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第19話

「キョウちゃん、泣かないで」 シンが言った。 シンが近付くと思わずオレは後退った。 でもシンは構わずオレを抱きしめてきた。 シンからは良く知ってるシンの匂いだけじゃなくオメガの匂いがした。 オレはその匂いがイヤでシンを突き放そうとする。 が、シンの腕は緩まることがない。 オレは嗚咽していた。 涙が止まらない。 ふるえながら泣いて、シンから離れようと胸を叩く。 「そんなに嫌だった?でもキョウちゃんがそうしろって言ったんだよ」 シンは囁いていた。 オレは良く分かんなくなって、さらにシンを叩いて。 でもシンは離してくれなくて。 分厚い胸に抱き込まれて、頭に頬擦りされて。 宥めるように背中を撫られて、よけいに泣けて、暴れた。 「ごめんねぇ。ごめん。つらかった?」 シンの声が優しいのに、無性に腹がたった。 泣いて。 胸を叩いて。 離してもらえない。 「ごめんごめん、もうしないから」 シンの声はどこまでも甘くて。 気がつけば声を上げて泣いていて。 「ごめんねぇ。本当にゴメン」 シンに謝られていた。 気がつけばシンに抱きつき、泣いていた 分からない。 どうしてこうなったのか。 シンが後頭部を手で支えて、背中にもう片方の手をまわして、オレを自分へと密着させた 少しでも離したくないみたいに。 でも。 オメガの匂いがするから。 いやだった。 「うん。わかる。わかる。嫌だよね。ごめんね。もうしない。絶対しない」 謝られて。 その甘い声とか、シンの体温とかにまた泣けて 泣き疲れてねむるまで、オレはそのままシンの腕の中にいた。 もう何も考えたく無かった。 喜んで、意識を手放した。 目覚めたのはどれくらい後だったのだろう。 声がした。 「いい加減にしろよ。確かに多少のことは目を瞑っても良いことになってるけど、今回のはやりすぎだ」 誰かが怒っている。 ユキ先生の声だ。 「カウンセラー」の。 「いいじゃないですか。これでちゃんとあのオメガと番になるアルファが出来ましたよ。絶対、今ごろあの二人番になってますよ、かけてもいい」 シンの声か笑ってる。 「・・・本当にお前は最低のクソだよ、最悪なガキだ」 ユキ先生の声が苦い。 「まあ、否定しないけど」 クスクス、シンが笑ってる。 どういう話? よく分からない。 「シン・・・」 オレは名前を呼んで目を開ける。 シンとユキ先生が話している。 白い天井、ベッドのまわりにカーテンレール。 医務室なのだとわかった。 目が痛い。 腫れてる。 泣きすぎたのだ。 「目が覚めた?キョウちゃん」 シンがオレを見下ろして笑った。 シンはベッドの隣りの椅子に座ってて、ユキ先生はその隣に立っていた。 ユキ先生の顔は相変らず、綺麗で醜い。 焼けて無い表情がある方の顔は、物凄くしぶい顔をしてた。 「頭痛い?お水飲む?お薬もらう?」 シンはそう言って、優しくオレの頬を撫でる。 病気の時にいつもそうしたように。 伝染るから来るなと言っても絶対離れなかった子供の頃みたいに。 また泣きそうになった。 きっと酷い顔になってる。 目が良く開かないほど、腫れてるから。 「シン・・・先生と二人で話がしたい」 オレはシンに言った。 シンと二人だとまた泣いてしまうとおもったから。 「そう」 シンは意外にもそれに従ってくれた。 離れる前に優しく頬を撫で、目にかかった髪をかきあげてくれた。 「好きだよ、キョウちゃん」 その優しい声にまた泣きそうになって顔を背けた。 シンが少し笑って立ち去るのを足音で知る。 「それで。何を話たい?」 ユキ先生の声がした。 オレはその声の方を向く。 ユキ先生はシンいた椅子に、座ってた。 オレは。 話し始めた。 誰かに聞いて欲しかったから。

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