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「いいか、やるとなったらちゃんとやるぞ」  翌日、蘇芳は女官たちを集めると、書庫から物色してきた二〇巻近い木簡を机に積み上げた。  全てローマ国教と国教式の婚礼について記した資料である。 「そんな本格的にしなくても……」 「ただ着飾ったひい様を見て楽しめばいいのに……」 「融通の利かない男ですわー」 「やかましい、やると言ったのはお前たちだろう。そら、我々でも使えそうな記述を手分けして掘り起こすぞ」 「うわぁめんどくさいー!」  三人が声を揃えた。  二刻後──。  膨大な木簡の中から有効そうな箇所だけを抜き出し、まとめると何とか式次第の流れだけは見えてきた。 「ええと……? 『キリストの姿を飾る』とあるが、キリストとはどんな風貌であったか?」  蘇芳が首をひねると、紅玉、木蘭、春麗が次々に意見を述べた。 「キリストってパレスチナ人なのでしょう? あの辺にいた有名人って誰だっけ」 「パレスチナ……エジプトの辺りよね」 「エジプト……あっ!」  ぽんっと手を叩いた春麗が、シルクロード渡りのパピルスを倉庫から出してきた。 「見て!」  というので皆で覗き込むと、パピルスには王の従者らしき男の横顔が描かれていた。  褐色で、頭に巨大なひょうたんのような帽子を被り、目はギョロリと大きい。 「キリストもだいたいこんな感じだったんじゃない!?」  というわけで、「近くに住んでいた男」という理由だけでそれがキリストのイメージに決定した。 「次は祭壇か。まあその、祭壇だろう? 机に布を引いて、唐国渡りの燭台に、蜜蝋の蝋燭を立ててだな……。あとは指輪か。銀製ならば容易に間に合うだろう」 「うんうん」  三人が頷く。 「問題はこの、讃美歌と聖書朗読、および誓いの言葉というやつだな。ラテン文字など全然知らんぞ……。これは地道に翻訳するしかなさそうだ」 「それは蘇芳様ががんばってー」  三人あっけらかんと上を向いた。  次は木蘭が資料の一部を指差して、 「せっかくクリスマスなのだし、この、ほ、ホスティア? とか言うのを食べてみましょうか?」  というので調べてみたところ、 「これは、よく分からんが洗礼? をした者だけが食べるようにと書かれているが」 「洗礼ってなんですか?」 と紅玉。 「洗うんだろう? 式の前に参加者はみな入念に湯浴みしろと言うのではないか?」 「ああ、なるほど」  蘇芳の解釈に、一同うんうんと納得した。 「じゃあこれは食べる、っと」  ホスティア、と書かれた文字を木蘭がキュッと丸付けし、式次第に組み込んだ。  その他の細部は当日までに少しずつ肉付けされ、関係各所に連絡を入れつつ、キリストの生誕祭・運命のクリスマスは、日一日と近づいていった。

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