4 / 7
4.自分の気持ち
「ごめんね」
湊兄は謝ってからスマホを取り出して、内容を確認する。
やっぱりその表情が凄く優しい。
「……いいよ、もう」
「え? 何が?」
「オレに勉強、教えなくても。あとは一人でもできるから。その人、湊兄の彼女なんでしょ? 構ってあげたら」
オレが言い切ると、湊兄はそのまま固まった。
もやもやするものを吐き出すように、そのまま勢いで口を開く。
「もうすぐクリスマスだし、彼女を大切にしてあげなよ。オレみたいなのに構わないでさ。別に勉強くらいできるから」
「絢くん……」
「母さんには適当に言っておくよ。オレの我儘だって、言っておくから……」
オレはそこまで言ってから恐る恐る湊兄の顔を見た。
湊兄は……とても悲しそうに微笑んでいた。
「絢くんは……僕が教えると、迷惑?」
「迷惑っていうか……スマホ見る時嬉しそうにしてるのに、こんなつまらないことしなくてよくない? 時間の無駄だよ。オレ、元々一人でやるつもりだったけど母さんが勝手に……」
ここでハッキリ言わないと、湊兄は遠慮する。
彼女と、幸せになって欲しいし。
そう、幸せに……。
「……そっか。そうだね。絢くんは僕が教えなくても大丈夫なくらいにできる子だよね。気を遣わせてごめんね。大丈夫。僕の都合で、ってきちんとお話しておくから」
「今までありがとう。必ず合格するから」
オレが言い切ると、湊兄がゆっくりと立ち上がった。
その姿を目線だけで追う。
「こちらこそ、勉強を教えてたのに……すごく楽しかった。ありがとう、絢くん。頑張ってね」
優しい微笑みを残して、湊兄は部屋を出ていった。
楽しかったって……そんなの、オレも楽しかった、気がする。
「大丈夫、オレ器用だし。勉強くらいどうとでも、なるだろ」
自分に言い聞かせるように呟く。
今までだって適当にやってこれたんだから、たぶん何とかなると思うし。
思っていたことを吐き出すように長く長く息を吐き出した。
ごちゃごちゃした感情が胸の中でぐるぐるとしている感じだ。
こんな気持ちになることはなかったから、今感じているものが何か良く分からない。
オレは湊兄がいなくなってからも、扉を見ながらぼんやりとしていた。
どれくらいそうしていたんだろう?
暫くぼんやりとしていると、ふいに何か流れてくることに気付いた。
「は……?」
指でソレに触れる。
いや、触れなくても分かってはいたけど泣いてる、よな。
自分で自分に動揺し始める。
何でだろ?
その時同時に、気が付いた。
あぁ、オレ。
湊兄のこと、好きだったんだ。
ともだちにシェアしよう!