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第68話
オレが浴室で服を脱がせてもキョウちゃんは逆らわなかった。
シャワーでまず自分を洗った。
ミサキの匂いや体液を消す。
それから、キョウちゃんを抱きしめた。
ついでなのでキョウちゃんも洗ってあげる。
優しくスポンジで身体を擦り洗い流して、髪も優しくやさしくその肌を洗う。
オレのモノであるキョウちゃんを洗うのはオレの好きなことの一つだ。
隅々まで綺麗にする。
だけど、性的な感じにはならないように気をつけた。
今すんのは。
ちがう。
こんなオレでもわかる。
オレは嘘はついても誤魔化さない
キョウちゃんはその間ずっと幼い子供みたいにしゃくりあげていて、とても可愛かった。
「オレだけって言った」
キョウちゃんが泣く。
「うん、ごめんね」
オレはキョウちゃんを膝に載せ、髪を流して洗あげながら言う。
綺麗に泡を流して、優しく濡れた頭と首筋にキスをした。
「オレは。シンしか知らないのに!!酷い・・・」
キョウちゃんの声が悲痛でそこには胸が傷むが、それは当たり前だろ、とも思った。
オレ以外の誰かがキョウちゃんに触れていいはずないだろ。
そんなの許すわけがない。
「ごめんね。でも、キョウちゃん。キョウちゃんが恋人になってくれてからは本当にキョウちゃんだけだったんだよ」
オレはヌケヌケと嘘をつく。
キョウちゃんはそれを信じるしかない。
だってそれが嘘なら苦しいからだ。
「キョウちゃんがもう逃げないなら、ずっとキョウちゃんだけ」
オレは嘘をつき、しかもそれで脅した。
「キョウちゃんがまた逃げたら、またミサキとするよ?何度も何度もミサキの中に、キョウちゃんのモノであるチンポ突っ込んで、キョウちゃんの中で出すべきだった精液ぶちまける。キョウちゃんをイカせる代わりにミサキをイカせて、ミサキの中でキョウちゃんがして欲しいとを全部する」
これは本気だった。
キョウちゃんを傷つけるのは嫌だ。
でも、オレから離れるなら話は別だ。
どんなに傷つけても、逃がさない。
ひどいことだと分かってる。
キョウちゃんはオレの膝の上で絶句した。
オレを突き飛ばすようにして立ち上がり、そして思い切りオレを殴りつけた。
オレは大人しくそれを受けた。
キョウちゃんは怒りに顔を歪ませて。
とてもとても。
可哀想で愛しかった。
何度も何度も殴られた。
オレがアルファじゃなければ、痛みや苦しさとして受け入れてあげれたのに。
ただ一方的に傷つけられるキョウちゃんの、これは最後の抵抗なのに。
でも。
オレはアルファだから。
こんなの。
大して効かないんだごめんね。
ナイフや包丁でも。
ベータの力じゃ致命傷を与えるのは難しいかもしれない。
オレたちアルファは化け物なんだよ。
アルファが怖くて誰も言わないけど。
ごめんね。
オレがキョウちゃんを止めたのは、キョウちゃんの拳がもう、痛み初めていたからだ。
しばらく手を使えないだろう。
キョウちゃんは殴り方も知らないのに殴り続けていたからだ。
抱きとめるとキョウちゃんは怒った。
止められたから。
キョウちゃんの痛みには程遠いから。
「ごめんね、ムダなんだよキョウちゃん。いくら殴ってもオレには効かないから」
そう言うとキョウちゃんは悔しさに泣き崩れた。
そしてオレの胸に顔を埋めて泣く。
可哀想な。
可哀想なキョウちゃん
こんな時に縋り付けるのが、傷つけたオレだけだなんて。
「辛かったね。ごめんね」
オレはやさしく言った
「オレを・・・抱きながら他のヤツらと比べたのか」
キョウちゃんが呻く。
そんなことか、と思うが、キョウちゃんの苦しさを思って答えを言う。
「比べたことなんかないよ。キョウちゃんは特別。キョウちゃんだけ」
それは本当で嘘だ。
オメガを抱く度、キョウちゃんの繊細な孔と比べてるし、最初から貪欲なオメガではなく、オレが育ててエロくしたキョウちゃん身体を思って堪らない気持ちにってる。
だが、そんなこと言えるわけがないから、言わない。
「コレからはキョウちゃんだけ。確かに恋人になってくれるまではオメガを抱いたことがあるよ。でもキョウちゃんさえ逃げなければ、もう二度と抱くことなんてなかった。オメガだろうがベータだろうが。だから逃げないでね」
嘘をつく。
オメガとヤリまくっていたのをオメガとした事があると矮小化し、恋人ではなかったからだと正当化する。
そして責任をキョウちゃんになすりつける。
そしておどす。
オレは卑劣だ。
だけどキョウちゃんを逃がさないためだったら何でもするし何でも言う。
キョウちゃんの濡れた身体が冷えてきたので、用意してあったお湯に入る。
お湯は循環させてあり、何時でも入れるように温度も一定に保たれている。
今日は風呂に入るのは分かってたから。
こうやってキョウちゃんと入るのは想定外だったけど。
キョウちゃんは、オレの腕の中でギュッと目を閉じていた。
その辛そうな顔から、キョウちゃんがもう逃げていないのがわかって、安心して。
そして、オレが言えることではないが、キョウちゃんが苦しいことがとても辛かった。
でも暖かいお湯の中で。
アルファが入っても十分大きな特別製の浴槽で、キョウちゃんを抱きしめているのは、でもとても気持ち良かった。
でもキョウちゃんにはちがうのだ。
「キョウちゃん、オレの腕を切り落とそうか。それとも目玉を抉り出す?死んだらキョウちゃんに会えなくなるし、腕二本とか目玉2つ無くしたら、他のアルファと戦うのに不利になってこの世界から消されちゃうかもしれないから無理だけど、キョウちゃんだってオレを傷つけるべきだ。キョウちゃんが言うならオレの身体の部品一つくらい無くしていいよ」
オレはキョウちゃんに言った。
本気だった。
キョウちゃんだけ傷つくなんて、そんなのない。
オレが傷つくのをキョウちゃんだって見なければ。
オレが本当に傷つくのはキョウちゃんが居なくなった時だが、その時はキョウちゃんはそれを見ることが出来ないのだから。
「・・・オレがそんなことを言うわけないだろ」
キョウちゃんが言った。
その通りだった。
キョウちゃんは傷付くオレの姿など絶対に望まない。
「・・・オレばっかり・・・愛してる」
キョウちゃんの嗚咽のような声に、胸を刺される。
そう。
苦しいのはキョウちゃんばかり。
それでも、こんなに奪うばかりでも。
キョウちゃんに愛されたかった。
「ごめんね。でも、愛してる。愛してるんだ。本当にキョウちゃんだけなんだ」
キョウちゃんの髪にキスしながら言った。
キョウちゃんが胸に頬を擦り付けてきたから、顎を上げさせて、優しくキスした。
触れるだけの優しいキス。
セックスよりはるかに大切なキス。
「ごめんね、キョウちゃん。愛してるんだ。逃がしてあげられなくてごめんね」
オレは言った。
もう逃げられないと悟った、哀れな獲物を抱きしめながら。
キョウちゃんは。
オレを愛してるいるので、もうどこにも逃げられない。
それはオレにだけ、とても幸せなことだった
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