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第47話

【シン】 缶コーヒーを持って戻ってくるとキョウちゃんがいなかったからすぐに察した。 ヤバいと思った。 あのクソオメガだ。 アイツはヤバい。 キョウちゃんが関心さえ示さなかったなら、絶対に手を出さなかったタイプのオメガだ。 アレは自分で色んなことに片をつけたいオメガで、何かや誰かに頼らない。 大人しくしているタイプじゃない。 アイツがキョウちゃんの好みのタイプじゃなかったなら、アイツに絶対に手を出してない。 あの時は嫉妬で判断が狂ったのだ。 キョウちゃんがあのオメガを褒めたから。 キョウちゃんを連れてどこへ? 外へ行かれている可能性もある。 早く見つけないと。 早く早く。 ああ、キョウちゃんに何を吹き込む気だ? ヤバい ヤバい。 本当にヤバい。 オレは迷わなかった。 あのオメガを見つける方法なんて知ってるからだ。 携帯に登録してあるその番号にかけるのは初めてだった。 すぐに出た。 向こうも番号でオレだと分かったんだろう。 お互い本人から直接手に入れた番号じゃないところがオレ達の関係を語っている。 「お前のオメガは今どこにいる」 オレは余計なことは言わなかった。 「知らん。それに何故お前がそんなことに興味を持つ」 唸るようにソイツが言う。 自分のオメガに手を出した奴をアルファが許すわけがなく、オレとコイツはいつでも殺し合いができる間柄で、コイツは隙あればオレを破滅させようとしているし、オレもコイツをウザイから潰そうと、互いにやり合ってるのだが、直接話すのは卒業以来だ。 ビジネス関係では常に対立しているが。 「お前のオメガがオレのキョウちゃんを連れ出したんだよ!!早く居場所を教えろ!!」 オレは怒鳴る。 慎重に接触すべき敵だが、余裕はない。 「キョウちゃん・・・お前のベータか?ミサキがお前のベータに?」 面白くもなさそうに、でも、戸惑うようにソイツは言う。 ミサキってのはキョウちゃんを連れ出したオメガで、コイツの番だ。 「ああ、そうだよ。オレがミサキをイカせまくってた時にそれを見ていたベータだよ!!」 オレはあえて挑発する。 お前の可愛いオメガに欲情していたベータと、お前のオメガは一緒にいる、と。 「居場所教えろ。どうせ、居場所、いつでも確かめられるようにしてんだろ」 オレは言った。 オレはキョウちゃんを信じているから何もつけちゃいないが、コイツは絶対に番にGPSくらいつけてる。 オメガには内緒で。 「オレもおまえのオメガにキョウちゃんに手を出されたら困るんだよ!!」 オレはそこは本音で言った。 アイツ、ミサキはオレを恨んでるし、自分のアルファであるコイツも恨んでる。 元々ミサキがオレに関心を持ったのは、コイツがミサキをレイプしたからだ。 ミサキはコイツを嫌って、でも執拗に自分に付きまとうコイツを遠ざけるために番を必要としていた。 そのためにミサキはオレを選んだのだ。 アルファらしくないアルファだったから。 結果オレからも酷いことをされてしまうわけだが。 そして、その結果とうとうコイツに番にされたしまった。 オレがイカせまくったミサキにコイツが何をして、どう追い詰めて番にしたのかはわからないが、ミサキに恨まれているのは間違いないし、ミサキは機会があれば絶対に復讐するタイプだ。 見逃さない。 ミサキがコイツの言うことを聞くわけがないし、コイツがミサキを逃げないよう監視していないわけがないのだ。 ミサキはオレ達を恨んでる。 嫌がらせでキョウちゃんとセックスぐらいしかねないところはあるのだ。 「そこ、水族館だな?1階の東端にある廊下の突き当たりにある部屋にいる」 すぐに答えが返ってきたし、どれだけ高性能の位置特定装置つけてんだ、キモイ、と思ったが、お陰で助かったのは事実だ。 走る。 もうどうでもいいので 携帯を切ろうとしたら、言われた。 「ミサキに少しでも触れたら殺す」 本気だったし、それを疑うことはない。 一度キョウちゃんの目の前でミサキをイカせまくっているからだ。 だが、そんな真似もうするわけがない。 「触らないが、キョウちゃんに何かあったらミサキを殺すから、その前に回収にこい!!」 オレは怒鳴った。 本気で言ってた。 直ぐに来るだろう。 ミサキをどこかへ連れ去ってもらわなければ。 2度とキョウちゃんに近づけないようにしなければ。 オレは走る。 キョウちゃん。 どこまで聞いた? どこまで。 オレは怯えていた。

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