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5.偶然の再会

 オレはそのあと、宣言していた通りに大学に受かって無事に大学生になることができた。  あれから、湊兄とは会っていない。  オレも家を出て一人暮らしを始めたし、湊兄も実家にはいないらしいと聞いていたから会う機会がそもそもなかったのだと思う。  この大学も大学院とは少し離れているから、意識的にそちらに行かない限りは会うことはないはずだ。  それに、今年で卒業の可能性も高いし。  憧れのキャンパスライフ、なんて言うけど。  オレは全くもってそんなことはない。  適当に講義に出て、単位を落とさないようにとそれだけ気をつける。  色々誘われたりはしたけど、面倒だから全部断ってる。  告白されたりするのも面倒で、適当に前髪を伸ばして眼鏡をかけたら地味系だと思われたのか声も掛けられなくなった。 「……さむ…」  季節はまた冬。  今日はクリスマスイブだ。  別にやることもないけど、何となく街をふらついた。  クリスマス一色の街はカップルが溢れていて、みんな楽しそうだ。 「何でココにいるんだろ」  せめてケーキでも買って帰ろうと、並ぶ店の中から売ってそうな店を探し始める。 「え、アレって……」  店の前でウインドウを眺めている人がいた。  爽やかなブルーのコートが珍しくて、通りがかる人も振り返る。  オレはよくありそうな黒のコートを着ているから、声をかけたりしたら浮くよなと迷っていたら、振り返ったその人とバッチリ目があってしまった。 「もしかして……絢くん?」 「あ……うん。久しぶり、湊兄」 「その呼び方、久しぶりに聞いた」  ふわ、と笑うその表情に、閉じ込めていた感情が疼くのを感じた。  オレは緩く首を振って、何とか笑みの形を作る。 「こんなとこで何してんの? デートまでの時間つぶし?」  からかうようにそう言うと、湊兄はゆっくりと首を振る。 「そんな人、いないから。彼女、いないよ」 「へ……?」  オレは変な声を出していたと思う。  そんなオレを見てクスクスと笑って、距離をグッと縮めてくる。 「眼鏡、かけてるの? っていうか、前髪伸ばしすぎてるし」 「あ、あぁ……うん。何となく」  俺が曖昧に答えると、湊兄は気にせずに俺の前髪に触れてくる。  俺のほうが固まって動けないことに気づくと、ごめん、と謝られた。 「少し、話さない?」 「別に、いいけど……」  そう言うと、湊兄がコッチ、と指さしてあるき始めた。  俺も慌ててその後を追う。  あれから一年は経ったけど、湊兄は相変わらず綺麗で。  俺はまだ気持ちが変わってないんだな、と思った。  まぁ、誰に告白されようが全く気持ちが傾かなかったから。  そういうことなんだと思う。

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