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第2話

王城内は静かで、まるで森林に囲まれた美術館にいる様な気持ちになった 小鳥たちが歌を歌い楽しそうに飛んでいる 「ここ、本当にお城なのかな」 ついそんな言葉が漏れた 「残念ながら城内だ」 少し前を歩くログナスが言った まだ拗ねているらしい 「そういえば、衛兵すら見ないね…」 普通ならそこかしこにいるはずの兵の姿が見えない 「普段はいない。城内に入るものは限られているからな」 そんな城があるのか? それって常に解放しているってことか 「それって危なくないの?」 「問題はない。問題を起こそうとするものは自殺志願者と決まっているからな」 当たり前のように告げた つまりそれだけ問題対処に自信があるってことなのかな 世界一安全と言われるだけの場所だ 逆にいえば敵対するなら世界一危険な場所ということになる 問題は起こさないと僕は無駄な誓いを立てた 開けた場所に出た 木々の真ん中に白い煉瓦の床と噴水があって魔法なのか水がリングのように重なり揺れて動いていて綺麗だった 「…何者だ」 立ち止まったログナスが言い放つ 僕は気配なんて気づかなかった 既に前方と後方を二人が守ってくれている …緊張感が伝播する のどかで平和な場所が一瞬で殺伐とした 僕は感知魔法を起動するが気配を一切感じられなかった 濃すぎる神気のせいか? 「…そこか」 片手を伸ばし無詠唱で青い雷を放つログナス 木陰が吹き飛ぶ 「…ユダ!」 ログナスが大きい声を出した 「見えました」 地面から荊が生える そして素早く動く影を包むように迫り拘束しようとする 「‥.捕らえました」 手をかざし魔力を放ち続けている この場所は親和性が高いらしい。植物魔法が魔力に満ちていた 「……フッ」 影が笑う 「影法師」 小さく呟く声が聞こえた すると荊が無惨に細切れになる そこから素早く多方面に動く影たちが現れた 「増えた!」 八つほど増えた影が迫ってきた 「舐めるな」 ユダが呟き、追加の荊を生み出す 先程は拘束のためだったが今度は敵を殺すための植物魔法だ だが影は全てを斬った 「ッ!」 「任せろ」 ログナスがユダの隣に立つ 「雷よ 疾れ」 「荊よ 愚か者を阻め」 進行方向を塞ぐように波打つ荊 そして鞭のように現れた雷が影を穿つ そのまま横薙ぎに腕を振るうと影が消える 「やった!」 僕は勝利を確信した 「喜ぶには早いんじゃねぇの?」 僕に耳打ちするように声が聞こえた !? 「動くなよ」 首に冷たい感触がした い、いつのまに 「「!?」」 二人が気付き振り返る 「セウス!」 「坊ちゃん!」 「よそ見はあぶねーぜ」 影は笑う 「クッ」 二人を囲むように影が現れる 詰みだった 「セウスを離せ」 「それが頼む態度か?」 「何が目的です?」 二人がなんとかしようと足掻く 「下手くそだな。会話で気を逸らして背後から奇襲。悪いがそんか子供騙しじゃ無駄だぜ」 「「…」」 見破られていたようだ 僕は気づかれないように魔法剣に手を伸ばす 「おっと子猫ちゃん。やめておいた方がいいぜ」 それも看破された 何者なんだ …ー! 「!」 突き飛ばされた 「わわっ」 「!」 前にいたログナスに抱き止められる そして後方を見る すると影はナイフを構えながらどこかを警戒している 「な、何が起きて…」 「狙撃されたようだ」 「そ、狙撃?」 全く音がしなかった だから僕は突き飛ばされたのか 「あぶねーだろこら!」 「黙れ。ここを何処だと思っている」 静かな声音が聞こえた 見ると木々の合間の先の通路から銃を構えた男がいた 「少し揶揄っただけだろ」 「この件は報告させてもらう」 「チッ、この唐変木」 影の男は舌打ちをして髪をかき乱す そしてはぁと大きいため息を吐いて その黒い外套のフード外した 濃い緑の髪で少し垂れ目の美少年だった 「…子供!?」 「お前も子供だろーが!」 怒られた その通りだけど 「貴様何者だ」 「元同級生に言うことか?まぁ直接会ってねーしな」 少年はそう笑った 笑うと意外と可愛い 「なんだお前?俺に惚れたか」 ニカっと笑って僕に近づく だが二人が壁になる 「おおこえーこえー」 「ふざけるのも大概にしろ。身分を明かせ。貴様の上官に直訴してやる」 「はいはいお好きにどうぞ。つまんねー奴」 やれやれといった態度だ そういえばさっき助けてくれた人は …既にいなかった 「初めましてお客人。ここは聖リトリシア皇国王城内、夢見の箱庭」 先程と全く違う様子に、まるで役者のようだと思った 既に貴族のような立ち振る舞いだった 「此れより先を案内させて頂きます私、ヒスイと申します」 恭しく貴族のマナー通りに頭を下げる 「以後お見知りおきくださいませ」 顔を上げて怪しく笑った そして案内されながら奥へ進む 聞くところによると認可されないものが来ると自動的にあの空間で彷徨うらしい。下手すると一生出ることができない空間と聞き驚く 綺麗な庭に和んでいる場合じゃなかったようだ 白い通路を歩く 「おっとっと」 躓く すぐにログナスに支えられる 「ありがとう」 「気をつけてくれ」 「鈍臭いのな」 「….」 悪かったね! 少しだけ窪んでいたようだここだけ変なの 置いてかれそうになって慌てて追いかける 離れた先に建物が見えた まるで聖堂のようだった ……? 何かに触れた気がしたが思い出せなかった 「……なんだぁ?」 腰に手を添えて訝しむように大きな扉の前に立つヒスイ 僕たちはさらにわからないよ 扉の中から大きな声が聞こえるが何を話しているかまではわからなかった …! ヒスイがいつの間にかナイフを持っていた そして扉に張り付く その様は慣れているような精錬された動きだった ど、どうしたらいいんだろう ログナスは既に腰の剣に手を添えているし ユダなんて既に術式を構築している 殺意強いよぉ バンッ! 扉に張り付いていたヒスイは直前に離れていた 中から憤慨したような顔をした背の高い青年が出てきて僕たちを見て一瞬驚くが、すぐに軽く一礼して去って行った 「…なんだよあいつ」 イラッとした顔で文句を放つヒスイ 「それでは改めましてセウス・クルースベル様。中で我が主人がお待ちしております」 恭しい態度だった 「わかったよ。案内ありがとう」 彼は頭を下げたまま扉の取手に手を乗せていた 僕たちは中に入ろうと歩き出す 「お待ちください」 ヒスイに止められる 「何かな?」 「現在中に入れるのは招待された者のみでございます」 「それって…」 「お連れ様は別の場所にご案内させて頂きます」 「それは断る」 「規則ですので」 「断る」 「…」 ヒスイの額に血管が浮かぶ うわぁ素直にキレてる 「大丈夫だよログナス!友達に会うだけだからさ」 「だが危険だ。こんな輩がいる場所に一人にできない」 ピキッ 笑顔のまま青筋が浮かぶ それ以上キレないでー 「お願いだよ!何かあったら呼ぶからね」 事前に持たされた魔道具を示す この羽根飾りと似たような機能がある ユダの手作りのバラの形の飾りだ 「……何かあったらすぐ呼んでくれ」 そういってやっと頷いてくれた ユダは僕を見つめた後、頭を下げてログナスについて行った …ここに来てからさらに慌ただしいなと思った 「では中へどうぞ」 ヒスイは頭を下げたまま上げることはなかった 扉が後ろで閉まる時、何かを言われた気がしたが 閉まる音でかき消された そして前方を向く 白を基調とした室内で 黒く塗られた木と彫刻のような装飾で飾られた豪奢な部屋だった 壁にはたくさんの本が収納されている 部屋の中央の道を開けるように黒い木の机が十個あって 一番奥に十一個目の机があった そこに逆光の中で彼はいた 「いらっしゃい。よく来てくれたね」 椅子に座ったまま机に肘をくっつけて 手を重ねていたサイファーが笑っていた 相対する どこか、既視感を感じた 以前何処かで… 「疲れているかい。長時間の移動は疲れたよね」 ちょいちょいと手招きされ近づく トンとサイファーが机を指で叩くと白い椅子が現れた 魔法、なのか 「座りなよ。今お茶を淹れますからね」 「い、いいよそんなの」 「せっかく友人と会えたんだから、このぐらいさせて欲しいな」 寂しそうな声音でそう言われた し、仕方ないなぁ 儚げで綺麗なサイファーに僕も弱かった 「明日は入学式だね」 「うん。でもいいの僕なんかで」 「私が認可して推薦したのだから、文句は言わせませんよ」 笑ってカップにお茶を注ぐ ふわりと花の香りがした 「でも、他の人はまだなんでしょ」 「そうだね。君は半分客人扱いだから」 特別なのさと追加される 「受験パスして先に入学って嫌な予感しかしないんだけど」 「フフ、注目はされるだろうね」 青と白の皿に乗ったケーキを一口食べる うまっ! 「他人事だと思って」 「実際そうだからね」 悪びれなく言う 「大丈夫ですよきっと」 「どうして?」 「君はあの黒騎士ログナスの相棒と噂だし、大神官職の私が推薦した者だから簡単には手は出せないと思う」 「ええ!それってハードルたかくない!?」 「そうとも言う」 「あーこわいよー」 「そう怖がらないでよ。今年の子達は有能な子が多いみたいだし楽しみではないかい?」 「興味はあるけど、それどころじゃ…」 「君自身これからの為に強くなる必要がある。切願を果たすため口だけではなく力を示してこそ結果は出るものさ」 「…うん」 「他人に怯える必要はない。君は皆に守られているから」 「ここに来た時初っ端襲われたんですけど…」 「ヒスイだね。悪い子じゃないし優しい子だよ。君の世話もさせるつもりだから仲良くしてくれたまえ」 「「ええ?」」 「…」 振り返ったが気配は感じなかった 「全くあの子は…」 呆れた様子のサイファー 「荷物はもう届けたのかい?」 「うん」 「君がよければ宿舎ではなく屋敷を用意するのに」 「そんなぁ、他の人たちになんて思われるか」 「結構いますよ?滞在中家を借りたり買ったりする人たちが」 「ええ、僕もそうすればよかったなぁ」 今更だった 「寮生活も楽しいかも。相部屋だから楽しみにしてね」 「そうなの!?」 「君、本当に何も知らないで来たのだね」 呆れられてしまった だって嫌だったんだもん 現実逃避して屋敷に引きこもっていた 「うぅ、嫌だよぉ」 「仕方ない子だ…」 席を立ったサイファーが僕の横に立って僕を抱きしめる ふわりと花の香りがした 「え、ええ…あの」 「よしよし。怖くないですよ。何かあったら私になんでも言いなさい。助けてあげるからね」 甘やかされるように背を撫でられる 蕩けてしまいそうだった 「………うん」 「フフ………いい子だ」 見つめ合う 瞳は開かれてないのに 僕は何故かその奥の色を知っている気がした 「ズルい!」 バンッという音と共に扉が開き 髪が乱れたヒスイが立っていた 「……」 「ひぃ」 見られた恥ずかさで丸くなる するとさらにサイファーの胸の中に埋まる! 「あー!どさくさに紛れて何やってんだよテメー!エロガキぶっ飛ばす」 「ち、ちがッ」 「はぁ、全く…」 サイファーは人差し指で上を差した後、ヒスイに向ける それにはヤバっという顔をしてヒスイは逃げ出した 外から扉越しに大声が聞こえる 「全く懲りない子だ」 「…もういや」 そのままポンポンと背を叩かれながら僕は抱きしめられていた 「……」 「……」 気まずい 頭に枝が突き刺さったままのヒスイが苛立ちを隠さず前を歩く 今はログナスたちがいる場所へ向かっていた 「あ、あの」 「なんだよ」 「ひぇ」 僕はビビる こう不良みたいなのが周りにいなかったせいか耐性がない つまりは怖いのだ 甘やかされてきた弊害だった 「いちいちビビんなよ何もしねーよったく」 不貞腐れたように言い放つ 悪い人ではないのかな 「ごめんね。まだ慣れなくて」 「別にいーよ。お前気弱そうだしなチビだし」 殴っていいかなこいつ 前言撤回である 「おい」 「はい!」 振り返っていたヒスイが僕の鼻頭を人差し指で突く なんだよー! 「忠告してやる」 「な、なに?」 「ここで無事に平和に生きてーなら、御師様に惚れんなよ」 「え?」 「だから惚れんなっていってんの!」 耳も悪いのかよと言われる 失礼じゃないかな君 「御師様?って誰?」 「御師様は御師様だよ」 「答えになってないよ」 「はぁ理解力もないのかよ」 「君!さっきから失礼じゃない!」 「はいはい、わるーござんした」 全く悪びれてない様子だ 「だから………」 「聞こえない」 「だから!サイファー様だよ!」 顔を赤くしてそういった 何処にそんな様子が……まさか 「もしかして君、好きなの?」 「はぁ何が?」 「御師様のこと?」 「誰が?」 「君が」 「俺が?」 そういって自分を指差して固まる そのまま真っ赤に顔が赤くなる 「なっ!何言ってんだよ子供が!」 「君も子供じゃないか!」 「お前より二つは年上だ!」 「そうなの?ならログナスと一緒なんだ」 「知るか!ち、ちげぇからな変なこと言うなよお前!…ぜ、絶対言うなよ言ったら殺すからな」 物騒なことを言っておきながら背けても見える耳は赤かった ふふふ、弱みゲット 「まぁ考えとくよ」 先に前を歩く 「な、てめぇ!馬鹿にするなよ!違うからな!」 「はいはい。あとテメェって呼ぶのやめてよセウスって呼んで」 「そーかよ。だったら俺様を君って呼ぶな。ヒスイでいい」 静かな白い通路を二人で歩く ここに来て初めてできた 友達かもしれないな なんて思った通り道だった

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