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第48話

オレは息が出来ない。 苦しい。 とても苦しい。 「わかる、よ」 オメガが言った。 淡々と。 本当に、分かって、いるのだと思った。 「信じてたものが崩れ落ちる感じ。僕だってシンを信じていたからね。アルファだけど良い奴で、下半身はゆるいけど、恋人にはなれなくても友達になれると思ってたしね。番になれたら幸せだな、と思ってたよ。アイツにレイプされた僕に優しくしてくれたしね。でも、アイツよりタチが悪かった。アルファに優しさなんてモノはないんだよ」 オメガの言葉が怖かった オレの知らない、もう一人のシンがいた。 先生はシンがオメガに関わろうとしない、とは言っていた。 シンは学園のオメガとセックスしていることを先生に隠していたのだろうか。 「シンはオメガに優しくしてね、番とかそういう鎖に繋がる必要なんてないんだよ、とか言ってね、アルファに捕われるのが怖いオメガを安心させてセックスしてたんだよ。オレは遊びは嫌だったから、しなかったけど」 オメガは言う。 「合意は合意だけどね。僕をレイプしたあのクソ野郎とは違う。でも、シンは自分のための道具にしていたということでは同じ位、クソだよ」 オメガの言葉が刺さるのは、シンがオレにはそうではないとそれでも信じているからだ。 オレとシンの繋がりだけは疑ったことはない。 オレ達は狭い部屋で互いにだけを抱きしめて育ったから。 オレ達は絡みつき混じり合い、互いがいなければ立てない位になっている。 でも、シンがオレ以外の人にどんな人間であるかなんてオレは疑ったことはなかった。 「アルファやオメガに関わっちゃいけない。あんたは逃げれるんだ。逃げるんだ。逃げるべきだ。せっかく自由に生きられるのに」 オメガの声は悲痛で、彼が自由ではないことを教えられた。 そして怒っているのだ。 オレに。 シンのその面を見ようともしなかったオレに。 オレはシンに愛されていることしか見て来なかった。 疑いもしてこなかった。 だからシンのしてきたことはオレの罪でもあるんじゃないか。 そして身悶えるような苦しみ。 シンがオメガ達と身体を繋いでいったこと。 美しいオメガ達の中へ入り、そこでオレには出来ないことを堪能し、美しいオメガ達の身体で楽しんだのだ。 嫉妬? そんなものでは足りない。 オレは本当にシンだけなのだ。 キスもセックスも何もかも。 シンしか知らない。 シン以外を求めたこともない。 なのにシンは・・・ でも、シンは、シンは、アルファだから・・・ 「アルファだからどうとか、関係ないでしょ。寿命縮めて強烈な抑制剤で本能を抑えて、ベータとして生きるアルファだっている。それをしないのはシンが欲深いアルファだからでしょ」 オレの奥にある思いを見透かすのはオメガだ。 でもそんなことをすればシンは早く死ぬ。 40歳まで生きれば良い方だ。 そんなのダメだ。 「でも平気じゃないでしょ」 オメガの言葉がオレの心を砕いていく。 オメガは無表情で夢見るみたいに綺麗だった。 そう、平気じゃない。 シンがオメガを抱いていた。 平気なわけがない。 キスも、シンが入ってくる感触も、オレだけのものじゃない。 それが辛い。 「可哀想」 そういうオメガの顔には何の表情もないのに なんて綺麗なんだろう。 こんなに綺麗だからシンはオメガを抱いたの? 綺麗なオメガ。 「ねぇ、シンやアルファ達だけが好き勝手できるなんて腹が立たない?僕やあんただけが、好きにされるなんてムカつかない?」 感情のない声なのに、怒りがわかるのは何故だろう。 オメガはいつの間にかオレのすぐ傍、抱きしめているかのような距離にいた。 甘い匂いがして。 オメガは綺麗なお菓子みたいだと思った。 「可哀想。可哀想なベータ。アルファなんて好きになっちゃダメだよ。オメガを好きになるよりタチがわるいよ」 綺麗な指がオレの頬に触れた時、オレはビクンと震えた。 なんで?わからない。 「どうせもう【女の子】にされたと思いこんでいるんでしょ。それがアルファの手だから。大丈夫。ちゃんと男だよ。まだ知らないだけ。教えてあげる。アルファなんかじゃ教えられないこと。そしたら、もう自分は【女の子】だなんて二度と思わないから」 囁く声がなんか、エロい。 頭の中がぐちゃぐちゃで、もうよく分かんなくて。 「泣かないで。慰めてあげる」 その声だけが、重く甘かった。 なんだか、もう、よくわからない・・・ 「ああ、これは可愛いな、シンの気持ちもわかるな」 そう囁く声と、綺麗なオメガに抱きしめられたのは、なんとなく覚えていた。

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