろうか。 オレは怯えた。 シンが消しさられるのは、駄目だ、絶対。 「・・・心配なんだねぇ」 ユキさんは、複雑そうな声と顔で言った。 その感情はあまりにも複雑すぎて読み取れない。 何? 同情? 感心? 呆れ? 恐怖? 可笑しさ? 色んなモノが混じっていた。 「大丈夫、シンくんが困るようなことにはならないよ。僕もシンくんは好きだし。ただ、ね、話を聞かせて?まずはシンくんとお母さんについて聞かせてくれる?」 ユキさんの言葉を文字通り受け止めたわけではなかったけれど、どう答えれば良いのか分からなかったし、何より答えないことも怖かったから、ただ、シンに悪い結果にならないように祈りながら答えるしか、オレにはなかった。 シン。 どういうこと? ダメだろ、オメガを拒否したら。 ダメだろ・・・ でも。 でも。 シンがこの人と処理をしていないことに何故かホッとしていた。

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