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第1話

noise--- 「燃えている」 ーーー! ッ!ーー! に……は……、すぐに…… 《己の罪をみよ》 「燃えている」 なんで!ーーー! 俺はーーーだけ生きていてくれればいい ーーー! そうだな、俺はきっと世界にとって悪だ ー!… それでも、俺は…… 黒い人が手を伸ばす 「燃え果てる」 …… 青い旗が「燃えている」 恨んでくれいい、永遠に 隻眼の遺物が全てを闇に屠る 業火と共に 「愛している」 青い月が見える 「セウス」 手を伸ばす 既に全てが灰になった ▼ 「うわぁッ!?」 天蓋付きのベッドから飛び起きる 「……なんですか全く」 猫の様に背を丸めながら驚いているユダがいた それを見て僕は安心した 「……夢か」 炎の中の悪夢だった 立ち込める煙と肉が焼ける匂い そして人の混ざり合う悲鳴と叫喚 今も隣にあるような既視感を感じた 「大丈夫ですか?」 「うん…」 細く綺麗な指が僕の額に触れる 冷たくて心地よくつい犬の様に擦り付ける その様子に微笑みながらユダは風邪ではなそうですねと 言って離れていった 僕はベッドに座ってぼうとする ピピピと外から朝の散歩をしている小鳥たちの歌が聞こえた 「……んん」 「ほら手を広げてください」 「…」 「次は片足を」 「んー」 「髪を梳かしますよ」 「うんー…」 「…」 「ご用意ができましたよ」 「ん?……うんありがとー…ふぁ」 「夜ふかしでもなさったんですか?伸びるものも伸びませんよ」 「し、してないよ!」 寝ぼけ眼だったがその一言で覚醒する 「どうぞ」 「ありがとう」 ゆらりと湯気の立つ朝の紅茶を手渡され一口飲む 程よい温度で香り立つ紅茶が朝の体に染み渡った 「…ふぅ」 「…ふにゃ~あ」 「…ふふ」 同じベッドで寝ている黒猫を撫でる 髭がピクピクと動く 悪魔のくせに猫として堪能している様子は 可愛らしい 「今日の予定は?」 「朝のお食事の後、お迎えが参ります」 … 「へ?なんの?」 朝からテキパキと動いていたユダが止まる あれ、禁句でした? 「…お忘れですか坊ちゃん」 僕はパンパンに詰め込まれた鞄を持ったユダを キョトンと見つめる 「明日入学式ですよ」 「……へぇー」 僕はぽかんとしたまま お茶を啜った うん、美味しい 「ヒグッ……ううぅ、……ぼっぢゃん!!いがないでぇ~!! カールトンはハンカチを噛み締め嗚咽を上げ地面に倒れたまま手を伸ばして泣いている 「ぐっ…カールトン、坊ちゃんを困らせるなよ。可愛い子ほど旅をさせろって、……いう…、やっぱり俺もついて行く!」 笑顔で僕の肩を叩いていたが、そのまま笑顔で涙を流しだしいつのまに用意したのか大きな荷物を持って馬車に乗り込もうとしていた 「坊ちゃん何かありましたらすぐ行きますよ。手紙書くので、よかったら返事ください」 涙目で僕と握手するルカ 「坊ちゃん……お、お、お、お元気でぇ…うぅ」 そのまま兄の腰に抱きつくギリス 「ほら邪魔ですあなたたち。シッシ…」 野良犬を払う様に手を払うユダ 流石の僕でもフォローできない冷淡さだ 「………」 「…ろ、ログナスさん?」 さっきから黙って腕を組んでいる青年を見る 「…なぜさん付けなんだ」 「あ、ごめんなさい」 「何か謝る様なことをしたのか」 「え、そんなことないけど…」 「ならなぜ謝る。謝ることがないのに謝るのは失礼だ」 「うん。そうだね。ごめん」 「悪いと思っているなら行くな」 「ひぇ、脈絡なさすぎー」 僕は朝から知り合いたちに囲まれていた 今日から僕は この国を離れることになったからだ 《一ヶ月前》 「坊ちゃん」 「はいはい」 「はいは一回で結構。お手紙が届いております」 「え?手紙?」 いつものログナスからの手紙かな? 昨日届いたばかりなのにはやいなぁ そう思って手紙を受け取る ん? 封蝋でとめられていた封筒に 紋章がある それは見慣れないものだ 「これって何処から?見たことないんだけどさ」 おやつのドーナツを頬張りながら尋ねる あっ、封筒に溢れちった 見つかる前に皿に落とす 油染みがついてしまったえへへ 「…それは聖リトリシア皇国の皇族の紋章ですね」 「……皇族?」 ポカンと封筒を見つめる なぜ他国の王家が直接僕に手紙を送るんだ? 訝しみながら丁寧に封筒を開封する ドーナツの油中までは大丈夫な様で安心した … 白紙の紙に手をかざす 「我はセウス・クルースベル、隠されし文字よ今姿を現せ」 詠唱すると紙が光りそれが粒子となって文字となった 「なになに……セウス・クルースベル殿、貴殿は我が国の皇立聖騎士学校入学試験の受験を認める」 「「受験を認める?」」 二人の声が重なった 「も、もしもし!聞こえますか?ねぇってば!」 羽根の銀飾りに話しかける ユダには退室してもらっている 『…聞こえているから。声の音量下げてもらえます?』 「あ、ごめんね。ってそうじゃなくて!これ!なんなの?聞いてないよ!」 はぁとため息を吐かれた 誰かとよく似たため息だ 『…ちゃんと話しましたよ。其方に居辛いなら来たら?と尋ねたでしょ?』 「い、言った気がするけどあんなの、言葉のあやみたいなもので…」 『悪い話でもないでしょう。まさか知らない感じかな?』 「知ってるよ!世界で一番難関の皇立聖騎士学校でしょ!騎士だけじゃなくて政治家や貴族王族だけではなく貧民ですら才能があるなら入学が認められる超実力主義の学校じゃないか!」 確か十歳の時スカウトでログナスが一年で飛び級した学校だった すぐに帰ってきたからそんなものかと思っていたが 後でとんでもない場所だと知った 卒業すれば将来どころか子孫まで繁栄するらしい 『その通り。私から推薦したんだから顔に泥は塗らないでおくれよ』 「そんな勝手な…」 『人の話を適当に聞いて、頷いた君が悪いと思うけど違います?』 「……おっしゃる通りです」 僕のバカ! 『諦めて来ればいいさ。損はないだろ』 「で、でも」 確かに今僕はなかなか辛い立場だった あの祭典の日 ログナスは国を救った英雄となり叙勲され 黒騎士の称号を得た なのに僕は邪神を呼んだ一派だと噂がでた 父上たちが頑張ってくれたおかげで噂は鎮火し ログナス自らそれはないと証言してくれたから 僕はまだ国内にいれたが周囲の目はまだ疑いを含んでいた 確かに皇国に行けばあそこは神聖教会の本拠地 そこに招かれたなら噂は払拭されることだろう でも、なぁ 僕が騎士学校なんて… しかも約半年後には式典があるのに そんな暇は… いや、これで皇国で悪魔の情報を集めたり 強い騎士たちや貴族たちを味方につければ 僕はより有利に事を運べる それなら行く価値は、あるか… 『決まったかい?』 タイミングよく声がかかる 「わかった。僕行くよ」 そうして現在となった 「ぼ、ぼっぢゃ~~~ん!!」 後方から羽交い締めされたカールトンの叫びが聞こえる 「お気になさらず」 「う、うん」 僕の横に座ったユダがそう言った 正面には真顔のログナスがいる 「…なんで乗ってるの?」 「乗りたいからだ。ダメなのか」 「え?そういう話」 困惑する 「道中が心配だから警護がてらついて行く。だそうです」 補足説明ありがとう 「それならいいけど、忙しいんじゃないの?」 「問題ない。最優先することがあるからな」 それって僕のこと?とは流石に聞けなかった 半日ほどで着くらしい皇国はどんなとこだろう 一度目の人生でも行ったことがない そもそも暗黒魔術の使い手が神のお膝元である 皇国に行くなんて自殺行為だ 「…ねぇ、どんな所?」 馬車内の沈黙が辛くて話しかける 「…知らないのに行くのか?引き返した方がいいと俺は思う」 真顔でそう返すログナス 拗ねているのかこの男 僕が皇国の騎士学校に行くのが気に食わない男はしつこかった ついきた時のお茶の席で口を滑らしてからこうだ 手紙は普段から間を定間隔で開けて届いたのにそれに追加で毎日説得させるための手紙が届く 時間を見つけては来訪し説得 頭がキレて理論武装してくるから厄介だった でもやはり利点は多いので納得せざるを得なかった様だ そして最終手段 拗ねることにしたらしい それでこの態度だ とくに変わっていないがあの甘ったるい視線が減っただけ個人的にありがたかった いじらしい姿に少し、寂しさを感じたのは内緒だけど… 珍しく焦っている様で 忙しなく組んだ腕を指で叩いている 「…そんなにダメかな?」 少ししょんぼりとして話す 僕だって不安なんだ この選択は、間違っていないのか サイファーから得た情報で容疑者を見つけるには 絶好の機会だった それでもやはり、皆から離れるのは怖かった 「ダメでは、ない」 珍しく歯切れの悪い返答だった わかっているんだログナスほどの聡明な男なら この行動が僕にとってどれだけ得になるかと 「ならなんでそんなに不機嫌なの?怒ってる?」 「別に不機嫌なわけでも怒っているわけじゃない。ただ…」 「ただ?」 視線を彷徨わせた後僕をまっすぐ見る 「セウスのそばにいないと俺は、守れない…」 苦しそうに言った そんな… 最初から僕のことしか考えないんだな 自分のことなのに他人事の様に思う 「大丈夫だよ。あそこは世界一安全な場所なんだから」 「それでも何が起きるかはわからないだろう」 「そうだけど…心配しすぎじゃない?」 「あそこは、見事な学校だがセウスには危険だ…」 「え?どういう事?聖職者が多いしそれなりに教養ある人間が多いんだよね」 「そうだが、あそこは少し、多少。閉鎖的なんだ」 「…?」 「詳しくはユダに話した。後で聞いてくれ」 「うん。わかった….」 隣で静かにお茶を飲んでいるユダの横顔を見る 主人より先に飲むってどうなの? 「なんか怖くなるなぁ」 「すまない。脅かしているつもりはないんだ」 「それはわかっているよ。心配してくれているんだよね。ありがとう。でも大丈夫だよ。知り合いもいるし、あの銀冠の騎士がいるから「だから問題なんだ!」」 怒気を強めていった すぐに申し訳ないと謝るログナス ど、どうしたんだ? 「もしかしてさ、ログナスって銀冠の騎士嫌い?」 自分よりも強そうだから?とは聞くのはやめといた 藪蛇である あの鉄面皮の朴訥とした男を思い出す なんか、大変なことをした気がするけど思い出せない まぁいっか 「嫌いではない」 即答した 「じゃあなんでさ」 「苦手なんだ」 「何が?」 「………あの男だ」 「男って、もしかしてシルヴァさん?」 僕の言葉に僅かに頷く 珍しい。ログナスが他人を苦手なんて初めて知った 「あーもしかして知り合いなの?」 「学生時代。見習い騎士として少しの間同行したんだ」 初耳である 「任務について行ったが、あいつは一つだけ命じた」 「なんて?」 「何もするな。ただそれだけを言って去って行った」 「ええ?それって責任放棄じゃない?監督者でしょ?」 「…後でわかったがその相手は始祖に近いナイトキング、ヴァンパイアだったらしい。その時俺では多分、…足枷となっていただろう」 悔しそうな顔をした 初めて見る顔が多い日だ 「そして十分後無傷で帰ってきた。俺ともう二人の見習い騎士はその日は掃除しかしなかった」 「それはご愁傷様….」 「それからもあいつは簡単な書類仕事と雑用、たまに訓練と指導はしてくれたが関心がないのかほとんど放置だった」 あれ、意外と似てない君達 身内以外の時ログナスもそうゆうイメージがある 「どうした?」 「なんでもないよ」 誤魔化す様におやつのフルーツサンドを食べる 生クリームたっぷりで美味しいね そんな話をしつつたまに休憩をしながら 僕たちは水と光の聖地 聖リトリシア皇国に到着したのであった 「ほぉー…」 白い壁に青い布が至る所に飾られていた 美しい国だった 人々も活気があって豊かでこの国の繁栄を感じさせた 「…すごいね」 「そうだな」 本から目を離さず言った 興味ないのね… 僕はユダに話しかける 「これからどうするの?」 「まずは使者と合流します。その後四年通われる宿舎に移動なさっていただきます」 「そっかぁ、あれ、君たちどうするの?」 「俺はしばらく滞在する予定だ」 それって、横暴じゃない黒騎士さん 「私は一泊して帰ります」 ……… 「えええ!?」 「うるさいですよ」 「ご、ごめん!でもなんで帰るの?」 「なんでって、執事の私が騎士学校に行っても仕方ないじゃないですか」 「ええ?!で、でもほら何かあったら困るじゃん」 「先程世界一安全だと自分でおっしゃっておりましたよ」 「そ、そうだけどさぁ~」 僕は泣きつく だって、無理だよ誰が僕の世話をするのさ! 甘やかされた自覚はある でも、でも仕方ないじゃんね! 涙目で縋る 「見苦しいですよ」 「そ、そこをなんとか、なんとかお願いします」 主従が逆転している ログナスは本を読んでいて既に興味は失せた様だった 「仕方ないですね。一応貴族のために使用人もいますが、志願すれば従者も別の宿舎で滞在できる様なのでそのようにしておきます」 「あ、ありがとう!!」 ぎゅっと抱きつく やれやれと呆れているユダ この時は知らなかったが最初から申請はしていたらしい このツンデレめ 「ですが、ずっとはこちらには居れません」 「そうなの?」 「ですから屋敷にいる者たちをこちらに連れてきます」 「それってカールトンたち?」 「そうなりますね誰もいないよりマシだと思うのでそうしておきます。私も邸の仕事がありますし奥様が心配です」 「そうだね。困らせてごめん。よろしく頼むよ」 「お任せください」 有能はどこまで行っても有能だった 「到着した様です」 窓から覗くと 人工的な川に囲まれた白亜の城があった 見事な城で芸術的だとさえ思えた 馬車から降りる すると清浄な神気を感じるほどすごい土地だった 「これは…」 「ここは神聖教会の本山だ。敬虔な信徒が多い。聖地でもあるから常に神気で満ちているんだ」 ログナスがつまらなさそうに言った 「初旅行にしてはメジャーな観光地ですね」 「そうなの?」 「そうです。豊かな国には必然的に人の流れが多いですから」 離れたところで祈りを捧げている人たちを見てユダはそう言った 「使者は、まだの様ですね」 少し不満そうな声だった 「呼びつけといて何様なんでしょうか」 「怒らない怒らない」 「俺が案内する」 答える前に王城の敷地に入っていった どこに行っても臆さない それがログナスだった 「待ってよ!」 遅れて僕たちはついて行った .

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