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第50話

オレを抱きしめ、部屋に入ってきたアルファを睨むシン。 なんかもうぼんやりしてるオレ。 冷ややかにアルファをみつめるオメガ。 どれだけ走ってきたのか息を荒らげ、肩を上下しているアルファ。 それぞれの表情があまりにもバラバラだった。 とにかくやってきたのは大きなアルファで2メートルくらいあるかもしれない。 アルファらしい迫力のある美しい男だったが、アルファのにしても野生味が強く、ベータのオレには威圧感が強すぎた。 オレはアルファの存在感に身を竦める。 シンはさらにオレを抱きしめた。 アルファはオレもシンもみてはいなかった。 見てるのはオメガだけ。 「ミサキ、帰るぞ!!」 唸るような声で言う。 獣の声。 支配者の声。 が、ミサキと呼ばれたオメガは聞こえないフリをした。 完全な無視だ。 まるで何の音もしなかったような涼しい顔でオメガは無視している。 オレはその声に怯えてさらに小さくなったのに。 シンはさらに俺を守るように抱きしめる。 沈黙がある。 そして。 「・・・ミサキ・・・頼む・・・帰ろう・・・」 困ったような声で言ったのはアルファだった。 オメガの前で大きなアルファが膝をつき、オメガの両手を握り哀願する。 アルファがこんなことすることがあるんだ、と思った。 シンも甘えて「お願い」はしてくるけどこんな風に、頭を下げるようなことはまだしたことがない。 プライドの高いアルファが人前で番とはいえオメガ相手に懇願していた アルファは本能として誇り高い。 より高い地位を目指す生き物だからこそ。 なのに。 でもそれを見てもオメガの目は冷え冷えとしていて、凍えて刺さるようで。 「ミサキ・・・お願いだミサキ・・・」 アルファの懇願は哀れなほどで。 オメガは舌打ちした。 そしてアルファの手をふりはらい、でも渋々という風に歩き出した。 その後をホッとしたように大きなアルファが追う。 冷たいオメガの目 アルファの懇願。 この番である二人は、番ではあっても地獄を生きているのだ、とわかった。 でも。 それはオレ達も同じで。 「帰ろう・・・シンちゃん、家でゆっくり話をしよう・・・ね?」 必死でオレを覗きこみながら言うシンの様子に、オレは何も感じられなかった。 感覚がなかった。 オレは。 どうすれば良いんだろう。 今は何も考えたくなかった。

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