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鬼崎side:歯車が狂い出した日、過去
生きてきた時間の、要らない部分だけを切り取って、無かったことにできたらいいのにと思う。そのあとは切った端と端を繋ぎ合わせて、なんでもなかったようにレールを走るんだ。
あのころには戻れないくせに、ずっとずっと追いかけてくる過去。
ずるいよな。失くすこともできず、誰とも代われないのなら、せめて忘れたままでいたかった・・・・・・。
◇ ◇ ◇
小学校の帰り、玄関のドアを開けてエナメルのハイヒールがないかを確認する。
居候させてもらっている叔父と叔母の家の玄関に、華奢で折れそうな母の靴が見えないことがわかると、俺は毎日いちように安心した。
それから落胆した。
悲しいよりも安堵が先立っていたのが救いで、沈んだ気持ちをいっそう掬いあげてくれる存在が庭で俺を呼んでいた。わんわんと、弾けるような嬉しそうな鳴き声。俺はランドセルも下ろさずに、外から庭に回ると、千切れんばかりに尻尾をぶんぶんと振りながらじゃれついてくるサンディを撫でた。
サンディは元捨て犬だった雑種の子。レトリーバー系の顔つきに立ち耳が合わさった大型犬。小学校低学年の俺の身長が一四〇センチちょっと。ぎりぎり制御できるくらいの大きさがサンディにはすでにあった。
しかしサンディは利口だった。子どもの俺の力をちゃんと理解しており、決して乱暴に走り回ることをしなかった。
「サンディ、散歩だ!」
俺の声にサンディは瞳を輝かせる。脚をもじもじさせるような仕草を見せ、それでもお座りの姿勢を保って待っていた。
「よしよし、いい子」
俺はサンディの首輪にリードを付けてやり、ランドセルを投げ出して、家の前の道に出た。
「また川に行こう、あそこにボールを隠しておいた・・・」
話の途中、サンディの脚が止まる。顔の角度を変え、遠くに鼻先を向ける。
「どうした? あ、お母さん」
俺の心臓がどきどきと音を鳴らす。母親に会うのに緊張だなんて馬鹿みたいだが、手に汗が滲んでいた。
その時、サンディが俺のリードを振り切って走り出した。動物を好まず、犬を可愛がらない母親に、いつもなら絶対に駆けて行かない。
俺は焦って追いかけ、声を張り上げた。
「サンディッ! 止まれ!」
怯えた顔をした母親、俺は目を見開いた。
母親の後ろに小さな人影があったのだ。大きめの服を着た足元もおぼつかない男の子。たぶん、サンディが気になったのは男の子が手に持っていたぬいぐるみで、俺のお気に入りだった白いクマ。
母親がまだそれを捨てていなかったことに驚かされ、サンディがぬいぐるみに染みついた俺の匂いを嗅ぎつけてしまったことにも驚かされ、様々な悪運幸運が重なって、最終的には最悪な方向に傾いてしまった。
サンディはまっすぐにぬいぐるみに突進し、母親が絶叫した。
悲鳴を聞きつけた叔母が家の中から飛び出してきた時には、サンディは男の子にのしかかり、腕に抱かれたぬいぐるみをべろべろと舐めていた。硬直した男の子は助け出された瞬間に、大声をあげて泣き出した。
当たり前だろう。相当、怖かったはずだ。
俺は何もできずに、起きた出来事を立ちすくんだまま見つめていた。
数日後、サンディは庭から姿を消した。叔父と叔母に訊ねると、気まずそうに「別の家にやった」と揃って口を動かす。
「なんで?」
「あの犬は危ないから、もう家に置いておけない」
全身が凍えたように固まった。自分同様にサンディを可愛がってくれていた叔父と叔母の言葉じゃないと、すぐにわかった。
そうして教えられた。あの男の子は母親の新しい結婚相手の連れ子で、珍しく溺愛しているらしい。子どもに愛情を注げる人だとは思わなかったが、連れて歩くくらいなのだから「あの子のこと」は愛しているのかもしれない。
サンディを暴走させてしまったのはこちらの落ち度。
母親は病院から直接電話をかけてきたそうで、怪我の程度を訊ける状態ではなく、切羽詰まった声に頷いてやるしかなかったのだと言う。
当初は処分しろと主張していた母親を説得し、引き取り手を探してくれただけでも感謝しなければならない。
ごめんなさいねと渡された家の住所に、俺が足を運べたのはサンディが死んだと聞かされてからだった。
快く迎えてくれたはずなのだから、毎日でも会いに行けばよかった。遊んでやればよかった。けれど、行けなかった。どうしても行けなかった。
永遠に晴らせない後悔と鬱憤。そうした思いを、俺は人知れず抱えて育った。
しかし中学に上がり、強く母親を求めてしまう子ども特有の寂しさは薄まってきた。比例してサンディとの哀しい出来事も忘れていけるかに思え、俺は胸を撫で下ろす。
そんなころ、再び俺の前に当時の男の子が現れたのだ。
母親が叔父と叔母の家に子連れで来たのはあの日が最後だった。
中学三年になっていた俺に会いにきた血の繋がらない義理の弟。五歳差の弟は小学生。母親にも俺にも似ていない。顔つきも変わり、最初は誰だかわからなかった。
硝子細工みたいな脆そうで痩せっぽっちの身体。同年代に比べたら背は低い方だった。
今さら何用かと訊いても、義弟は俯き、名前さえ口にしない。
俺はしだいに苛々してきた。護られるのが当然だと思っていそうな、軟弱な義弟の顔を見ていると苛立ちは加速する。
そもそも、全てはこいつのせいだ。自分が母親に愛されなかったのも、サンディが他所へやられ俺から取り上げられたのも、全部ぜんぶ、義弟がいたからじゃないか。
物凄く理不尽な理屈であると、頭では思っていたけれど、これまでの憤りをぶつける相手を見つけた俺は自分自身を止められなかった。
もはや、ていのいいサンドバッグだ。
俺は義弟が反抗しないのをいいことに、幼い身体を好き勝手した。といっても、小学生の男児相手にいかがわしい感情を覚える趣味はない。
叔父と叔母の目を盗んでは定期的に呼び出し、些細な暴力から始まり、適当な使いっ走りをさせ、受験生でもあった俺の日々のストレスを発散させてもらった。
それが変化したきっかけは、面白半分にエッチな動画を見せた時だった。どうせ大した知識もなく、自慰も未経験だ。お子ちゃまな反応を揶揄ってやろうと目論んでいた俺の胸の内は、ほんの数秒のうちに覆された。
こぼれ落ちんばかりに見開かれた瞼。携帯の画面を凝視したのち、恥じらうように伏せられた目元。
細すぎるうなじに、うっすらと浮いた汗。
俺の中の劣情がぢりっと音を立て焦げたのと、義弟の首をわし掴み、押し倒していたのは同時だった。ぎりぎりと両手で首を絞めながら、俺は義弟に馬乗りになっていた。
「・・・兄ちゃ」
どんなに乱暴に扱おうと、素直に呼び出しに応じてくる阿呆なおとうと。
口ごたえをせずに、従順で、まるで俺がいないと生きていけないみたいな顔をするのだ。
「黙れ!」
この時に初めて手加減なしで義弟を殴りつけた。
くぐもった悲鳴と、拳を濡らした血と涙が脳裏に焼き付けられる。
そこからは転げ落ちるようで、嬉しいという感情を覆い隠すように、罪もない義弟に無体を働き、欲望で汚した。
この関係は一年ほど続く。
終わりは唐突に訪れ、呼び出しに応じなくなった義弟に俺はホッとしていた。数ヶ月前に入学した高校での生活にやがて順応し、新しくできた友人と未来の話をするまでになれた。
と、思っていた。
次に義弟の近況を聞いたのは親代わりだった叔父と叔母の葬式時だった。事故で亡くなった二人。十九歳になった俺に家と遺産の殆どを遺してくれ、喪主は俺が務めた。
葬式の後半、酔っぱらった状態でふらふらとやって来た母親。あまりの泥酔具合に怒る気さえ失せる。
集まった親戚への挨拶、食事の準備、もろもろを済ませ、ようやく息をつけた時刻、相変わらず酔っ払っていた母親に話しかけられ、俺は不機嫌をあらわにし、まだ居たのかとぞんざいに返事をした。叔父と叔母が亡くなってから慣れない数日を過ごしていたせいで疲れていたのもある。
母親は滅多に見せない苦しそうな顔をした。その表情を見て、母親がちゃんと姉夫婦の死を悼んでいることと、この人が素面 では平常心以外の心の変化に耐えられない種類の人間なのだと突きつけられるように思い知らされた。
大嫌いなのに、憎めない。突き放せない。
血の繋がりが俺を蝕む。
仕方なく俺は「ごめん」と笑う。「どうしたの」と訊いてやる。
これから大人になる俺は、今度はこうやって母親に縛られるのだ。
休憩中は彼女の話に付き合わされ、そこで義弟の話題がぽっと湧いた。酔っているせいで支離滅裂な母親の口からおもむろに飛び出した話題だった。
「一応あなたの弟だった宏くんね」
「———ひろくん?」
そういえば俺は義理の弟の名前を聞いたことがなかった。
問いかけで返した俺の反応を無視し、母親は言いたいことだけを喋る。
「この前久しぶりに会ったら、こーんなに大きくなってて驚いちゃったわぁ」
「はあ? 一緒に暮らしてるんじゃないのかよ」
「やだぁ、何言ってんのよ! 別れて何年経つのかしらねぇ~」
絶句した。こちらの気持ちも知らないでケラケラと笑っている母親。
知らなかった。だとしたら、俺に会いに来たときの義弟はもう弟ではなかった?
結局最後まで明かされなかった理由はこれ?
あの日は、別れの挨拶でもしに来たつもりだったのだろうか。
「そういや亮平、あの子に乱暴してたでしょ」
「え」
こめかみが引き攣り、ぴくりと痙攣する。
「あら、ほんとに亮平だったのねぇ。誤魔化さなくたっていいわよ。荷物を取りに行った時にちらっと見えちゃったのよ。お姉ちゃんからも聞かされてたし。あんだけ痣を作って帰って来てたら父親にもバレバレね」
「・・・・・・ごめん」
「私に謝られても困るわ。それはそうと、今は犬は買ってないのね。よかった。私嫌いだったのよぉ、追い出して正解だった」
義弟の話題でしおらしく頭を垂れていたが、俺は眉を顰めた。さすがに今のは聴き流せない。
「どういうこと?」
「あの子の怪我は擦り傷程度だったのよ。びっくりして泣いてただけだったの。だけど処分させるのにちょうどいい口実が出来たからお姉ちゃんに大袈裟に言ってみたの。そしたら追い出してくれちゃった。あら、亮平怒ってる? でも実際、危ない犬だったじゃない」
母親はビールのグラスを手に持ちながら、庭にある犬小屋を指で払うような仕草をする。
「・・・・・・もうわかった。忙しいので今日のところは帰ってください」
膝の上で拳を握り締めて、そう言うのが精一杯だった。
その日以降は絶望の日々が待っていた。
母本人は悪戯程度にしか思っていないだろうが、自分は実の母親の罪を、赤の他人にすげ替えて、酷い暴力を与えて怒りをぶつけていたのだ。それのみか、俺はそうすることで快楽を覚えるまでになっていた。
家族であってもいけないことだが、さらに許されることじゃない。俺は最低の人間だった。
俺は俺自身が怖くなり、普通に出来ていたことが出来なくなった。
女性と関係を持てなくなったのだ。試しに男性とも寝てみたものの結果は同じ。
俺は自己嫌悪に追い詰められ、不眠に悩まされるようになった。
良からぬ思い出が詰まっている家は早急に売り、引っ越すべきだとわかっていた。しかし、良い思い出だってたくさんあった。俺のことを受け入れて面倒を見てくれた叔父と叔母。サンディとの楽しかった記憶。それらが俺を引き留めていた。
十年近く心と身体のバランスが崩れたまま、俺は生活を続ける。
もう一生、陽の光を拝める日は来ないじゃないかと諦めの境地に入っていたかもしれない。田米姉弟と起こした会社『スモールハウス』が軌道に乗り、仕事に追われることで、孤独感から逃れようとしていた。
蓮太郎に出逢ったのは偶然。
大学近くに店を構えたカフェ『coco touron』の前を駆け抜けていった一台の自転車。
慌てていた蓮太郎は、立て看板を設置していた俺にぶつかりそうになった瞬間をきっと覚えていない。
「わっ、ごめんなさい」
とペダルを漕ぎながら振り向いた彼に、一瞬で遠ざかってしまった彼に、俺が鮮烈な衝撃を受けていたのも知らず。
止まっていた俺の時間に、突然舞い込んだ風。
かっこつけて言っているみたいだけれど、芸術的センスは俺には無いから、まさに本当にそんな感じがしたのだ。
少しずつ毎日が明るくなり、息をするのが楽になった。
そして俺は見知らぬ大学生に恋をしているのだと自覚した。
叶わぬ恋だ。
俺のような人間が近づいてはいけない。
元気な姿を見せてくれるなら、遠くから見守っているだけで良かった。
不動産会社にいたのは家を売るためではなくて、会社関連のテナント探しのため。だが笑顔を失くして辛そうだった彼の身の上を知り、放っておけずに理由をでっちあげて話しかけた。
ペットという単語を使って誘ってしまったことは失敗だったと思う。庭を見下ろした時、俺は咄嗟に賭けてみたくなった。一度失くしたあの子が自分を選び、戻って来てくれる結末に縋りたかったのかもしれない。
彼に首輪を渡し距離を取ったのは、人を傷つけた過去を忘れるなという己れへの戒め。最初は純粋にそれだけだった。
蓮太郎が俺をどう思っていても、俺は蓮太郎が好きで好きでたまらない。
俺は蓮太郎を「普通に」愛して、「普通に」大事にしてやりたいと願っているだけなのだ。
———けれど俺は戒めを破った。蓮太郎が、というのは言いわけに過ぎない。最終的に受け入れたのは自分だから。
「んぐく・・・ううう・・・」
「いいよ、蓮太郎。気持ちいい」
ぽろぽろと涙を流す蓮太郎の目尻を拭う。そのまま後頭部に手を回して固定した。
次にされることを察したように、潤んだ瞳が上に向く。
「吐いたら、お仕置きするよ」
命令を伝えると、わざと吐き気を催すように喉を突いてやる。喉奥に異物が混入すれば、吐き出そうとするのが人体の正常な反応。
蓮太郎はえずき音を押し殺して耐えているが、口の端には泡になった涎と吐瀉物が溜まっている。
俺はたまらずに可哀そうな蓮太郎の髪を撫でた。ゾクゾクと背筋が粟立つのが止まらない。今のところは殴る蹴るなどの暴力は抑えられている。その代わりに蓮太郎が苦痛を感じるであろう行為を繰り返していた。
羞恥や屈辱に歪む顔には酷く興奮させられるのだ。
「いい子だ、出してあげるから全て飲みなさい」
たっぷりと口腔内に白濁を放ってから、ペニスを引き抜く。完全に飲み込めるまで、蓮太郎はほとんど声を漏らさず頑張っていた。
「お尻を向けて尻尾を見せて」
続けて告げた。
「・・・・・・ん、ぐ、わ、わん」
まだ苦しそうな声。それでも許可しているのは、「わん」の返事のみ。こんな俺に好かれるために従順なペットを懸命に演じる蓮太郎。なんて愚かで可愛い恋人。
「逃げてもいいんだぞ?」
「ん、ん・・・」
意地悪く、俺はセックスのたびに何度もこれを訊ねる。蓮太郎は首を振って否定し、裸に剥かれ首輪一つにされた身体で四つん這いの姿勢を取った。
命令どおりに尻を向けた蓮太郎は、アナルに挿さった尻尾を揺らすように尻を振る。
———嬉しいか。
可哀そうに。
健気にご機嫌を取ろうとする蓮太郎を、俺は痛めつけてやりたいと思っている。それを知ったらどう感じるだろう。今の率直な思いだと教えてやったら、どんな顔をするだろうか。
「あうっ」
玩具を乱暴に引き抜いたせいで蓮太郎の腰が反る。
電動式バイブにふさふさの尻尾のイミテーションがくっついた代物。
俺は玩具を放り、赤みを帯びてぽってりと腫れてしまった窄まりに指を滑り込ませ、具合をかき混ぜながらローションを追加で注ぎ入れた。蓮太郎は冷たかったのか、「んくっ」と喉を鳴らし、粘膜を擦られて捏ねられる快感に震えていた。
そうなると、自然と頭を下げて前傾姿勢になるのが癖で、腰を高く上げて尻を突き出した格好になる。
「はしたないポーズだね蓮太郎。俺だったら恥ずかしくて死んでもしたくないね。でも下品な犬は嫌いじゃないよ」
快感に耐えている蓮太郎の頬が真っ赤に染まった。
———すごくいい。汚い欲望が満たされる。すぐに指を抜き、ドロドロに解れたそこに悦びに勃起したペニスを押し込む。
この日も俺は蓮太郎を犯した。
合意の上だが、その表現がぴったりだった。
◇ ◇ ◇
「ごめんな、蓮太郎」
声をかけても返答がない。見たとおり、肉体と心の両方が疲弊しているのだろう。俺は目を閉じたままでいる蓮太郎の身体を丁寧にぬぐう。行為が終わってからの、根深い罪悪感に包まれるまでが一連のセットだ。
性癖を受け入れてもらって楽になったのかと、己れの胸に問いかけても、いったいこれのどこが正しいのかわからない。
普通でありたい。
ただ、街中に溢れる恋人どうしのように普通で・・・。
何をどこからやり直せば、元に戻れるだろうか。
生まれ落ちる場所を子どもは選べないから、サンディを拾って飼いたいと言わなければよかったのか? だが、サンディと出逢わない人生は考えられないし、出逢ってしまったのなら拾わないという選択肢はあり得なかった。
そうしたなら、俺は絶対にあの日も散歩に行った。
サンディを連れて、母親と義弟と遭遇する道を歩むだろう。
確実に、不可避な未来。しかしだからこそ、その先に待っている蓮太郎と人生が交わった。
手に入れた幸せを自分で汚し傷つけながら、俺は生きていくしかないのだ。
それが俺なりの愛し方であると認めずしてなんと呼ぶ?
たとえ間違っていても愛だと言ってやらなければ、あまりにも俺が惨めで、可哀想そうだ。
蓮太郎が憐れで・・・可哀想だ・・・・・・。
最低な俺を曝け出して蓮太郎が幸せになれるなら。
「鬼崎さん、大丈夫? すごくしんどそうに見えるけど、今日は疲れてた?」
気づくと、ベッドに横になっていた蓮太郎が不安そうに俺の顔を見つめていた。
「いや、平気だよ」
俺は蓮太郎の髪にキスを落として抱き寄せ、頭の下の枕と自分の腕を入れ替える。
「もう寝よう、おやすみ蓮太郎」
「うん、おやすみ」
酷使された自分の身体よりも、俺の心配をする蓮太郎。
一途で、愚かで、可愛い恋人 。
こんな飾りのような首輪ではなく、いっそ全身に鎖を繋いで、腕の中に閉じ込めて、永遠に俺だけの世界から出られないようにしてやりたい。
俺だけしかいない世界で、死ぬまで俺だけを愛してくれるように。
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