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皇立騎士学校-悪魔戦争編-
【Prologue】
真白の陽光が白亜の建物を照らす
樹木の枝で休んでいた鳥が歌を歌いながら美しく羽搏いた
「何か?」
「……いえ、それでは失礼します。何かありましたら何なりとお申し付けください」
「ありがとう。下がっていいよ」
「失礼します…」
銀と黒の髪と同じ色彩の鎧を斜陽に照らされながら男は隊舎執務室から退室した
皇国の城の離れにあるこの銀冠の騎士隊庁舎を離れる通路を歩きながら考える
言葉にするのが得意でない己が、こんな時にも何も伝えることができない自分に憤る
あの悲哀と憐憫の塊の様な我が主人を想わない日はない
あの方は恐ろしく器用なわりに己の事となると酷く危うくなる
その為に自分ができる事もできぬ事も全て果たす
それが存在意義であり誓いだからだ
心の裡に秘め固く結ばれた誓いを胸に最強の騎士は
静かな通路を歩く
すると前方の柱に背を乗せ腕組みをし
寝ているかの様に目を閉じている男がいた
それがただの見せかけだと、シルヴァは知っていた
「…無視すんのかよ」
「……」
通り過ぎようとした瞬間目の前の床を足で砕かれる
「…そんなつもりはない。何の様だ」
「あぁ?わかってんだろ白々しい」
男は荒々しく鋭い野生的な眼光を光らせたまま詰め寄る
同じ背丈の対極の男が探り合う様に見つめ合う
「…何企んでやがる」
荒々しい様と違って言葉と目は何も逃さないと狩人のように一挙一動を観察している
蒼銀の瞳と赤金の瞳が睨み合う
「企んでなどいない」
「…ならなんで俺を呼ばなかった」
呼ぶとは先日の他国の祭典のことだろうか
「必要ではなかった。からではないか」
ドゴンッ!
男の隣にある柱に拳が突き刺さる
「舐めてんのか….」
「私に騎士の選任権はない」
淡々と事実を告げる
「他の連中は集まったらしいじゃねえか。あの方向音痴すら行ってんのになんで俺様だけ呼ばれてねーんだよ。他の四人は仕方ねー、てかどうでもいい」
額がつきそうな距離で睨みつける
まさに獣の様に牙を剥き出しにして睨む
「暗殺騒ぎまであったんだろ?そん時テメェ何してた?」
「…異界の化物を討伐していた」
「そうじゃねぇだろ?テメェは何のために餓鬼みてーに一日中側にいんだよ。肝心な時いねーならお前の価値ねぇよな」
煽る様に笑う
普段のシルヴァなら変わりなく流した
だが今は…
「…」
「お…図星かよ。傑作だなこりゃ。人形のテメーでもそんな顔できるんだな」
「用はそれだけか、なら失礼する」
横を通り過ぎる様にかわす
その刹那
…
互いの顔面と首に拳と剣先が突きつけられる
「…なんのつもりだ」
「こっちのセリフだ犬っころ」
互いに半歩下がる
達人にとって選択肢の多い距離だった
……
「…処断されたいのか」
「ハッ!やってみろよ役にたたねぇ木偶の坊が」
「…断罪」
「灰燼!」
互いの技が発動する
静の殺戮
動の暴虐
正反対の一撃必殺が発動し衝突しようとした
「そこまででござる」
「動くな。動けば頭を撃ち抜く」
二人の後ろに二つの影が現れる
シルヴァの後ろにはオルドがライフルを構え銃口をシルヴァの頭に向けている
もう一人は和服を着た侍
居合の構えで後ろに身動きせず構える
その剣撃は音より早い
「……どいつもこいつも、誰に命令してやがる!皆殺しにされテェか!!」
迸る魔力が周囲を壊す
凄まじい魔力と殺意だった
シルヴァは後方に目を向ける
「上官に銃を向けるのが貴様の正義か」
「戯けた事を。諌めるのも部下の務め。それより貴様を上官などと思っていない。我が心と歩む道はマスターと共にある。それだけだ」
二人の静かなる探り合いが始まっていた
「ふ、良いのか?ここは主君の箱庭。すぐにバレるぞ。また暴れたと叱られる。某は勘弁だぞ」
口調は場を和ませる様な声音だが
その構えは一切ブレがない
いつでも切り捨てる
そう告げていた
「……仕事がある。俺は失礼する」
シルヴァは振り返って立ち去ろうとする
すれ違ったオルドとは目も合わさなかった
「何勝手に逃げてんだよ」
無視をする
「………いつまでもそこにいれると思うなよ第一席」
皮肉気に言う
するとシルヴァがそのまま立ち止まる
他三人は立ち去るとばかり思っていた男が止まったので
思わず見つめる
シルヴァは首を動かし横目だけを向ける
「精々足掻くんだな第二席」
そして立ち去った
「………ブッ殺す」
男は激怒した様子だったが
それでも視界の端に映ったものに反応し
気を一瞬で沈め瞬時に立ち去った
「……纏まっていられる事自体奇跡的だなこの者たちは」
オルドがライフルを消してそう言った
「はは、皆歩む道は交わらず進む方向も考えも違うが、たどり着く場所は同じだと理解しているからでござろう」
構えを解き暮れる空を見てムラマサは言った
「フン、貴様も含まれていることを忘れるな方向音痴殿」
「手厳しい奴らじゃのう」
かっかと笑う
既にオルドは背を向けて去っていた
東の空に雲雀が飛び去るのを
ムラマサは静かに見ていた
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