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第20話
「シンにオメガの番が出来ればいいと思ってたんです。本当に」
オレはまた泣いてしまってた。
「そう」
ユキ先生は頷いただけだった。
ユキ先生の顔の醜い側は歪んた怒ってるとも泣いてるとも笑ってるともいえる顔で固まってて、美しい側にはなんの表情もない。
「ダメでした」
オレは涙を止められない。
ユキ先生はアルファとオメガの「カウンセラー」だ。
番がいないことて性的に安定してない、若いアルファとオメガの「カウンセリング」を担当している。
若いアルファ達の欲望をオメガとして受け止めることもある、と匂わせてきた。
ユキ先生の仕事としては、アルファとオメガをできるだけ多く問題なく番わせ、彼らに安定を与えたいのだ。
アルファとベータなんて、不安定な要素はできるだけ取り除きたいはずなのだ。
アルファもオメガも。
番を得て、一番精神的にも肉体的にも安定するのだから。
「ごめんなさい」
オレは言うしかなかった。
オレも本当にシンに番を与えたかったのだ。
でも、オレには出来なかった。
嫌だと思ってしまったのだ。
オレは。
シンが。
好きなのだ。
「好きになってしまったら仕方ないよねぇ」
ユキ先生は仕方無さそうに言った。
「アルファがどういうものか分かって、それでも好きだと分かってしまったんだからねぇ・・・辛くなるかもよ?アルファとベータでは歪つなんだから」
先生は淡々と言う。
それが事実だから、オレはまた辛くなる。
アルファをベータでは受け入れられない。
本当には。
でも。
でも。
「本当はオメガとセックスするシンを見ることができる 位の覚悟じゃないとアルファと付き合うことをオススメできないんだけどね」
ユキ先生の言葉の意味はわかる。
シンはオメガは要らないというが、その身体はオメガを求めている。
シンはオレといる限りそれに耐えなければならない。
オレがシンがオメガとそうすることに耐えられれば、それこそ、ユキ先生との「処理」に耐えられるなら、シンはその苦しみに耐えなくて済むのに。
でも、オレはオレの嫉妬に耐えられない。
オレは。
その嫉妬に苦しむくらいなら、オメガに最初からシンを渡したかったのだ。
でも出来なかった。
オレは誰にもシンを渡したくないし、触らせたくない。
でもそれはシンを苦しめることになるのだ。
「嫌だ・・・」
オレはまた泣いた。
ユキ先生は何も言わなかった。
頭を撫でてくれた。
しばらく、時間がすぎて、ユキ先生は仕方なさそうに言った。
「可哀想にね。でも、シンは君の前でオメガを抱かなかった。アルファがオメガの身体に触れてその身体を抱かなかった。それはすごいことだよ」
ユキ先生の言ってることは本当だった。
アルファがオメガを求めるのは本能だ。
発情してるオメガならアルファは絶対に拒めないが、発情していなかったとしても、アルファにはオメガはその飢えを満たしてくれる唯一のものなのだ。
だけど、シンは拒否した。
裸で、甘く熟れたオメガを拒否した。
オレのために。
「シンは君の方が大事なのは確かだよ。・・・話しあってみたら?」
ユキ先生の言葉に頷く。
シンと決めよう。
気持ちに気付いてしまったから。
オレがどうしたいか。
シンがどうしたいか。
「・・・シンは君が泣くのは嫌らしいよ。こんなに泣かせてるくせにね」
ユキ先生はため息をついた。
そして優しく髪を撫で、ベッドのまわりの白いカーテンを開けて出ていった。
そして、代わってシンが入ってきた。
なんでだ。
シン。
なんでそんなに。
嬉しそうなんだ。
「キョウちゃん・・・キョウちゃん」
シンはベッドに横たわったままのオレを覆い被さるように見下ろし、満面の笑顔で言った。
「やっと手に入れた。オレが好きでしょ」
シンの言葉にまた泣いた。
そうだったから。
話?
そんなものはもうない。
もうないのだ、とわかった。
シンが低く笑った。
そして、オレはシンの唇がオレの唇に重なるのを受け入れた。
それはもう。
子供の時のキスではないと分かっていた。
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