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第69話

キョウちゃんの身体を拭いてやってから着替えが寝室にあるのを思い出した。 さすがにミサキがまだ裸で寝ているあそこへキョウちゃんを連れて行くほど無神経じゃない。 更衣場の洗面台にある椅子にキョウちゃんにバスタオルをかけてすわらせ、オレはバスローブを羽織り、着替えを取りに向かう。 オレのここに置いてる着替えではあまりにもデカすぎるが仕方ない。 車で家に帰るだけだからいいか。 家に帰ってもっとキョウちゃんに優しくして。 今日は寄り添って眠ろう。 傷付いたキョウちゃんを癒せるのも、オレだけなのだ。 それはとても酷い話だけども。 寝室を開けたらミサキはオナニーしていた。 そらそうだ。 強欲なオメガが1度で満足出来るわけないし、それに今日初めてミサキは自分から望んでセックスしたのだ。 その興奮がおさまるわけがない。 ああっ あっ ああっ 切ない声で悶えながら、乳首を弄り、オレの精液がこぼれる孔を自分で掻き混ぜるミサキは正直、相当、エロかったが、手を出すわけがない。 「気がすんだら帰れよ」 オレはミカキを見ないようにして寝室の奥のクローゼットから服を取り出しながら言った。 感謝はしてる。 それに。 一度抱いたオメガに。 アルファは執着する。 そう、執着はある。 ある、のだ。 ちなみにオレが抱いてきた学園のオメガ達。 彼らは今、この世にいない。 なぜなら、オレが彼らの番のアルファをおいつめたこらだ。 もちろん、アルファ同士の競争の上だ。 ちゃんとやり合った結果だ。 絶望した彼らは、番のオメガを連れて死んだ。 アルファは番を置き去りにして死なない。 手放したくないからだ。 一緒に連れていく。 アルファが死ぬ時、番を殺すのはわりとありがちな出来事になっている。 子供でもいれば別だが。 自分の子供にもアルファは執着するから。 子供のために母親のオメガを生かすことはあっても。 可能なら番のオメガを連れて行きたいとアルファなら思う。 アルファがオメガへの執着を断ち切る方法は、オメガが死ぬことだけ。 彼らがオレが抱いたオメガを【殺してくれた】ので、オレは先生以外のオメガへの執着から自由になれた。 抱いてしまったオメガへの執着は番へのものとは比べモノにならないが、でも、確かにある。 それはオレには不要だし、キョウちゃんと生きることには危険なものだ。 もちろん、オレはなにもしちゃいない。 オメガ達のアルファに勝っただけだ。 それだけ。 それだけ。 だが、消えてくれて良かった。 不必要な執着などいらない。 オレはキョウちゃんだけでいい。 ユキ先生は必要だからいい。 これからも必要。 だが、ミサキはどうする? オレはもう既にミサキに執着しているかもしれない。 だが。 ミサキは恩人だ。 そう思ってしまうところがもう、ミサキへの執着になるのかもしれない。 さっきキョウちゃんから庇ったのも。 アルファというのは。 本当に厄介だ。 本当に。 いずれ、ミサキも。 消えて貰わないといけないかもしれない。 まあ、その為には。 ミサキの番を。 あいつは厄介だ。 この長年やり合ってきたから良くわかる。 いや、そんなことより早くキョウちゃんの元へ行かないとキョウちゃんが不安がる。 オレは慌てて、ミサキを置いて寝室を出たその時だった。 グギイイイイ 凄まじい金属を擦り合わせるような音と、衝撃がした。 玄関からだ。 流石におどろいて玄関へ向かう。 玄関の鉄製のドアが裂かれ火花が飛び散っていた バスタオルを腰に巻いただけのキョウちゃんが飛び出してきた。 オレを案じて、だ。 昔からそう。 何かあったらまずオレを守ろうとする。 それに感動しながらも、キョウちゃんに言う。 「キョウちゃん下がって」 オレは言った。 まあ、キョウちゃんに何かすることはないと思う、が。 一応。 思った以上に早かったな。 大したもんだ。 グキィイイン グギイイイン 見たこともデッカイ無い道具で、火花を散らせながらドアを切り裂いて入ってきたのは。 ミサキの番だった。 早かったけど、もう遅かったな。 ミサキは美味しく頂いた。 キョウちゃんがいるからそうは言わないけど。 巨大な火花を飛び散らせる、唸る振動音がする兵器のような道具を軽々と担いで現れた、オレより大きなアルファ。 最後は蹴りで鉄のドアを吹き飛ばしてた。 アルファは化け物で、ホラー映画の登場人物にうってつけだとこれ程分からせてくれるキャラはいないとオレは思った。 鬼の形相でオレを睨みつけて。 なのに。 キョウちゃんがオレの前に飛び出して手を広げたのは、オレ的に胸熱だった。 もうどうしようキョウちゃん愛してる。 オレはブチ切れてるアルファなんかどうでも良く、そう思ってしまったのだった。

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