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第23話

その日はもうユキ先生の部屋に泊まった。 山奥の学園のバスは泊まってたし、最寄り駅までタクシーで行ってももう電車はなかったからだ。 さすがにシンの部屋は部外者はダメ、ということで、敷地内にあるという先生の住んでる、プライベート空間に泊めてもらうことに。 シンは離れたがらなかったが、学校なので仕方ない。 敷地内にある、小さな、それでも綺麗な家の前でついてきた。 ユキ先生においはらわれるまで、オレから離れようとはしなかった。 「愛してる」とずっと囁き続けられた。 しかし、 学校の中にこんな家があるなんて。 ユキ先生だけは特別に住んでるのだそうだ。 何かあった時にその身体でアルファを鎮るためだ、と言われて「うわぁ」となった。 「朝までゆっくりしてて。僕は性欲を持て余してるアルファの男の子の処理にいかないといけないから、夜いないと思うから気にしないで」 とさらっと言われた。 ここにはアルファもオメガも入れないのだと、プライベートだから、とユキ先生は言った。 オレはベータだから特別らしい。 風呂を借りてご飯までご馳走になった。 「先生の番はいつ亡くなられたんですか?」 食事中 ユキ先生に聞いた。 聞くべきじゃなかったけれど。 ユキ先生に番がもういない、というのは分かっていた。 番防止の首輪をしていないのは番がいる証拠だ。 それに番がいたなら、アルファは絶対こういう仕事をオメガにさせない。 他のアルファに触れさせるなんて。 番のいないオメガは番にされるかもしれない危険があるこんな仕事にはつかない。 何より不用意に発情して、アルファを狂わせてしまう危険があるのだし。 発情に反応したアルファはもうコントロールが効かないから危険すぎるし、発情したオメガを奪いあってベータを巻き込み殺し合うことすら考えられる。 だから、番を失ったオメガはこういう仕事につく者が多い。 「死んでないよ。まだ生きてる。別れただけ」 ユキ先生が笑った。 それはありえない。 絶対にない。 アルファが番のオメガを手放すわけがない。 それがアルファだ。 「あるんだよ。どうやったのか知らないけど。彼は僕を解放したんだ」 ユキ先生は言った。 「解放?」 アルファがオメガと別れることを解放と言うだろうか。 「彼がそのために何をしたのかはわからない。彼はアルファやオメガの本能についての研究をさせていた人だったから。抑制剤の企業を抱えていたし。彼は僕を手放して、それからはもう会っていない」 寂しそうにユキ先生は言った。 「愛していたんですか?アルファだからじゃなくて」 オレは聞いてしまう。 「そうだね。僕の醜い方の顔が好きだった、ただ一人の人だからね。アルファオメガベータに限らず。僕をオメガとして扱えなくなったただ1人の人だからね。手放されて、より愛してる。でも、仕方ない。彼のプレゼントだったから。別れがね」 ユキ先生は寂しそうに言った。 「本能に引っばられていたとしても。アルファとオメガにも、重ねた時間から生まれるものもあるんだよ」 ユキ先生の顔は綺麗な方は無表情、そして、醜い側は笑ったままで言った。 「彼は消えたけどね。どうなったのかも分からない。アルファがアルファであることを止めたなら、どうなるのかはまだ誰にもわからないんだ。強烈な抑制剤で本能を抑え、ベータとして生きようとしているアルファもいるけど、その寿命は短命だし、それでも苦しみは付き纏う。何も失わないということはありえないんだよ」 ユキ先生がオレに何を伝えたいのかは分からなかった。 「シンはアルファだ。そこは分かってやって」 ユキ先生の言葉は当たり前のことで。 だからオレは苦しんでいて。 でも愛しているのだと思った。 「・・・・・・ゆっくり休んでね。今晩は」 ユキ先生はやっと、微笑んだ。 綺麗な方の顔ででも。 オレはシンを愛してるということ自覚し、そして、もうシンを離せないのだとも知り、でも、その日だけは疲れてたから。 ユキ先生の言う通り、朝まで目覚めることなく眠ったのだった。

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