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第8話
ユキさんの質問には真面目に答えた。
シンが母親を憎んでいること。
それがオメガ拒否に繋がっているかもしれないこと。
オレに求愛してくることも話してしまった。
何を話せばシンのためになるのか分からなかったから。
何もかも正直に話してしまった。
「大丈夫。悪いようにはしないから」
ユキさんが優しく言ってくれるのを信じるしかなかった。
でもユキさんの綺麗な手や、美しい側の方の顔とか、細くてしなやかな、オメガらしい身体つきとか、見てるとなんか、辛くなった。
オレとは違う、アルファのためのオメガ。
シンとこの人はしようとしたんだろうか、と。
処理とかそういうの。
拒否したと聞いたけど。
シンにはそういうのして欲しくなくて、ちゃんとオメガと恋に落ちて番になって欲しくて。
なんかホントに辛くなってた。
「傷付いてるの?可哀想に」
ユキさんが、オレの顔を見て言った。
「まだ15歳でベータだもんね。君はアルファでもオメガでもないから理解出来無い?でも、分かってね。アルファやオメガはベータとは違う。本能が強すぎて、それに支配されてるだけで、でも、ベータと同じで恋もする。肉欲だけじゃないんだよ」
ユキさんの綺麗な目とほとんど塞がった醜い目。
それらがオレを見つめる。
「シンくんは僕とはなんにもしてないよ。君がいるから嫌だっって。ずっと衝動を抑えてる。アルファはそれが出来る生き物でもあるんだよ。オメガに関してはおかしくなるけどね。僕の顔はアルファに焼かれたモノだしね」
ユキさんは言った。
アルファは衝動に耐えられるという話をしながら、オメガに対しては耐えられないことを語る、矛盾。
オレがベータだからアルファからは安全だと言ってるのだろうか。
でも、アルファはそこまでしてオメガを求めるものだという話でもある。
「・・・同じなんだよ。そこは分かって。アルファだってオメガだって好きな人だけが良いし、他は要らない。でも、アルファとオメガ同士じゃなければ、そうはいかない。アルファオメガ同士だって、もう番がいてしまったならそうはいかない。ベータより苦しいかも知れないよ、アルファやオメガであるということは」
ユキさんが複雑そうに言った。
聞いたことはある。
好きではないオメガを番にしてしまったとしても、アルファは番には執着する。
番を手放すことがアルファには出来ない。
どうしても。
感情以上に執着するのだと。
好きだったオメガと別れて、【事故】で番になってしまったオメガと添い遂げる、そんな話はやはりあり、だからこそ、オメガが発情を利用して、無理やりアルファを番にすることは禁じられてはいて、でも、番を手放すことが出来ないから、アルファはそのオメガを罰するために訴えることができないという、矛盾があるという。
「アルファはね、どんなに番に執着してて、手放せなくても、それでも感情は愛した人にあったりするんだよ。これはベータやオメガには分からない、アルファだけの地獄。オメガと番になったからハッピーエンドというわけでもないんだよ」
ユキさんがオレに何を伝えたいのかが分からない。
オレはシンが良い感じのらオメガと恋に落ちて番になって欲しいと思ってる。
恋した相手と仲良く暮らして欲しいと思ってる。
それこそ幸せに。
ユキさんの首には番防止の首輪はなかった。
ということは、この人もシンの母親のように番を失ったオメガなのだろうか。
番を失ったオメガ達が、ワケありアルファの「処理」やベータの男の欲望のための仕事に着くことがあるのはシンの母親からしっていた。
アルファの庇護がないと生きられないようになっているオメガには、発情期の苦しさや等を考えると、こういう仕事しかないのだと聞いた。
オメガは寿命こそ平均50歳で短いが、30歳前後のままの外見で外見は止まる。
そして、 オメガの寿命の短い理由の一つは、アルファが死ぬ時に番のオメガを連れて行くこと、もあるのだ。
オメガを誰にも渡したくない執着で、でも、それと愛は別にあることもあるのだと。
なんだかオレみたいなベータには難しいすぎる。
「アルファもオメガも、ベータとおなじ【人】だからね」
ユキさんの言葉には驚いた。
違う種だと聞かされてきたからだ。
アルファとオメガはベータとは違うと。
「シンくんが、オメガと番になるのが君の望み?」
ユキさんに聞かれた。
「はい」
そこに迷いはない。
シンは幸せになる。
絶対に。
「そう・・・」
何故かため息をつかれた。
「お話、ありがとう。シンくんのカウンセリングに活かしていくね。大丈夫、シンくんも嫌がっているから、【処理】はしないから」
ユキさんは立ち上がった。
話は終わったのだ。
ユキさんは、オレに何を言いたかったのだろう。
そして、オレがユキさんに話したことがシンをどうしてしまうのだろう。
オレは不安だった。
不安そうに見つめてしまったのか、ユキさんがオレを見て何故か苦笑する。
「可愛いね、キョウくん。ホント。なんか本当に可哀想・・・」
ユキさんに同情されたのも謎だった。
もちろんオレは知らなかった。
玄関を出た先で、ユキさんが誰かに電話していたのも。
「話、したよ。お前ホントにクソだわ。あの子に同情するよ」
とユキさんがそんなことを言っていたのも。
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