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第49話

「キョウちゃんから離れろ!!ミサキ!!」 シンの怒鳴り声がした時、気がつけばオレはあと少しでオメガとキスするところだった。 なんかもう良くわからない。 色んなことがわからない。 「もう来たのか」 オメガがそう言って舌打ちするのと、シンがオレをオメガから引き離すのは同時だった。 「キョウちゃん大丈夫?何にもされてない?」 シンがオレの顔を撫でながら首筋や耳、シャツの隙間から肌を確かめていく。 「アルファなんかじゃホントにはベータを虜に出来ないよ。僕ならその人本当の意味でトロトロにしてあげれるのに。ちゃんと【女の子】なんかじゃないって教えてあげられる。シンが嫌になったらおいで。あんた可愛いからね。オメガを抱いたらアルファなんかすぐに忘れられるから」 オメガがシンを見ながら鼻で笑った。 オレはなんだかぼんやりしてて。 もうなにも考えられなくて。 シンにしっかり抱きしめられても、なんだか無感覚で。 なにもかもが遠かった。 「キョウちゃんに何した、何言った!!」 シンが怒鳴る。 空き部屋のドアが開け放たれて、シンの怒鳴り声に人が中を覗いてくるけど、オレもシンもオメガもどうでも良かった。 「本当のことを言っただけ。あの頃シンは学園の抱けるオメガは全員抱いてたって話をしただけ」 オメガは冷たく言う。 「モテたよね。シン。オメガに優しかったもんね。みんなオメガな自分と、グイグイ迫ってくるアルファが怖かった。特に新入生には優しかったよね。自分がオメガなことも良くわからない方が簡単にさせてくれるもんね。オレにも優しいこと言っておいて、あんな真似したもんね」 オメガの言葉にシンは何も言い返さない。 あの時のことを思い返せば酷すぎる。 シンはレイプされた彼にそのことを当てこすりしたのだと今ならわかる。 他のアルファと寝たオメガだと侮辱したのだ。 その時にも酷いと思ったことは、もっと酷いことだった。 それに新入生のオメガをシンが好んでいたというのもショックだった。 オレは学園に行った時の、まだ子供にしか見えないオメガ達を思い出した。 あの時さすがにシンに勧めるのは無理だと思ったのだ。 10歳や11歳位の小さなお人形さんみたいなオメガ達。 大人より大きなシンがあのオメガ達の何人かとしていたのかと考えたなら、震えてしまった。 あんな小さな子に。 オメガは子供ではない、とされてはいても。 まあ、それにシンもあの頃は13歳だったとしても。 「無理強いしたことはないし、オレから誘ったことは一度もねーよ。お前だって知ってるはずだ」 シンは唸った。 シンはもう、否定しなかった。 「否定しないんだ」 オメガは笑った。 冷酷な笑顔だった。 「そう。そうだね。そういう雰囲気をつくって相手の方から言わせるんだよね。迫って来るばかりのアルファの中で、そういうのが【優しい】んじゃないかと思うんだよね」 皮肉な声。 シンは何か言い返そうとして、オレをみて止めた。 オレの両耳を覆うようにして自分の胸に押し付けらる。 なにも聞いて欲しくないように。 オレはもう 聞こえていても聞こえていなくても一緒だった。 シンは珍しく狼狽えていて、何か言おうとしてやめることをくりかえす。 オレへと不安気に目を何度もやるのがわかるが、それすらオレはどうでも良かった。 「ミサキ!!」 また別の声がして、大きなアルファが飛びんできた。 スーツ姿で。 アルファだろう。 みたらわかる。 シンより大きい。 「連絡してから何分もかかってねぇぞ。どうやってきた、キモイぞ」 シンは少し元気になって毒づいた。 「ホントキモイよね」 意外にオメガもシンに賛同した。 だから。 これがこのオメガをレイプして、そして後に番になったアルファだと分かった。 もうなにもかもが。 気持ち悪かった。

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