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第70話
タオル1枚腰に巻いただけのキョウちゃんがオレとソイツの間に立ち塞がったのには、髪が逆立つ位怒っているアルファでも毒気を抜かれたらしい。
なんだかポカンとアルファはキョウちゃんを見てた。
素手でしかもタオル1枚でアルファに立ち向かうのは、オレでもしない。
てか、オレもバスローブ1枚なんだけど。
「ルール違反だぜ。オレはお前のオメガを攫っちゃいない。ミサキは【自分】で、【歩いて】、この部屋に来たんだからな。【番を取り戻しに来た】ってのは使えないぞ」
オレは忠告した。
アルファは殺し合うような競争をお互いにし合っているわけだ。
この世界はアルファのためのゲームだから。
アルファはその勝負のためだけに生きてる。
本能だから仕方ない。
一位を目指す生き物なのだ。
だが、だからこそ、本能レベルでルールは守る。
というか。
守らないアルファはアルファ達から消される。
普段絶対に協力し合わないアルファがそういう存在を消すのだけは協力しあう。
なぜなら。
ゲームが面白くなくなるからだ。
ゲームにはルールがある。
アルファの家にこうやってドアを破って侵入するのは、アウトだ。
「ミサキはどこだ。ミサキさえ返せば何もしない。ミサキを返さないなら・・・」
オレに向かってアルファは怒鳴る。
アルファは牙を剥いてキョウちゃんへと目をやった。
おっと。
ルール違反2つ目。
罪もないモノを身代わりにするのはアルファとして恥じるべき行為だ。
だが、まあ。
オレも。
人の番に手を出すな、というルール違反をしているのでお互い様か。
ここはお互い無かったことにするしかない、と理性ではお互い分かってるいるが。
オレはオレのキョウちゃんで脅されたことで頭にキてるし、コイツはコイツでミサキに手を出されたことにキレている。
だが。
だが。
殺し合うのは何時でもできる。
「ミサキなら寝室だよ」
寝室、にアクセントを付けていった。
まあこれくらいはいいだろう。
今オレとのセックスの余韻でオナってる、とか 言わなかったのは、キョウちゃんがいたからで、キョウちゃんもまたミサキの存在に傷ついてしまうからだ。
オレはオレの前で震えながら、でも、アルファを睨みつけているキョウちゃんをそっと抱き寄せながら言った。
こんなに怖いくせに。
迷いさえしない。
オレの勇敢なキョウちゃん。
「お前のベータに免じて今日殺すのは止めてやる。いつだって殺せるしな」
アルファは言った。
「それはお互い様だ。こっちもミサキに協力してもらったからな。ミサキもトラブルは嫌だろう。今日殺すのは止めてやる」
オレも言った。
いつかどちらかが死ぬ。
殺し合って。
でもそれは。
今日じゃ無い。
それはお互い分かってた。
アルファは寝室へ向かった。
この先のことを考えるとミサキが気の毒になった。
この感情もミサキへの執着なのかもしれないなら面倒だが。
「キョウちゃん、さっさと帰ろう」
オレは言って、その場で手にしていた着替えをキョウちゃんに急いで着せて、オレも着る。
すぐにこの部屋を出たかった理由は。
寝室からミサキの声が聞こえてきたからだ。
「嫌だ。出ていけ!!嫌だって言ってるだろ!!!触るな!!来んな!!」
ミサキが泣き叫んでいる。
間に合わなかったか。
これをキョウちゃんには聞かせなくなかったんだ。
キョウちゃんが真っ青な顔をしてオレを見る。
「番のオメガとアルファに【レイプ】はないんだよ。キョウちゃん」
オレは淡々と言った。
それは本当だった。
そんなもんない。
番ってのはいつでもヤるだけの関係だ。
「でも、嫌だって言ってる」
キョウちゃんの言うとおりだ。
「嫌、はなせ!!やめて!!」
ミサキの悲鳴がきこえる。
あんなのレイプだ。
オレもそう思う。
でも。
すぐに。
あひぃ
ひいいぃ
オメガがアルファに犯されて感じてる声が聞こえてきた。
ミサキがどうしようもなく、アルファに感じさせられている声だ。
とんでもなくエロい声なのに、キョウちゃんはその声に怯えた。
さっきまで抵抗していた人間の出す声じゃなかったからこそ。
そう、ミサキは、いや、オメガは番に触れられたなら、1番感じてしまうのだ。
ミサキが相手をどう思っていようと。
アルファとオメガの【番】である絆はあまりにも深い。
【番】に1番狂うのだ。
愛とかそんなの関係ない。
【番】であるかどうか、が1番なのだ。
「アルファとのセックスが始まってしまったなら、もうオメガは満足するまでしてしまうんだよ。オメガも欲しがってしまう。それが番のアルファとオメガなら尚更。だからもう、止められないんだよ。アルファは番にした以上、絶対にオメガを抱くし、オメガは死ぬまでそれに応えるしかない」
キョウちゃんに説明して、オメガではなくキョウちゃんを愛してることの素晴らしさを思う。
アルファのオメガへの愛なんて。
食べ物への愛みたいなもんだ。
可哀想なミサキ。
オレの精液を番のペニスで全部掻き出され、代わりの精液で満たされ、オレが付けた跡の上からマーキングし直すまで、止めてもらえないだろう。
愛しいから殺さないけど、殺す寸前まではやるだろう。
嫉妬に狂って。
可哀想なミサキのセックス。
それがミサキの毎日。
でも。
アルファが必要なのはオメガも同じなのだ。
キョウちゃんは。
そんなアルファとオメガの暗黒部に触れて真っ青になってた。
ベータの知らないこと。
レイプではないとされるレイプ。
それはアルファとオメガの間にあり続ける。
「キョウちゃん。アルファでごめんね。ごめんね。・・・オレをきらわないで」
オレはキョウちゃんを抱きしめた。
ミサキが狂ったように欲しがり求める声が聞こえる。
アルファが、獣のように唸る声も。
化け物達。
化け物。
それはオレもで。
「・・・・・・嫌うもんか。誰にも渡さない」
キョウちゃんが、そう言ってくれたから。
オレは。
誰よりも幸せだった。
本当に誰よりも。
壊れた部屋のドアをそのままに、狂ったようにセックスしてる二人を置いて出ていく。
修理は数日後でいい。
まあ、ミサキの番が後はなんとかするだろ。
まあ、あんなドアの壊し方して、騒ぎにならないで、警察も来ない時点で、もうアイツが何かしら工作してるからだろ。
この家を割り出した時点から、色んなところに手をまわしてどうにかしているに決まってる。
とにかく。
今はどうでもいいのは、あのアルファもオレも一緒だった。
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