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第10話

ここは箱庭 神々がおわす永久の不変 穢れなく美しい植物の楽園 聖域は何人たりとも侵すこと叶わず クルースベル家の屋敷は天界にあるという神々の庭園を模して作られている 悪しきものを打ち払い穢れを許さず罪を縛り罰を執行する 防衛機構 それを疑似展開し模倣して魔術式を組み立て発動させている これは土地の相性と術者の相性が大事だった 方角や植物の植え替えにより式の再構築、建物の配置と装飾品なども魔術の構成材料で一人それらを組み立てたユダ 天界を重ねる大魔術である だから基本的に屋敷に設置された感知道具はあくまで保険である 何せ誰だって入ることはできるのだ ただ術者に認められないと二度と出ることができない 荊の城と化している そんな箱庭に美しい青い光を放つ月が照らしている だがいつもと様相が違っていた 招かざる客人が箱庭に侵入したせいだ 静かに華やかに咲き誇る花や植物たちが魔力と神性を帯びて煌びやかに光っている その神々しい景色の中に 不協和音が響いていた うがあぁぁあ!! やめ…………てくれぐぅあぁ ひぃいいいいやだぁあああ あはははっ!!お宝だ!全部俺のものだ! どこだよここ誰かいないのか!?誰か、助けてくれ! いたいいたい!!俺の腕がうぐぁああいたいもう殺してくれ! うぅ……気持ちいい……あっあっ…頭が、おかしく、なる 阿鼻叫喚だった 美しい庭園の中で侵入者と思われる男たちがそれぞれ叫び苦しんでいる 様々な植物が絡みつきそれぞれの能力で苦しませていた 「うっわぁ~~~~~悲惨ですねー!殺すよりひどい有様ですよね坊ちゃん!あっ教育に悪いって怒られちゃいますかね?でもこれ絶対ユダさんですよねー鬼畜ですねーうふふ」 正門の敵を片付けた僕たちはそのままユダのいる裏庭の方に向かった 途中の通路は静かで本当に争いが起きていたのかと思ってしまうぐらい静謐な夜だった 歩いていると何人か使用人がいて恭しく頭を下げて各場所に控えていた 皆声をかけると笑みを浮かべ怪我もなく穏やかで逆に慣れている様子でちょっと怖くなった そして裏庭に続く通路に出てみると東門と西門で影が見えた 警戒してみるとこの有様で彫刻のように植物に捕らえられそれぞれ苦しんでいた 異様な光景にドン引きである そういえば以前ユダが庭の世話をしていた時話していたなぁ 手間暇かけた分植物は健やかに育ち応えてくれるものですよ と汗と土を拭って笑顔で言ってたがまさかこのことじゃないよね? ハッスルして捕らえて幻覚見せて苦しめるなんて生産者とそっくりな… 僕は普段この庭を見てお茶しているけど以前のように見ることは厳しそうだ 「ここにはユダはいないようだ。裏門に行ってみよう」 この景色に一切動揺せず淡々と告げるログナス やはり肝が据わっているな カールトンは一人で興奮してみている置いていこうかな 庭園の植物で離れた裏門はまだ見えない 「くそぉっ!!なんだよこれ!俺はもういやだっやめ離せ誰か助け」 通路端の庭木から半裸の男が横切って出てきて 一瞬でまた緑の中に吸い込まれていった 僕たちはその光景をみて固まった いつからホラーアトラクションみたいな仕様の庭になったの? 「………今日は張り切っているな」 そういう問題じゃないと思うよログナス 内心で呟く そのまま歩いて先に進む 庭園の植物は僕たちには一切襲わず静かに夜露に濡れた美しい葉と花を見せてくれる 綺麗な植物たちの中を過ぎると裏門が見えた 僕たちは動きを止めてしまった 三人の侵入者の前でユダが蹲っていたからだ 「ユダ!!」 僕の悲痛な叫び声だけがそこに響いた 《sideユダ》 屋敷廊下を音を鳴らさず歩く 静かに早く 闇夜に溶け込むように暗く静かに 一、三、八、十九、二十三、十八 自分に流れ込む情報量を受け止め整理する 屋敷に侵入したものが捕らえた数そして解放された数 同時進行で流れ込む情報を確認する 「雑魚ばかり、というわけでもなさそうですね」 奥様たちの安全を確認して屋敷内を歩く 他の使用人と連絡をとり連携する あのお馬鹿は連絡が遅く腹が立ったが坊ちゃん達と合流して向かったらしい 腐ってもこの屋敷の使用人 無能はここにはいない ログナス様もいらっしゃるし無事だろう 早く片付けて寝てもらわなければ健康に良くない また騒がしくしているだろう主人を想う 今日は白々しいほど月が綺麗で不躾に照らしてくる ひどく惨めな気分になる どこかの木の枝から一羽の鳥が飛び立った 私はそれをひどく憎らしく思った 西門と東門の反応は止まっている 植物たちが捕らえて毒が作用しているようだ 即死はしない 庭を汚されては困るから だからただはやく静かに 掃除をしなくては 道中の植物たちが妖しく光る 普段は美しい姿で屋敷を飾るこの子たちは 優秀な守護者だ 主人様と使用人、そして招いた客人の前では大人しく淑女のように咲き誇る彼らは 私の庭を穢す愚か者には罪と罰を 自らが処す そのまま生命力と魔力を吸い取ってもいいですがこの子達はご主人様たちがお触れになるものですからね 気持ち悪いものは私が片付けましょう 白い手袋から黒い手袋に替える さぁお仕事を始めましょう 裏門へ向かう途中通路の中ほどから感知していたものを取り出す 「うぐぅあっ。はっはった、助かったのか?」 「残念ですが助かっておりません」 「!?だ、誰だてめぇ」 「このお屋敷の執事長を任されているものです。いくつか質問に答えてもらいます」 「誰が答えてやるもんかよ!なんなんだこの屋敷は化け物の屋敷かよ」 「失礼ですね。美しく誉高い王家の方々がおわす場所ですどこよりも安全で美しい場所でしょう?美的感覚が貧相なのでしょうかお可哀そうに」 「うるせぇ!意味わかんねーんだよ!てか王家だと?貴族のボンボンの家じゃねーのかよ!俺は知らなかったんだ頼む逃がしてくれ」 「五月蠅いのはあなたです。その口を縫ってあげましょうか?嫌なら聞かれたことだけお答えください。目的と依頼者構成メンバーとアジトの所在を偽りなく話してください」 「お、俺は酒場で雇われただけだ!いい儲け話で攫うだけでいいし悪徳貴族だから脅して金をもらうだけだって…知らなかったんだ。目的は一人息子の誘拐で他は知らねーうがっ!!」 地面から赤いオーラを放つ茨が男に絡みつき四肢を縛り上げ服を破き皮膚を裂いた 棘が触れた箇所からは赤い血が滴るそれを茨が音もなく吸う 「や、やめへっ…うっあ…」 痛いのに恐ろしく気持ちがいい 茨が触れたところが燃えるように熱く焼けるように痛いのに 脳が否定するぐらい快感がほとばしる 「あああああ!!ぐあぁああ!!」 ああ意識がかすんでくる何も考えられない 痛くて気持ちがいい血と口から溢れ出す唾液が体をつたって流れるも それすら許さないように茨が動いてふき取るように這いまわる 跪いて見えたものは丸くて青い月の光を後光にした執事服を着た暗い青色の長い髪と金色の瞳が男の心を貫いていた 幸福感に死にたくなる 汚い嗚咽と涙がこぼれる 目の前の妖しい美しい男が慈愛の瞳を向け涙をそっと拭う その刺激ですら甘い毒で全身が震える 「苦しくて辛いですか?いい子にできるなら楽にしてあげます。さぁちゃんと本当のこと、話していただけますね?」 まるでエデンの園にある果実を食べるようそそのかす蛇のようだ 頭でそう感じていてもこの欲求と欲望にはあらがえない 人はこうして罪を犯すんだろう 俺はすべてを話した 最初から嘘もついていないが求められたことを全身全霊で答えたくなった それを聞き終えた彼は綺麗に微笑えんだ そして俺はまた吸い込まれた緑の中で、見えなくなる彼に手を伸ばしたが届くことはなかった 「無駄な時間でしたね。簡単な暗示と思考誘導がされているようですし裏にいるのは少々厄介かもしれません」 哀れな若い青年を思考から外す 裏門まで飛ぶ 近くの広葉樹の枝に着地してみる 屋敷の植物はすべて自分の手足であり目だ 状況はある程度分かっているけど自分の目で確認する 毒草と木の根、蔦と幻覚草で奴らは半滅している だが中心で三人が指示を飛ばして混乱を止めようとしている 女一人と男一人と術師らしいのが一人 さっさと片付けましょうか 木から降りて近づく 植物たちに嬲られている奴らを抜け三人はこちらに気づいたようだ 「…あんたこれ仕掛けたやつかしら?随分とやってくれたわね」 女が私を睨みながら言う もう一人の男はフランベルジュを構え切羽詰まった顔をしていて睨みつけるように見つめてくる ローブに覆われたもう一人は俯いていてわからない 「深更に招待もなくいらっしゃいましたのでそれなりの歓迎をさせていただいたのですが、お気に召しませんでしたか?ドレスコードもご存じない様で普段はお断りしているんですよ」 皮肉気に微笑んでおいた 女はいら立ちを隠さず睨む 「はっ!使用人風情が偉そうに。王宮の魔術者にでも作らせたんだろうけど甘かったね。大勢で多方面から侵入してんだお宅のご主人様は今頃血だるまかしらね」 嘲るように笑う 「それはそれは、面白くないジョークですねもう少し基礎的なお勉強をなさってからジョークを言ったほうが恥ずかしくありませんよ。ヴァーミリオン家の筆頭騎士様がいらっしゃるときに来るなんて悪運超えて悲惨ですね心中お察しします」 「ヴァーミリオンだと!まずくねぇーかミリー?」 「うっさいよ!どうせハッタりさ!さぁ死にたくないなら命乞いをしな!」 這いよる植物に炎の魔道具で払っている 「はぁ庭を焦がさないでいただけます?芝生が燃えるでしょうマナー以前のお話です」 パチンッ 目をつぶって仕方なしに植物から奴らを開放する だがそれぞれ異常状態から抜け出せずほとんど動けなさそうだ 「どういうつもりよ…」 「無駄に芝生を燃やされるの困るんですよ?昨日手入れして長さをそろえたばかりなのになんて仕打ちですかもう」 やれやれと溜息を吐く 残ったのは全員で六人か 最初の感知より総数が増えていますね 面倒くさい 「あんたあたしらを馬鹿にしてんの?」 「正直どうでもいいです。さっさと掃除をして次の仕事をせねば」 ポケットから銀の懐中時計を取り出して時間を確認する まだ坊ちゃんたちは戦っているようだ 「舐めやがって…もういい殺しちまいな!ほかのやつ捕まえて吐かせればいい」 はぁこういう輩はいつも短気ですぐ殺したがる 「死ねぇ!!」 植物たちにやられていたやつらが武器を構え襲ってきた 一人目を手を捻りもう一人に投げ飛ばす 二人が剣で切り付けてきたが片方の刀身を掴み片方にぶつける そのまま剣を引っ張り前方に態勢を崩しもう一人ごと蹴りつけた 「次どうぞ」 手を払って言う 警戒を強めたらしい 睨んだって解決するわけでもないだろうに 夜風で乱れた髪を整える 「…俺がやる。ミリーはカバーしてくれ」 フランベルジュを私に向けて構える青髪の男 その眼には研ぎ澄まされた殺気が込められている 「お次はあなたですか?」 「ああ、悪いが倒させて貰う」 「悪いと思うなら侵入しないでアポ取ってからお願いしたいものですね。芝生を燃やした分は嬲らせていただきます」 黒い手袋を引っ張りちゃんと装着する 大鬼蜘蛛の糸で作られた手袋は加工して刻印してあり 強力な攻撃にも耐えれる性能だった 「ハァッ!!」 剣を水平に構え刺突してきた 連続突きを躱す 「勢いだけは立派ですね」 「!」 剣の先端を指ではじきそのまま前蹴りをした 男は後ろに吹き飛んだ 「ヘイム!」 ヘイムと呼ばれた男は痛みに顔をゆがめたがすぐに立ち上がり武器を構える 「はぁお次は如何いたします?あまりこちらとしては時間をかけたくないのですが?良ければ全員でかかってきてもらえませんか?」 「…ヘイムあたしも前出るよ。ギリス!!あんたも働きな!」 ギリスと呼ばれたローブの男は名を呼ばれビクッと震えた 「な、何をすれば」 「そのくらいあんたが考えな!何のために買ったと思ってるんだい!!」 ローブの中の男はミリーと呼ばれる女に逆らえない様子で怯えていた 事情は知りませんがさっさとしてくれませんかね 「死にな!」 ミリーが鞭を取り出したそして魔力を流して炎を纏わせた 内心舌打ちをつく だから芝生が燃えるっていってるでしょうが そう思っていると眼前に切っ先が迫っていた それを躱す 連撃が迫りすべてかわす 速度が加速している そう思っていたら剣がぶれた これは… わざと躱さず剣を掴む 「グッ…!!」 「ほぅ…帝国魔術ではなく西方を起源をしたものの亜種、みたいなものですね面白い。刀身に飾りのように彫られている印は相手の脳に錯覚させ認知をずらすんですね。地味ですがわかり辛く効果的です」 「…離せ!」 「はいどうぞ」 素直に離すと力を込めてたぶん反動で後ろによろめいた バシンッ! 炎の鞭が空気を焼きながら迫る 「空掌・飛影」 黒い手袋に魔力が込められ全身が視界がぶれたような影が重なる 空を飛ぶ鳥の瞬きの間に過ぎ去る影のように 一打打ち込む 「なっ!?」 鞭は空中で砕け散った 魔力の赤い残滓が闇の中消えていく 「そ、そんな。Sランクの魔道具が…」 「その程度Bランクでいいとこですよ。腕のいい鑑定士を頼ることをお勧めします。無暗にこの庭で粗悪品を振り回さないでほしかったので壊させていただきました」 手をたたいて汚れを払う 「さて、他に芸がないのでしたら片づけさせていただきますがよろしいですか?」 「…ミリーここはいったん逃げよう。もう一度作戦を練り直して」 「うるさい!!あたしに命令するな!ギリスさっさとやりな!またぶん殴られたいの?!」 「ミ、ミリー…ギリスは後方支援だ戦えないそもそも連れてくるなんて俺は聞いていない弟は関係ないはずだ! !」 「使えるものは使わなきゃ馬鹿じゃない!とろいだけの馬鹿を世話してやってるんだ役に立たないでどうするのよ! 特殊能力もちなんだから生かさない手はないの」 仲間割れでしょうか耳障りな… 時間の無駄だと思い一瞥して手をかざそうとすると魔力の高まりを感じた ……この密度と性質 スキル持ちですか この世界には様々な力がある 神の奇跡を起こす神聖術や大気や大地、体の魔力を変換して形にする五大属性魔術 他に神道や法術、仙術、精霊術神霊術と様々なものがある それは国や信仰と発展により多岐にわたる その中でこの国では生まれ持った固有スキルで特殊スキルというものがあった 火、水、雷、土、風と基礎五大属性と古代魔術である血統でしかできない光と闇属性 その適正が適正属性と呼ばれる スキルはその中でも発生理由はまだ不明だが一部のものに現れる特殊な力 有名なのは大魔術師フェレスがすべての属性を扱え時まで操るという噂まであった 各国でも特殊スキル持ちは国力とされ国に管理される定めが多い 「………わ、わかりました」 「ギリス!!」 「だ、大丈夫だよ兄さん。僕だって役に立つんだ。あ、あの降参してもらえませんか?もしかしたらし、死んじゃうかもしれませんよ?」 震えながらギリスはそう告げた ローブの中から水色の髪と幼い顔で黄色い瞳だった 確かに兄のヘリムと髪色と瞳は似ているようで一緒だ 兄はでかい男だが弟とはずいぶんと小さい 「お気遣い感謝いたします。ですがお気になさらず。殺すおつもりならこちらも気兼ねなく殺しますのでお相子です」 自分で鍛えた笑顔を披露する ギリスはなぜかおびえた様子で後ろに引いた 失礼ではないでしょうか 坊ちゃんも引きますし何か間違えているのでしょうか今度 奥様に相談してみますかね 「…忠告はしました。できることなら防ぐか逃げるかしてください!!」 「はいわかりましたからお早めにどうぞ」 「…ッ!僕に力を貸して大いなる命の炎!大いなる生命の息吹!その羽を羽搏かせていでよフェニックス!!」 ギリスの前に魔法陣が浮かび炎の粒子が回り大火となって顕れ形を成す そしてそこから 一羽の鳥が生まれた 不死鳥フェニックスが召喚された 「ほう…これは大物を呼びましたね確かにあなたのレベルでこの神話級の神獣を顕現させるなんてよっぽど親和性が高いのですね。素晴らしい」 まばゆい神性の炎があたりを照らす 再生と死の象徴 あまりの美しさに皆が見惚れる 「うぅ……はぁはぁ、これでも、降参してくれませんか?」 「いえ、しませんよ申し訳ありませんけど。あなたそのままにしたらもうすぐ死ぬでしょう」 恐ろしいスピードで魔力を吸い上げている 命を懸けて五分…がいいとこですね 「ギリス!もうやめてくれ!」 「あはは!そうよやってしまいなさいギリス!」 傍の二人が真逆なことを言っている 「ゴホッ……ごめんなさい」 誰に向けた言葉かわからないがフェニックスの炎がより輝く 一度で終わらせる気だと判断する 口から吐き出された血の量で決意がわかる このままだと庭と屋敷を巻き込んでしまうな 術者を殺しても止まらないであろうし 「うゎあああぁぁ…だめ、とまらないなんで、いうことを聞いてそれは、だめ…」 魔力の炎が収束していく 仕方ない… 腰から二本の対のナイフを取り出す 使うのは腹が立つが物は利用してこそですね 「このままじゃ、みんな死んじゃう!ごめんなさいごめんなさいにげて、おにいちゃん!……」 ギリスの首に禍々しく光る魔石の首輪が見えた そして死の熱量の塊が空に飛翔し大地に向かって堕ちる 「ギリス!!!」 兄が弟を抱きしめたのが見えたまるで身を盾にしてかばうように ……非常に不愉快だ 頭上に迫る劫火が肌を焼く 「すべてが目障りです」 「解式・外法・対極」 黒いナイフが白いオーラを纏う 「実行・拒絶≪キャンセル≫」 堕ちる白い劫火に昇る白と黒の閃光 「黒閃白光」 互いが衝突し音のない光が爆発した 光が収まるとフェニックスの姿もあの閃光を帯びた主もいなかった 何が起きたのだろうか残ったものはわからなかった ストンッ いつのまにか暗闇から男が舞い降りた 「ふぅ…久しぶりに疲れました。被害を減らすためとはいえ張り切りすぎました。褒賞を頂かなくては」 何事もなかったかのようにユダはそこにいた 「何が・・・起きたんだ」 茫然とした様子で口に出したヘイムつり目のきつい顔をしていた男だったが今は気が抜けたのか年相応の青年の顔をしていた 「…お、お兄ちゃん」 「ギリス!大丈夫か?!」 抱えていた弟の様子に慌てている 「魔力欠乏ですねよくあることです。まだ体ができていないのに無理をするからですよ。派手な自殺なら他所でお願いします。それとこれは回収しますね」 首輪を外す 「なるほど。遠隔操作で干渉ですね。でも魔術式も素材も雑ですねこんなものを使ったら暴走するのは必然です」 「なんだと!!俺はそんなものを知らない…ミリーまさかお前が」 黙っていたミリーがこちらを睨みつけながら怒鳴る 「五月蠅いこの役立たずども!!あたしがどんだけ苦労したと思ってんのよ!!このままじゃ、このままじゃあのお方に」 両腕で体を抱きしめて震えだす 「あのお方とは、誰ですか?」 「え?」 目の前にユダが立っている 先ほどは離れた兄弟たちのところにいたのに 「質問に答えてください。正直に、嘘偽りなく、ほら簡単なことでしょう?」 視界がゆがみ力が入らない その通りだ簡単なことそう正直に、言うだけ 「あ……、あの、お方は」 「…」 ミリーは話そうとしたときユダの背後に見える月が目に入った それは丸い恐ろしいほどの金色の月 「うわああああああああああああぁぁぁぁ」 絶叫した 頭を手で押さえ内から湧き上がる衝撃にただ喘ぎ叫ぶ 「!これは…条件発動の暗示か」 仕方ないのでミリーの目の前に手を伸ばして指を鳴らした 「おやすみなさいませ」 倒れそうになったのを受け止め寝かす 「何が…起きたんだ」 「情報漏洩のために暗示がかけられておりましたね。哀れですね。廃人確定です」 「そんな…これからどうすれば」 「知りません。勝手に利用されて勝手に攻めてきたんですから勝手に消えてください」 「…」 そこで項垂れていても困る このヘイムという青年は洗脳されていない 耐性を持っているのですね 幸運なのか不幸なのか 「うっ…」 「ギリス!大丈夫かギリス!」 「騒がないで頂けますか?こんな夜更けに迷惑です」 「それは、申し訳ない…だが、どうすれば」 チッ 図体だけでかいヘタレが 「このままでは朝には死ぬでしょうね」 「それは困るんだ!たった一人の弟を失いたくない!どうしたらいいか教えてくれないか!」 「…あなた敵だということ忘れていらっしゃいません?」 「うぐっ…それでも、俺は。俺にできることは何でもする!なんでもするから助けてくれ頼む!!」 「ちょ、服を掴まないでくださいませ!シワになります」 「うごっ!」 拳骨を落とした 半泣きで上目遣いで見つめられていても可愛くありません 「はぁ…文句は受け付けませんすべてに従う従僕になると誓うならお助けしても構いませんよ」 「ほ、本当か!!なんでもするなんでもするから頼む!!」 キャラ違くありません? 最初はあんな冷徹な目で睨んでいたくせに 「離れて下さい。じゃこれにサインを」 胸ポケットから羊皮紙を取り出しペンを取り出す 「ああこれに書けばいいんだな!」 大丈夫でしょうかこの人 騙されて借金の保証人になりそうですね 役に立たなさそうなら最終的にそうしておきますか 「はい確かに。ヘイム・エルゼですねわかりました。私はユダ・イスカリオテこのお屋敷の執事長および坊ちゃんのお世話係です今後すべて従うように」 「ああわかった。それで弟はどうなるんだ?」 「口の利き方からですねこれは…大丈夫ですたっぷりと貯蔵してあるので」 「貯蔵?」 「魔力のです。魔力欠乏なら満たせばいいんです。体に負担はありますが応急処置です」 「我が茨よ溢れる蜜をわけなさい」 白く光った茨が顕れる 先ほど襲っていた茨は魔を帯びた植物だったが これは神聖な茨だ それがギリスの体にまとわりつく 服の中に入り素肌を這う 「な、何をしているんだこれは大丈夫なのか」 「騒がないでください。こうしたほうが吸収効率がいいんです」 「そうなのか?だが、なんだこれは、見ていていいものなのか」 幼い体を茨が撫でるように動くたびに甘い吐息をはき もだえるギリス 「健全な治療行為です」 「そうか…どれくらいかかるんだ」 「急激に注ぐと魔力酔いが起きますから半日ほどでしょうか」 「そんなにか?だいぶ苦しそうだぞ!」 お、おにいちゃんと片目を半目で意識が微睡んでいるのかしたっ足らずで目が潤んでいる 「な、なんでこんな有様なんだ!」 「何度五月蠅いって言えばいいんでしょうか。仕方ないんですよ魔力をよそから流されるのは快感が伴うから仕方ないんです」 「か!かかか快感!?」 「…そろそろ本気で口を縫いましょうか」 「これを半日なんてあんまりじゃないか!!何か手はないのか?」 従僕のくせに主人にうるさい人ですね私を見習ってほしいです 「はぁ、ならもう一つ手はありますよ」 「なんだそれは?」 「こうです」 「え?うわあぁぁぁぁあ」 《sideセウス》 「ユダ!!どうしたの!」 蹲るユダに近づいた 「あれ坊ちゃんこちらにいらっしゃったんですね。こっちが遅れてしまいましたか申し訳ありません」 ユダは立ち上がり立ち上がって恭しく礼をする 「だ、大丈夫なの?」 「はい、大丈夫ですよ。坊ちゃんこそお怪我がない様で何よりです。ログナス様もお疲れさまでした坊ちゃんのことありがとうございます。あとそこのさぼり花瓶壊し機もまぁ役目を果たしたのでしょうからお疲れ様です」 「俺も信じていたが、ユダも無事でよかった」 「うわぁ~~~~~~ユダさんに褒められた―!今日は記念日にいたしましょう!!ご褒美ってもらえちゃったりしますぅ?」 「カールトンあなたは修繕費の領収書を進呈しましょう」 「そ、そんなぁ~~~」 「それで、これはどういう有様?あんまり聞きたくない気もするけど」 「大したことはありません。お体に障りますからお屋敷に戻りましょう」 「で、でもそれ」 「あれがそんなに気になりますか」 ユダの後方で異様な光景があった 「ふっ……くぅ…はぁはぁぬっ…こんな、あっ兄弟でだ、だめだぁっあ!」 「ひぅ………うぅ…………ああん!」 暗闇で男二人が悶絶している光景があった 白く発光した細い茨が体に絡みついていて這いまわるように動いている それが素肌を撫でるたびに喘ぎ声が響き快感にもだえていた 「これは、何事?」 「訳アリです。面倒くさいので後でよろしいですか。危害はありませんのでご安心を」 「うん…まぁユダがそういうなら・・・」 とりあえず危険は去ったということかな ユダも無事で誰にも被害はなかった いろいろ改善点はあったけど良しとしよう 両手をそれぞれログナスとユダと繋いで静かな光の中を歩いて屋敷の戻った 「た、耐えるんだギリス……ぐあぁっ…なんて…刺激だ」 「おにい……ちゃん」 「あと二時間半ぐらいですね。ヘイムの体内を通して魔力を変換しています。それを弟さんに流す手間をかけてまでやっているんですから我慢してくださいね。親近者の魔力は馴染みがいいですね」 「そ、そんな……ゆ、ユダさ……さんッ!!」 「人の名を呼びながら喘がないでいただきたい。頃合いを見て戻りますのでそれではごゆっくり」 去った後ろでは庭園に隠された中で兄弟の禁断の行為は密やかに 行われてはいなかった ただ茨が這いずりまわっているだけだった 最初にユダが立っていた針葉樹の枝から一羽の鳥が枝葉をかわして飛び去って行った

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