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第53話

そこにはまだ幼いオレがいた 父親が出ていって、母親が荒れだした頃の。 父親が出ていった理由は聞いてない。 母親だけが悪かったわけじゃないだろう。 でも。 そんなの。 小さなオレには関係無いはずた。 オレは泣いていた。 まだ諦めを知らなかったからだ。 泣けばとにかく母親の気をひけると思っていた。 まだ一人、諦めることを知らず、帰って来ない母親を一人ぼっちで待っていた。 「泣くな。どうせ帰ってこないよ、母さんは」 オレは小さなオレの隣りに座りそう言った。 自分に優しくするのは難しい。 「さびしい・・・」 小さなオレが言う。 「怖い・・・」 一人しかいない家がどれほど怖かったのかを思い出した。 小さな身体にはこの小さな部屋ですら大きく、自分を押し潰そうとしていると思ったのだった。 「仕方ない。助けてやりたいけど、オレはお前だしな」 オレはため息をつく。 ここへ来たのが何故なのか、ここへ来るために何を忘れたのかは忘れてしまってた。 だけど何か目的があったんだ。 これが自分の夢だとも分かってた。 「ひとりはいや」 ちいさなオレが泣いてる 「そうだな」 オレは小さなオレの肩を抱いて言った。 自分で自分を抱きしめてる小さなオレが可哀想になったのだ。 一人は嫌だな。 いや、本当にそうだったのか? 一人より辛いことがあったんじゃないのか。 オレは夢の中で考え込んだ。 どうしてオレはここまで来たんだろう。 何から逃げて? 「ちがでてるよ」 小さなオレがオレを見て言う。 焼けるように胸が痛い オレはオレの胸を見た。 穴が開いて血が流れていた 大きな穴だ。 痛いはずだ。 そう思った 「ずっとひとりなの?」 小さなオレがオレに聞く。 心配なのだろう。 そらそうだ。 今まで生きてきた倍以上は生きることが分かっているんだから。 「いや」 そう答えたら胸の穴から血が吹き出した。 ひとりじゃないことかやはり辛いのだオレは。 ひとりじゃなかった。 誰かがいた。 それがつらい。 「いたいね」 ちいさなオレはオレに優しかった。 「痛いよ」 オレは切なくてたまらない。 忘れたのに辛い。 また血が吹き出した。 ああ、痛い。 「ずっとここにいる?」 期待に満ちた目で小さなオレが言う。 良いかもしれない。 ここで。 何かか始まるまえのここで、永遠に小さなオレと一緒にいるのもいいかも知れない。 小さなオレも、オレがいたなら寂しくないだろう 「そうだな」 オレは曖昧に笑った。 そうしてしまおうか。 そう考えた。 そうしてしまおう。 そう決めた。 だって辛かったのだ

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