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第11話【王都暗部襲撃編】

王都は賑わっていた 煉瓦造りの建物に色とりどりの飾り付けや窓や店先など街の至る所に王国の象徴である国旗が設置されていた 人々は活気に溢れ国民も他国から来た旅行者の人々も多く 盛んに交流が行われ賑わっている なぜそんなに今日が賑わっているかと言うと 愛の神の祝福と、平和と安寧を願い祝う建国祭であったからだ この国には大国も信仰する創世神サイファスを祀る教会や神殿以外に他宗教もあるがこの日は誰もが分け隔てなく喜びを分かち合う日であった そんな渦中に僕こと第二王子セウスは街中で仮装していた 出る前は変装だと聞いていたのになんなこれ?と疑問を抱きながらもアクアブルーの服を着た。そこそこ金持ちと身分が高そうな家の坊ちゃん風間抜け感を添えて となかなかの暴言を吐いた執事の監修の元、僕はこうして街中へやって来ていた あの王族の屋敷襲撃事件の日から二年が経っていた 特になにか大きな変化もなく日々を過ごしていた 剣術と魔術を鬼教官とたまに激甘黒騎士に教えてもらいながら成長していた僕は 今後起きるであろう出来事を自分なりに調査をしていた やはり運命は一度目の道を辿っているのがわかった やはり僕が起きていたことに干渉しても大きな変化には繋がらない 何か大きな要素が欠けている 今できることを探しながら僕は備えていた 建国祭から半年後 僕たちが今対策を考えているのは国がらみの不正行為を悪徳貴族と共謀して罪を僕が犯すという出来事が今の課題だ 勿論僕は無実だ。悪評である 一度目を経験している僕だしそんなに念慮してはないけど あえて泳がしている この事件がきっかけでログナスは国の黒騎士ログナスとなる。国の裏切り者として疑われてしまう僕たち家族の汚名払拭の為に動くのは必要なことだった その為に作戦を練らねばならなかったのに 僕は変装をして賑わっている城下町に来ていた 「坊ちゃん坊ちゃん!これ美味しそうですよ!ぜっったい食べた方がいいです!いろんな色の飴で好きな果物をコーティングしてくれるそうですよ!魔術であんなことできるんですねすご~い!」 「本当ですねキラキラして綺麗です。…あ、あの赤い鳥の形をした飴すごく良いですよ。あっ、売り物じゃないみたいです……」 「なんだと!俺が店主に言って貰ってきてやろうか?セウス坊ちゃんと俺たちとカールトンの分、ユダさんもこの青い星形とか、どうですか?」 「あなたたち遊びに来たのではありませんよ騒々しい。坊ちゃんの子守なんですから気を抜かないでくださいね抜いたら土に埋まってもらいますよ。あと飴は結構です。ほら坊ちゃんリボンが曲がってますそんな変な顔をしていないでほらあの辺のお子様たちと同じように振る舞ってください。カールトンはぐれたら埋めますよ誰が探すと思っているのですが、はぁ疲れます」 「…………子守とか言っちゃってない?あの子達積み木で遊んでいるけど僕に何をさせたいの?二人とも飴買っていいからへこまないでよ。ユダ言い終える前にカールトン埋めないで、てかやる事が多くてすでに帰りたい」 ユダは埋められたカールトンを片手で掘り出し俺を一瞥してダメに決まっているでしょと一言 財布から必要なお金を兄弟たちに手渡し無駄遣いしないようにと言って手渡す 家族連れかよ と内心思った こんな事態になった理由は二時間ほど前の話だった 起きると窓から晴れやかな空から日差しが差し込み、 カーテンを開き窓を解放したユダの姿を目にした 「おはようございます坊ちゃん。良い朝ですね」 「うん、そうだね。ふぁ~…暖かくてまた眠くなるや」 「二度寝はやめてくださいね。ほら鳥たちも気持ちよさそうに歌いながら飛んでっ!?」 話す途中で外から爆音が響いた ユダが眉を吊り上げ外に向けて睨む 最近ストレスでユダはキレやすい おぅこわい 「カールトン!そこを動かないでください何で勝手に木を薙ぎ倒しているんですか!雑草を抜いといて欲しいと言いましたが木を丸ごと抜根しろとは言っていません!そこの二人もいつまで掃き掃除しているですか?更地にでもする気ですか?そこはもういいですから!一階から弟は窓を兄は床を水拭きしてくださいね。次何時間も磨いていたら素手でやらせますかね」 はぁとため息を吐いて乱れた前髪を直した 僕の執事は疲れている様子だ 最初は面白がっていたが次第に悲惨な光景を見るたびに僕も冷や汗をかいた 一時間もかからないで屋敷がめちゃくちゃになり初めてユダのマジギレを見た 怖くてその日は眠れなかったのは内緒だよ 噴水から火柱はどうやったのかだけは気になる僕 「坊ちゃん、ええとお着替えをしましょう」 「…僕今日は一人で着替えられるよ」 「…お気遣い感謝します。ですが私の務めと気持ちをリセットする時間なのでどうかやらせてください」 「う、うん」 苦労人は朝からお疲れのようだ 丁寧にパジャマを脱がせてくれるユダの頭をぽんぽんと撫でておいた 大人しくされていたユダだった 着替えと朝食を終え、僕は中庭にいた ユダが手入れしていた花からいい香りのする香油が取れ香水にもなる木を根元から抜いたカーストンが植えなおされていた。木に縛りつけられ罪状が書かれた板を持たされて泣いている 僕を見た瞬間笑顔で 「坊ちゃんおはようございます~~!とってもいい天気ですね!あったかくて眠くなっても寝ちゃダメですよーなんてえへへぐぅ………」 なにも言うまい この後ユダ来るけどそれまでに起きれると良いね 無言で中庭にある日除けがあるベンチに座った 白で統一されたガゼボは居心地が良く 緑と色とりどりの植物たちを際立たせていた お気に入りの場所の一つだ 持ってきた街や国の近況が載った新聞と情報誌をテーブルに置いた 僕は情報収集をしている ログナスにも協力を頼んだ 国の中枢にいるログナスなら表に出ないこともいち早くわかり教えてくれる 魔術で封がされた手紙と個人的な手紙を大量に送ってくれる 配達員が馴染みすぎてこの前一緒にお茶したくらいだ それらを読んでいると影が落ちた スッと頭を上げると日に透けた綺麗な青髪が風に揺れていた 健康的な小麦色の肌と綺麗な朝日のような瞳が僕を上から見下ろしていた 「ヘイムそこに立たれると見えないよ」 「それは悪いことをした坊ちゃん!だがこんなに良い天気なのに日陰で読み物なんて健康に悪いと思うぞ。折角なら外で俺と遊ばないか?ボール蹴りでも追いかけっこでも何でもするぞ。いっぱい運動すれば大きくなれるかもしれない」 ニコッと笑うヘイムはまだ着せられている感のある執事服を着ていた 体が大きく鍛えられた体が服の上からもわかる くそぅ見せつけやがって 一人歯噛みする 「ん?ギリスもこっちへおいで!坊ちゃんが一緒に遊んでくれるそうだぞ!よかったな!」 ヘイムの目の先からとてとてと僕より少し小さい少年が慌てた様子で雑巾片手にやってきた 「に、兄さんサボっちゃうとユダさんに怒られちゃうよ。セ、セウス坊ちゃん本日はよいお日柄で、えっとおめでとうございます!」 なんの祝いの言葉?と思ったけどとりあえず笑顔で頷いた ギリスなりに頑張っているからツッコミづらい 以前泣かしてしまい罪悪感に苛まれた この二人はあの事件の日にユダが雇うと僕に挨拶に来させた 爽やかで健康男児感のあるイケメンの兄と小さくて庇護欲を刺激される可愛い弟の二人だ まだまだ屋敷の執事見習いとしてカールトンと一緒に学んでいるが屋敷を何かするたびに悲惨な目に合わせユダの胃を痛めている元凶たちだ 僕の訓練に参加して一緒に学んでいるが 確かに二人とも才能があるようでユダに私怨が込められた指導の中切磋琢磨している 後一人ユダと共に挨拶されたが影が薄くあまり会えていない なぜかずっと顔が赤くなっていた 風邪かなぁ 「ほら坊ちゃん!この特製ボールを蹴りあおうじゃないか!」 「い、いや僕はいいから二人で遊びなよ」 「何を言っているんだ坊ちゃん。ちゃんと日を浴びて運動しなければ体に悪い。きっと楽しいから一緒に遊ぼう。そうだ肩車をしてやろうギリスはよく元気がない時はこうして笑わせたものだ」 「えっ、泣かされた記憶しかないよ」 「ひえっ」 ギリスの呟きに戦慄しながらも強制的に抱き上げられ 肩に乗せられた 目の前に青い艶のある短髪がある 体勢が怖くてつい掴むが平気そうだ 「ちょっ、まってこわ」 言い終える前に走り出した 早すぎて風圧で仰反る 「ほらギリスもおいで、今日は我慢しておんぶで許してくれ」 「えっ、僕はだいじょうあうううう」 僕を肩に乗せたままギリスを背負い走り出した 風圧で僕たちは後ろに仰反る 「のぅわぁあううううううへえええぇええ」 「………」失神 だれか、たすけて 笑顔で走り回る青い暴走車に僕は途切れそうな意識の中 そう声に出した 「ぐへっ!」 ヘイムが横腹に何かが突き刺さり奇声を上げて吹っ飛んだ 空中に投げ出された僕とギリスは回転しながら落下した 着地する前に黒い影が僕たちを衝撃から助けてくれたようだ 「ふぁっ」 「ぷはっ」 二人とも目元を手で覆われ何か魔術を使われて意識を取り戻した 「ルカに報告され来てみれば何をやっているんですか、こんな所で窒息死か墜落死なんてやめてください。まったく」 「ユ、ユダ」 「ユダさん…」 僕たちは涙目で救世主に感謝した 「あ、あのごめんなさいユダさん。僕の兄さんが暴走して、こんな事に」 「でしょうね。芝生を陸上コースに掘削した馬鹿はこの屋敷には一人しかいませんからね。仕事を増やさないで頂きたい」 いてて と声がして茂みに吹っ飛ばされたヘイムが無傷で現れた 何かを抱えている 「いやぁさすがユダさんだな!見事な投擲だ。ぜひその技術をご教授してもらいたい。今日も君は麗しいな」 この天然タラシはユダを気に入っているらしくいちいち吹っ飛ばされても磁石のように引っ付いてくるようだ 可哀想なユダ 眉間の皺が取れなくなっちゃうよ 「投擲より常識と空気の読み方の座学が必須科目ですね。あなたは今日も頭が残念ですね」 あははひどいじゃないかと快活に笑っている 見た目に騙されてはいけないトラブルメイカーだ 「セウス坊ちゃん大丈夫ですか?立ち上がるのが辛そうなら支えますから」 いつのまにか僕の後ろに男が立っていた ふわっとライトブラウンの髪を立たせている青年だった もう一人の執事見習いだ バランスの良い体躯に大きな瞳に垂れ目の青年は ルカと言った 襲撃された日にユダの植物たちに蹂躙されて 半泣きで半裸にされた男だ 兄弟たちと違って大きな問題も起こさず ユダの補助として既に活躍しているようだった そのせいで正直影が薄い 当初は面会まで時間がかかった男で 気が優しく温和そうな人柄だが、脳に暗示がかけられていたらしく気が荒かったようだ ユダの治療で回復した様子だ だがなぜかユダに会うと赤面するらしい 前の自分が恥ずかしかったのかな わかるぞ君、男ならよくある事だ 育ちの良さそうな精悍な顔に頬に一筋の傷がある 「うん。ありがとう」 ルカに背を支えられ立ち上がる 「……それって」 ヘイムが抱えていたものが目にはった 「これか?一応確認したが無傷ださすがだなぁ」 ヘイムはそれを立たせたが、本人がちゃんと立たないので少し地面にさした 扱いが雑 ぐるぐるに縄に巻かれたカールトンだった まだ寝ている 結構な衝撃だったが寝ているなら大丈夫なのか 気絶って線も…まぁユダがいるから大丈夫かな 僕は考えるのをやめた 僕は先程座っていた席に戻る すると静かにお茶をユダが置いてくれた 「ありがとう」 「いえ、しかし続けていますね。正直三日もせずやめると思っていました」 失礼な と思ったけど以前の僕ならそうだなと思って何も言わなかった 僕の正面にユダが座った すると左側にヘイムがどかっと座り 右側にルカが静かに座った 横でギリスがあわあわしていてヘイムが膝に乗れと促すが断り立っていようとしたので僕の隣に座ってもらった 躊躇いながらも頬を赤くして嬉しそうに座る様子に可愛いなと思った 「……あなた達仕事はどうしたんです?」 「俺とギリスでピカピカに磨いたぞ!」 「後でチェックします。状態次第で復旧作業は夜通しやらせますから」 「お、俺は、各使用人と連携して掃除と設備確認をしました。奥様はご予定どおり王都へ先に向かわれました」 「ご苦労様です。あとはその人見知りがよくなれば悪くないんですがね。まぁ他の者より使えますから、ね」 その言葉にルカは身をビクッと振るわせ顔がさらに赤くなった ユダは言葉の途中で指を鳴らし 縛られて地面に刺さっていたカールトンを解放して蔦で顔を叩いて起こす 「ふぁっ、ジャムにバターは至高です」 「お仕置きは後ほどにしますから起きなさいカールトン」 「ふぁい。おはようございます皆様」 賑やかな朝で僕は肩の力を抜く 確かにこういったやりとりが僕の癒しになっているのかもしれない 「はぁ。あなた達はもう仕事は切り終えて、用意した服にはやく着替えてきなさい」 四人は返事をして下がっていった 「…何か今日あるの?」 風に散らばった紙を纏めていたユダが黙って一瞥し 纏めた紙をテーブルに置いて話した 「坊ちゃんまでお忘れですか?今日は建国祭ですよ」 その通りだ。忘れてなんかいない でも何でだろう 今日は僕とユダと母上の三人で午後から開会式の王族の席座り、式に参列し祭りのパレードに出る役目があった 有力貴族が多く参加する国祭だ冤罪の件で関わりのある 売国奴の奴らを調べるつもりだ その件については既にログナスとユダに相談してある 当日は僕と王族警護のログナスはあまり動けない なのでユダに助力を頼んだ 話した時顎に手を当て無言で怖かったが最終的に信用してくれて考えてくれた ログナス達は信用できる部下達を秘密裏に動かし調べさせる 同様にこの屋敷のユダ達も街中で動いてもらえるようだ これなら十分な戦力だ と思ったがもしかして彼らなのか? ユダが選んで連れて行くなら大丈夫なんだろうけどさ 屋敷の惨状と日頃の行いでいまいち不安になる そう思って同じように書類を見ていたユダがこちらをみた 絹のような髪が風に揺らいでいる 「ご心配なく坊ちゃん。その為に彼らと私がいるのです。使えぬものはここにはおりません」 「うん。わかったよ」 そういうなら信じられる 僕なんかよりよっぽどね 内心で自分に皮肉げにつぶやく そして屋敷正門に集った 六人が揃う 皆それぞれ正装しているみたいだ だがそれぞれ濃紺のローブを羽織っている 「早めに出るね。あとなんでローブなんて着ているの?暑くない?」 「温度調節機能がある素材でできております。もし非常時になった場合身分を隠せた方が良い時に備えてです。午前は自由な時間ですので折角ならばと見回る時間をご用意させて頂きました」 こちらが坊ちゃんのローブですと着せられた 軽いし暑くない 銀の留め具には魔石が埋まっておりきっと魔道具なんだろうと思った そして促され馬車に乗り込んだ 「あなた達」 ユダが振り向き言った その声は真剣味を帯びて冷たささえ感じられた 「「「「はい」」」」 四人は整列し身を正す その姿は今朝の様子は微塵も感じられなかった 皆鋭く目を開きユダの声に従う 「今日は一日中坊ちゃんをお守りするように、死んでも守りなさい。自分の価値をぜひ示してくださいね」 「「「「はい!」」」」 「よろしい」 では行きますよ と言って乗り込んだ 中にいた僕は魔術で音を遮断されていて気づかなかった 「てか、狭くない?」 「申し訳ありません。敬語の都合上、と言いたいですが奥様が馬車を三台お使いになられましたので仕方なく」 「あ、そう。なんで三台も」 「開催直前までご洋服を選びたいそうです」 わが母ながら自由である 僕の隣の窓側にユダ 扉側にカールトン 反対側に窓側からルカ、ギリス、ヘイムだ 狭っ苦しい 僕のほうは細身で暑苦しくない二人だから良かったが ギリスはでかい2人に挟まれて顔色が悪い 可哀想な気もするだけどあそこに入れ替わる勇気はないんだごめんね 「三十分ほどでつきますからお待ちを。着きましたら参列準備まで一時間の自由時間です」 「あれ?着くの早くない?」 「そんなことはありませんよ。距離はありますが、この馬車自体魔道具ですから守りもあり馬も疲れ知らずで早く走るのです」 「へぇー、知らなかった」 「以前も何度か乗っているはずですよ」 「そうなの?でもログナスの時は二時間近くかかったような…でも途中で寝ちゃったしなぁ」 あれは色々あって恥ずかしい 思い出そうとしたが払拭した 「ああそれは、ログナス様が意図的になさったんでしょうね」 「え!?」 「わざと魔力を押さえ時間を伸ばしでもしたのでしょうね。あの方もいじらしい」 「な、なんでそんなことしたの!?」 「知りませんよ本人に聞いてください。聞かなくてもわかりますが。どうせ二人の時間を引き伸ばしたかったんでしょう」 「そ、そんな」 「親バカならぬセウスバカですね」 「それただの暴言じゃないですか」 確かにそうかもしれませんね の一言 ユダは今日も辛口である 「じゃあ私も坊ちゃんとたっぷり一緒に居たいですから遅めにしちゃいましょーよー!以前みたいになかなか遊べなくて寂しいんですよ坊ちゃん~~」 ぎゅっとカールトンが抱きついてくる 柔らかいミルクのような香りがする 「そ、そうだね。帰ってからなら遊んでも良いかな」 「ほんとですか?やったぁ!!」 「うるさいので静かにしてもらえます」 「うぇ~~んごめんなさーーい!」 うるさいと叱られたのにうるさく謝る とてもらしいと思った あれ…… 「ギリス、大丈夫?」 大人しかったギリスは顔色が青かった 馬車はほとんど揺れてないが酔ったのかな 「あの、はい、まだ大丈夫です」 「でも顔色が…」 「き、緊張しているだけです。人がいっぱいいるところに行くのが久しぶりでして、その、楽しみでもあるんですが、やっぱり不安で」 ぷるぷると震えるギリス つい可哀想で席を立ってギリスを撫でる ふわっとした髪が手に馴染む 「あの、ありがとうございます坊ちゃん嬉しいです」 まだ顔色は悪いが微笑んでくれた 「ギリス辛いのか?なら俺の膝に乗ると良い。落ち着くだろうから良くなるはずだ」 ヘイムがギリスを抱えようとする それ絶対逆効果じゃない? 「待ってヘイム。余計辛くなっちゃうよ」 「そうなのか?なら坊ちゃんも一緒なら良くなるはずだ」 ニコッと爽やかな笑顔をして僕の肩に手を置いた ひえっ おそろしい陽の者だ 「車内で騒がないでください縛りますよ全く」 綺麗に座っていたユダが叱る 「それはすまないな。ギリスが具合が悪いみたいで好きな坊ちゃんとなら元気になると思って…」 「な、なな何言ってるの兄さん!す、すきだなんてそんな」 「ん?嫌いなのか?」 「そんなわけないじゃないか!あ、あの好き、だけどそんな意味じゃなくて」 赤い顔で下を向くギリス 「好きなんだな!なら良いじゃないか!好きな者同士くっついた方が幸せだとお父様も言っていただろう。折角だしユダさんも俺の膝にどうだ?」 「結構です」 「ダメに決まってるぞ!」 ヘイムの言葉にユダとルカの言葉が重なった 変な空気になる ルカはヘイムを睨んで抗議したがユダを横目で見て赤くなり沈黙した 乙女か 「はぁ、ギリスこれを飲みなさい。少しは良くなるでしょう」 懐から小瓶を取り出して手渡す 黄緑色の液体が入っている 「は、はい。ありがとうございます」 蓋を開け恐る恐る口にした 意外と大丈夫なのか一気に飲み干した 「お、美味しいですね。確かにすごく楽になりました」 みるみるうちにギリスは顔色が良くなった 「おお!さすがユダさんだ!弟を助けてくれてありがとう!本当に感謝している!」 立ち上がりユダに迫って両腕を広げて抱きしめようとしたがルカに力づくで席に戻され全身を蔦でぐるぐるに巻かれていた ユダの指先が緑色に輝いていた 「次騒いだら馬車から投げ飛ばしますよ」 「ふぁい」 口を塞がれないヘイムはそのまま返事をした 悪意とかなく迫るから逆にタチが悪い 容赦なく痛めつけられてもへこたれない精神だけはすごいと思う なりたくはないけどね 「…見えましたね。もうすぐ王都です」 ユダが静かに言った 僕はユダの見ている先を追って見た 大きい壁に囲まれた国は真ん中に王城がある 祭りのためか音楽がかすかにこちらまで聞こえてくる 壁の門まで来ると長者の列ができていた 「これは….」 「商人や旅行者と近隣の村や町の国民ですね」 大勢が並んでいた その横を僕たちは通って門前まで進んだ 王族関係者の馬車は最優先で通される 門兵に止められユダが窓から通行手形を見せた すると兵は姿勢を正し深く一礼して通してくれた 「さぁ着きましたよみなさん」 みな表情を固くし緊張感ができた 通路は通行整備されているので近場の騎士待機所に馬車を止めさせてもらった 馬車から降りた僕は背伸びした 「あっという間だったね」 外は人が多く皆笑顔で賑やかだった その様子に僕も浮かれるような気持ちになる 「そうですね。あまりはしゃぎすぎないように」 「わかってるよ。なんか久々だなぁこういうの」 二年に一度のお祭りだ 「坊ちゃんお待ちを。そのままでは目立ちすぎます」 確かにまんま第二王子のセウスだ いくら彼らと警備している騎士達がいてもこの姿じゃ危険が増すばかりだ 「でも、どうすれば」 「こうします」 ユダは僕の着ているローブの留め具に触れた 銀の装飾に嵌っている魔石が光る 「んん?」 何かが発動したのがわかるが、何が起きたのかはわからない 「…何をしたの?」 ユダは懐から折り畳みの鏡を開いて見せてきた 「ええっ!?」 僕だけど僕じゃなかった 髪は明るめの茶髪で 瞳は緑だった 「これって、変身魔法?」 「そうですね。そのようなものです。複合魔術で見た目と見たものに認識阻害を気づかれない程度に作用します」 それってすごくないか 感知されにくい変身なんて世に広まったら大混乱だ 「完璧なものではありませんのであくまで用心の為です。他に通信と居場所、護身の為の防御などができます」 へぇ有能すぎて言葉が出ない 権利とって売ればボロ儲けじゃないか 「操作が難しいでしょうから変身は私がさせます。他は魔力を込めれば可能です」 なるほど術者あってかなら仕方ない それでも十分すごい 騎士待機所出口近くまで歩いた 「へぇ久々だな祭りなんて、ギリスは以前行ったのはゼンクォルツ国の祝祭の時だよな最後は」 「そう、だね。でもあの時より賑やかな気がする」 「わぁ!!美味しそうな匂いがぷんぷんします!全部食べるぞー!」 「祭りか。初めてみたがこんなにも賑やかなんだな」 ルカは遠くを見るように言った 「この国の祝祭は分け隔てなくお祝いするから食事もただで食べられるんだ。たくさんの人が来るから珍しいものもあるし面白いよ」 ルカを見つめて言う 「それは、とても楽しみですね坊ちゃん」 静かにはにかみながら言うルカ 優しく細められた目がイケメンの後光が眩しい 「はいみなさんご静粛に、事前に話したことは忘れずに気を引き締めてくださいね。人が多いほど裏で動く輩は多いです。害を成す輩もいることでしょう。何があっても坊ちゃんをお守りするように」 一斉に皆頷く 心強い味方に嬉しく思った 「…みんなも、絶対死んだり怪我しないでほしい。みんなで来たんだ。みんなで無事に帰りたいよ」 皆が静かに頷く 隣のユダは目を細めて見つめていた 「主人の言葉は絶対です遵守しなさい」 「「「「はい!」」」」 「では、参りましょう」 差し出されたユダの手を握って僕は町へと歩き出した

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