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第29話
それからオレが不自然この上なかったのは認める。
シンが何を話していてもズレたことしか返せなかったし、シンが触れるほど近寄る度に、緊張して身体を強ばらせてしまった。
挙げ句、皿洗いの時に手伝うと言ってシンが背後に来た瞬間グラスをいくつも割ってしまった。
「キョウちゃん・・・」
シンが困ったようにため息をついた。
オレはそれにすら混乱した。
破片を片付けようとするシンに向かって怒鳴ってしまっていた。
「いいから放っておいてくれ!!」
言ってから後悔する。
シンは。
何も悪くない。
オレが勝手に怯えてるだけだ。
シンがアルファだからって。
アルファに翻弄されるセックスか怖くて。
でも、そんなの。
シンのせいじゃないのに。
「ごめん・・・怒鳴ってごめん・・・」
シンに悪くて声が震えた。
シンはじっとオレを見る。
シンの切長の綺麗な目がオレを見る。
見つめられているのはオレの怯えだ。
それはシンを傷つけるだろう。
オレは目を逸らしてしまった。
どうすれぱよいのか本当に分からないのだ。
「ケガしないようにしてね」
シンに寂しそうに言われて、胸が痛んだ。
違う。
ひどい態度をとりたいわけじゃない。
ごめん。
でも。
こわいんだ。
逃げ出したい。
もう夜で。
そうなるのが怖い。
「・・・風呂、先に入るね」
シンが言った。
オレが片付けしている間に風呂を用意していたのだ。
風呂、と聞いてオレは汗が吹き出す。
風呂が終われば。
目眩がする。
指先が震えていたけど、シンは背中を向けていたから分からなかっただろう。
シンがいつもなら鼻歌混じりで風呂に入るのに、すん、と落ち込んだまま向かう姿に、罪悪感でいっぱいで、でも。
「痛っ!!」
オレは呻く。
震えた指のせいで、ガラスで指先を切って閉まった。
ゆっくり溢れてくる血を見ながら、オレはカチカチ歯を鳴らしていた。
本当に怖かった。
快楽の方が恐ろしい。
セックスとは言えないアレであんなにも。
本当にしてしまったならどうなるんだ。
無理。
無理。
絶対無理。
オレは決めた。
シンには悪いと思った。
でも。
今日は絶対無理だった。
どうしても。
だから。
シンが風呂に入っている間に逃げ出したのだ。
家から飛び出してしまったのだった。
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