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4.自分の気持ち

「ごめんね」  湊兄は謝ってからスマホを取り出して、内容を確認する。  やっぱりその表情が凄く優しい。 「……いいよ、もう」 「え? 何が?」 「オレに勉強、教えなくても。あとは一人でもできるから。その人、湊兄の彼女なんでしょ? 構ってあげたら」  オレが言い切ると、湊兄はそのまま固まった。  もやもやするものを吐き出すように、そのまま勢いで口を開く。 「もうすぐクリスマスだし、彼女を大切にしてあげなよ。オレみたいなのに構わないでさ。別に勉強くらいできるから」 「絢くん……」 「母さんには適当に言っておくよ。オレの我儘だって、言っておくから……」  オレはそこまで言ってから恐る恐る湊兄の顔を見た。  湊兄は……とても悲しそうに微笑んでいた。 「絢くんは……僕が教えると、迷惑?」 「迷惑っていうか……スマホ見る時嬉しそうにしてるのに、こんなつまらないことしなくてよくない? 時間の無駄だよ。オレ、元々一人でやるつもりだったけど母さんが勝手に……」  ここでハッキリ言わないと、湊兄は遠慮する。  彼女と、幸せになって欲しいし。  そう、幸せに……。 「……そっか。そうだね。絢くんは僕が教えなくても大丈夫なくらいにできる子だよね。気を遣わせてごめんね。大丈夫。僕の都合で、ってきちんとお話しておくから」 「今までありがとう。必ず合格するから」  オレが言い切ると、湊兄がゆっくりと立ち上がった。  その姿を目線だけで追う。 「こちらこそ、勉強を教えてたのに……すごく楽しかった。ありがとう、絢くん。頑張ってね」  優しい微笑みを残して、湊兄は部屋を出ていった。  楽しかったって……そんなの、オレも楽しかった、気がする。 「大丈夫、オレ器用だし。勉強くらいどうとでも、なるだろ」  自分に言い聞かせるように呟く。  今までだって適当にやってこれたんだから、たぶん何とかなると思うし。  思っていたことを吐き出すように長く長く息を吐き出した。  ごちゃごちゃした感情が胸の中でぐるぐるとしている感じだ。  こんな風になることがなかったから、この感覚が良く分からない。  オレは湊兄がいなくなってからも、扉を見ながらぼんやりとしていた。  どれくらいそうしていたんだろう?  暫くそうしていたら、ふいに、何か流れてくることに気付いた。 「は……?」  指でソレに触れる。  いや、触れなくても分かってはいたけど泣いてる、よな。  自分で自分に動揺し始める。  何でだろ?  その時同時に、気が付いた。  あぁ、オレ。  湊兄のこと、好きだったんだ。

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