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6.心が付いてこない
湊兄の後を付いていく。
気づくと、木々の並ぶ並木道に連れてこられた。
街中と違って帰宅を急ぐ人たちしかいないせいか、人の姿もまばらだ。
「寒いと思ったら……ね、雪が降ってきた。コレってホワイトクリスマス、だよね」
湊兄が振り返って、両手を掲げる。
ちらつく雪は優しくて、寒いけど暖かいような不思議な感じがする。
「カップルは嬉しいだろうね。良いクリスマスになりそうだし」
「うん、そうだね」
湊兄は優しく微笑んで、オレに近づいてくる。
その目線はいつもオレの方が少しだけ高いけど、数センチ差なのであまり変わらない。
だけど、今日は湊兄がブーツを履いているせいかスニーカーのオレより背が高い。
湊兄との距離が近いと、自然と見下ろされる形になる。
「こういう時じゃないと言えなさそうだから、言っちゃうね。あのね、僕。絢くんのことが好きだよ」
「あぁ……うん。ありがとう」
子どもの頃からオレのことは好きだと言ってたから、何となく分かる。
弟みたいな感じで可愛がってくれてたし、人として嫌いじゃないってことだ。
オレが冷たく言って家庭教師を断ったのに、嫌われていなくて良かったとホッとする。
普通に返事をしただけなのに、湊兄はパチと瞬きしてから首を傾げた。
「もしかして……絢くんって、ものすごく、鈍感?」
「鈍感って……何が?」
オレもつられて首を傾げると急にぎゅうっと抱きつかれた。
何が起こったかよく分からなくて、数秒固まる。
「だから、こういう意味で好きだよ……分かる?」
「こういう意味って……」
「好きです。でも……迷惑だったら、諦める」
湊兄が不安そうな顔でオレの顔を覗き込んでくる。
居ても立っても居られなくなって、慌てて湊兄を引き剥がす。
手首を掴んで、木の裏に隠れた。
「な、何してんの? っていうか、何いってんの?」
「やっぱりダメだったかな? でも……顔赤い絢くん、可愛い」
湊兄の細い指がオレの頬に触れる。
オレに向けられる愛おしそうな視線を見ていると、心臓がバクバクして壊れそうだ。
「だ、だって彼女……」
「だから、いないよ。去年もね、憧れの人からの連絡だったんだけど……彼女にしようとか、そんなこと思ってなかった。ただ、僕の中で大切な人だったけど、それだけ。その人にもね、ちゃんとしなさいって怒られてたんだよ」
「なんだよそれ……」
「でも、絢くん。拒絶してたから、嫌われたんだって思って。悲しかったけど、あの時は諦めることにした」
なんかとんでもない話を聞かされていて、まったく心が付いてこない。
オレが何も言えずに固まっていると、いきなり眼鏡を外された。
「目、悪くなっちゃったの? って……これ度、入ってないの? なんだ。キレイな目なんだから隠したら勿体ないのに」
「湊兄、ホント何言って……」
動揺して動けない。
湊兄はフリーズ状態が続いているオレを見ると、眼鏡をコートのポケットにしまいこむ。
また、ギュッと抱きつかれた。
木を背にしているから、オレには逃げ場がない。
「ね、どっちの答えでもちゃんと聞くから。教えて欲しい」
「……」
オレは言葉が出てこない代わりに、そっと湊兄の背に両腕を回した。
湊兄がジッとオレの答えを待っている。
「……っと、だから……オレ……」
言いかけたら、感情が追いついていかずにまた涙が出てきた。
オレ、そんなヤツだったっけ?
「泣かないで? 大丈夫だから……」
よしよしと優しく背中を撫でられると、少し安心できる。
ふぅと息を逃すと、白くなってふわりと浮かんだ。
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