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第43話
「シン?」
水族館の入口で呼びかける声がした。
まずシンがその声に振り返り、形容出来ないような、まあなんて言うか、嫌そうな顔をした。
オレと繋ごうとした手が止まるほど驚いている。
なんだよ。
嫌がっているような、逃げ出したいような、迷惑なような、なんとも言えない、その見た事ない顔。
でも良い感情ではないことは分かった。
オレはシンが見たものを見ようとした。
だがシンは俺をサッと抱き寄せて、胸に顔を押し付け見せないようにする。
だが、その声の主は、シンがみせたくなかったその声の主は近付いてきたのだった。
「シン・・・久しぶり」
その声の方におし付けられていた顔をもがくようにして動かすと、ものすごく綺麗なオメガがそこにいた。
水族館に行くにはビジネスっぼい服装だし、1人だからこの前をたまたま通りかかったみたいだった。
あれ?
なんか見覚えがある。
上品で大人しそうなこの綺麗な顔。
一目でオメガだとわかった。
また、シンに押さえつけられてバタバタしながら上目遣いで見あげる。
とうとう、シンが諦めたように腕を解いた。
見てしまった以上は仕方ない、ということらしい。
「卒業以来だね」
オメガが複雑そうな笑顔をうかべ、それからオレを見て顔を顰める。
学園の友達か。
でも、何でこんな嫌な顔をオレはされんの?
そりゃシンには不釣り合いなベータだけど!!
いや、待て。
この子。
ものすごく綺麗になってるから、いやあの頃も綺麗な子だったけど、大人になっててわからなかった。
オレの胸が傷んだ。
この子、シンがオレの目の前でイカせていた、あのオメガだ。
シンがオレに嫉妬させるためだけにオレの前でその身体を弄っていた、シンを好きだったオメガだ。
途中でシンから他のアルファへと手渡されたあの子。
泣いていたあの子。
シンを好きだった子。
オレの中で罪悪感や、嫉妬や、あの時の痛みや、この子に勃起してしまったこととか、もう色んな感情が溢れてくる。
シンはソッポを向いている。
オメガと目を合わせようとはしない。
都合わるくなったらこういうとこ、シンはある。
「あの後コイツとは何もないからな、コイツはあの後他のアルファの番になったから!!」
でも、オレには言い訳してくる。
必死だ。
確かにオメガは髪を短くして番の印を堂々さらけ出している。
ちゃんとアルファがいるのだ。
あの時の大きなアルファだろうか。
「まだこのベータとつきあってたんだ」
オメガの声の冷たさは仕方ない。
彼には何一つ悪いところはなかった。
ただ、シンをスキだっただけだ。
なのにオレの目の前で裸にされ、イカされ、オマケに振られて。
彼に憎まれるのは仕方ない。
オレがシンを最初から受け止めておけばよかったのだ。
オレとシンの問題に巻き込まれた被害者なのだ。
嫌なことを言われることに腹を括った。
が、シンは逃げるようにオレの腕を引っ張る。
オレはシンに引きずられる。
シンは珍しく必死だ。
そのままオレは引きずられていく。
オレはそれでも申しわけなくてオレは引きずられながら頭を下げた。
オレ。
彼のこと。
忘れてた。
忘れてたかったからだ。
でも、彼がされたことは酷いことだ。
シンはちゃんと謝ったのか。
シンのしたことはオレにも責任が・・・
オレをズリズリ引っ張ていくシンは、見当違いなことを言い出している。
「誓ってアイツに触ったのはあの時だけで、絶対にそのあと近寄りもしてない。アイツも番があの後出来てたから。絶対ないから!!」
シンは必死だ。
それはわかってる。
でも、そういう問題じゃないだろう。
お前が彼にしたことは。
シンが綺麗な彼としていたことを思い出せば泣きたくなるほどつらいけど、そんなことじゃないだろう。
「愛してる。キョウちゃんだけだ!!」
彼が見えなくなるまで離れると、シンはオレを抱きしめて言う。
水族館の中で人が見てるから恥ずかしかったが、シンが何時になくパニックになってるから大人しくされるがままになる。
落ち着いてからシンと話し合おう。
オレはオレを抱きしめてくるシンを抱きしめかえした。
どうしたんだシン?
何が怖いんだ?
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