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第4話

「ログナス!!」 黒い光が消え、音と視界が戻るとログナスが吹き飛ばされたのか壁に埋まっている 「風よ!」 魔術で飛んでログナス元に行く 「ログナス!ログナス!」 体を揺する 「ッ………セウス」 なんとか意識はある様だ 「う、動いちゃダメだよ!酷い傷だ」 黒い騎士服からもわかるほど、深い傷だ 血が、血が溢れている 「あっ、…うぅ、ッ!?」 混乱した僕を、ログナスが手首を掴み、抱き寄せる 「ろ、ログナス」 「…大丈夫だ、セウス」 絶対、大丈夫なわけがないのに それでも優しく僕を抱きしめる 僕がしっかりしなきゃいけないのに 「今治療魔法かけるからね!」 抱きしめられたまま魔術式を構築させる 早く!早くしないと! 焦りながらも頭の中で作業を行う 「落ち着いて」 静かな声音で制される 「でも!」 肩を掴まれたので振り返る そこには微笑んだままのサイファーがいる 「回帰せよ」 一言そう言うとぐわん!という不思議な衝撃と共に 目が眩んだ 「な、なに…」 意識がすぐに回復すると 「これは…」 「治ってる!」 重症だったログナスの身体の傷が消えていた 驚いたまま固まる僕たち 「ここの空間は結界で遮断されていてね。正確には違うんだけど、まぁこの領域で即死しない限り無傷に戻せるんだ」 そんな、神の御業の如き技術だ 簡単にできることじゃない 「驚いた?フフ、でも無制限ってわけではないからね。一定時間内で、私が観測している間だけだからその条件がないと流石にその傷だったらしんどいかな」 流暢に話す ここに来てから、何から何まで驚かされる これが世界規模の厄災と戦う人たちのレベルなのかもしれない スッ… 音を立てずにシルヴァがそばに寄る 僕はつい身構えてしまう 「お疲れ様」 「お待たせして申し訳ございません」 「面白いものが見れた。お前があれを使うなんてね」 「…駄目だったでしょうか?」 「問題ない。好きにしろと命じたのは私だし」 二人は僕たちを見る そっか、負けちゃったのか 勝つ見込みが低かったとはいえ現実を目にするとなかなか ショックだった 僕でそうなんだ。本人であるログナスも辛いかもしれない 僕のできることをしようと決意する 「さて、試験結果を発表しようか」 明るい声でサイファーが言った 「え?だって…」 チラッと険しい表情のログナスを見てから視線を戻す サイファーが一歩後ろに下がりシルヴァが悠然と前に出る 手甲の中の黒い手袋をした手をログナスに差し伸べる 困惑した表情をしたものの通例的な行為だからその手を握り立ち上がる 「騎士ログナス・ヴァーミリオン」 抑揚のない通る声だった 「…はい」 今は我が国の黒騎士としてではなく一生徒としての態度だ 「これにて貴殿の卒業試験を終える。卒業おめでとう」 パチパチと軽い拍手をサイファーがする 卒業? 「俺は、負けたんだぞ…」 「………」 「口下手だなぁ」 「申し訳ございません」 「代わりに、勝敗はそこまで重要ではない。もちろん銀冠の騎士を倒したならそこで一発で合格。でも相手はシルヴァだ。剣を一度抜かせた時点で合格。人類で一%も出来る人間はいないさ」 そう言いのける 「つまり、合格基準は達成したってこと?なんか釈然としない様だけど」 ログナスを窺いながら言う 試験前のルール説明では詳細ではなかったし 結構そこは曖昧なのかもしれない ログナス自身としても納得はしてなさそうだ 「銀冠の騎士相手にならどんな形であれ認めさせればいいのさ。以前には戦闘すら起きないで合格したものがいるし」 小さく思い出し笑いをしているようだ どんな方法を使ったんだろう?精神攻撃? 興味を引かれたが今はそれどころじゃない 「そして、ここでは私がルールだ」 態とらしく胸を張って言うサイファー 可愛らしいけどさ… 言ってみたかったんだよねと嬉しそうに僕に言う 「それとも、不合格で国外退去がお望みかなログナス君」 「……いえ、私はこの国に残れれば良いので受け入れます」 自身で感情を処理したのか既に淡々と話す 僕を横目で見ながらだったので、僕のために….だろう 気持ちを押し殺してまで心配をかけさせてしまったんだろうな 僕は少し、自分が情けなく感じた 「それではこれにてお仕舞い」 手をパンと叩いて言った 「見物客も帰ったことだし、彼らも戻ってきたね」 見物客?と疑問に思ったが視界に苛立った様な顔をしたユダが僕を見て表情を通常に戻した 後ろには口笛を吹いてついてきたヒスイもいる そういえば何をしてたんだろう二人で… 面識もほとんどないのに 「おかえり」 「留守にして申し訳ございません。試験は、終わってしまった様ですね」 「うん。合格だよ」 一瞬、鋭い目をした後、すぐに戻して 「それは流石ですね。おめでとうございます」 「…そうめでたいことでもない。恥を晒しただけだ」 少し、拗ねた様な雰囲気を感じた こんなログナスは初めて見る 「…なんだ?」 「ううん。何でもない」 見つめすぎていた様だ 「君たちはこれから観光かな」 「そうするつもりだよ」 「ログナス君は書類の手続きがあるから残ってくれたまえ」 「な…」 「幼子の様な駄々はやめておくれよ?早く終わらせれば後は自由さ」 「じゃあ三人かぁ」 「…申し訳ございません坊ちゃん」 「ユダ?」 「従者用の宿舎の確認と手続き、坊ちゃんの荷物の一部に不備があったようなので確認して参ります」 「そうなの?任せちゃっていい?」 「お任せを」 お辞儀をしてユダは去っていった どこか、いつもと様子が違う気がする… 「では二人で行ってきなさい。ヒスイ頼みましたよ」 「お任せくださいっすよ!」 ガッツポーズをするヒスイに呆れる 「最近、よくないところで遊ぶ子らも最近見受けられる様だ。君たちもくれぐれも近寄ったり巻き込まれたり手を出したり、しない様にね。わかったかい?」 なにかメッセージ性を感じるけどよくわからないから頷く こんな恵まれている国でもやはりそう言った裏の部分があるのだろうか そう思って同じく注意喚起されたヒスイを見ると 冷や汗をかいて青白い顔をしていた 「ヒスイ!?大丈夫!顔が真っ青だよ!?」 「へ、平気だぜちくしょーめ!てやんでぃばぁろうめ!」 言葉がおかしいよ! 「では解散」 その一言で僕たちはそれぞれ行動に移した 最後までログナスがじっと見つめてきたが 心を鬼にして王城を後にした ▼ 「どう?落ち着いた?」 「…ああ、すまねぇな…」 なんとか青白い顔の顔色が戻ったようだ 市場で買った冷たい飲み物を渡して飲むと少しは落ち着いたみたい 「……やべぇ、やべぇよ。なんでバレちまったんだ。巡回はされてないはずなのに…。ちょっと遊んだだけなのに」 とぶつぶつと呟いていたが六巡目ぐらいから振り切れた様だ 「こ、こんな色男をガキ扱いすんのが悪りぃんだよなそうだよな!」 「はぁ…」 知らないけどバシバシ背を叩くのをやめてほしい 「ちょっとばかし飲み屋とカジノ行ったぐれーで怒るんだもんなー」 「未成年だよね。普通怒るでしょーさ」 「お堅いねぇ。そんなんだとチビのまんまだぜ?」 「あっサイファー」 「アピョッ!?」 変な奇声をあげて飛び上がり、周囲を窺う そして僕に騙されたと気づき頭を掴んできた 「よくも騙したな!」 「自業自得!やましいことするのが悪いのさ!」 「別にやましくねぇよ!健全健全」 「それ伝えていい?」 「勘弁してください」 シュンとしたヒスイに露店でキャンディーを買ってもらって手打ちとした ん甘い 「さて、どっかいきてぇとこあんのか?」 「えーと、特には」 こっちに来ることで手一杯だったのだ ログナス達に任せようと思ってたし深く考えてない 「じゃあ俺様が連れてってやんよ」 「……」 「なんだよ?」 「変なところに連れてかれそう」 「そんなとこにお子様を連れてかねぇよ」 「お子様って、ヒスイもじゃん」 「俺はいーの。さっさと行こうぜ」 「はいはい」 歩き出したヒスイについていく 広く整備された道を歩く 白い壁に青い屋根の建物が続き統一されている 「なんか珍しいか?」 「うん。この国は景観を統一しているの?」 「強制はしてねぇはず。創世神とやらとここの人間は月女神の末裔だと信じているからな。その名残と象徴である青と銀と白を好んでいるらしいぜ」 「そうなんだ。あれヒスイはこの国の人じゃないの?」 その口振りから距離を感じた 「違うぜ。別に銀冠のメンバーの国籍はカンケーねぇ。多分全員生まれた国は違うはず、多分」 曖昧に言う 「へぇ、ヒスイはどうやって騎士に選ばれたの?噂ではスカウトって聞いたけど。ここの学校の卒業生だしそこで?」 そう聞くとヒスイは立ち止まり視線で白いベンチに促して座った 「待ってな」 一言言って離れると露店から暖かいミルクティーと自分は煎茶とやらを買ってきたようだ 「はい」 「ありがとう」 お礼を言って一口飲むとふわっとキャラメルの香りがして美味しかった フレーバー付きなんだね 「これも食えよ」 「ありがとう。意外と気がきくんだね」 「意外とはいらねーぞ」 揶揄うように言ってふわふわのシフォンケーキを貰った 中には生クリームとイチゴが挟んである ジャムも挟んであるようでとても美味でした 咀嚼しながら景色を見ると市場近くには 宗教国家だからかみな同じような白い布に、花の飾りがついた独特の格好をしている国民が見れた この国は神の都エルドラドに住む人々の末裔だとか でもあれは確か金の… 「さっきの話、聞きたいか?」 思考の途中で話しかけられた ついまた脳内で思考の波に乗ってしまっていた 「うん」 一口自分のお茶を啜って、視線を上にして正面にある王城を見つめている その目には憂いがあった 「俺は北の大陸の生まれだ」 「えっ」 驚きだったあの大陸の出身者か 世界一広い国土と歴史を持つ国家がある大陸 僕たちの住む大陸では百年前ほどから交易があるらしく 相手は最初侵略作戦があったと噂になったが そうはならず、遠すぎず近すぎず距離感を持って交流を続けている 渡来してくる者もいるが 古い歴史の中のなかなか残虐的で恐ろしい国の話をよく聞く 大陸の小国同士の小競り合いを執着させるため連合国となったが従わない民族や宗教の者達を弾圧し処刑していたと、その数は凄まじい数だと聞いた そんな野蛮で残虐、と思われる大陸の国が三分の一にも満たない大陸の国家相手に侵略戦争の話が出た際何があったかわからないけど戦争は起きなかった 「あの頃はまだこの国とも交流はなくてその親交の為に使節団として俺は連れてこられた」 「そうなんだ…」 遠い国だ まだ幼いのに海を越えて親元から離されてきたのは不安で寂しかったことだろう 「偉そうな髭ジジイと大人ども、そして俺と同じ餌のガキどもでこの国にやってきてパーティに参列したんだ」 「嫌いなんだねその人たち。餌?」 「あの国はな。自分の国の十歳以下の子供を他国に連れてって贈り物にすんだよ」 「そんな!非人道的すぎる!」 「ハハッ、そうだな。だが俺たちにとって当たり前だった。もともと俺は弾圧された龍虎の民つってな。圧政と弾圧に抵抗したんだが大人は皆殺しにされた」 「……酷すぎる」 「それでガキだけさらって。俺たちの民族は見目が良くてな。ほら俺は髪が深緑色で瞳が翡翠のようで美男だろ?」 龍虎の民でしかいないらしい だから自惚れているのね 口には出さないけどね! 「それで、使い捨ての暗殺者として育てられて送り込まれたってわけ」 「えぇ!?」 ニヒヒと笑う 「…」 その境遇に僕は絶句した 自分だけが不幸だと、そうは思わないけど 彼がそんな辛い目にあった人間には思えなかった それでも嘘は言っていないと思う 子供は搾取される シンプルに弱者だからだ 死んでも生きても困らない むしろさ死んでくれた方が食糧が減らず病も広がらない 寄る方のない子に犯罪をさせ使い捨てとする非人間的な奴等がいるのは よく知っている あの、研究所がそうだった 知らなかった では済まされないことも…… 「そんな暗い顔すんなよ。俺にとってはよかったんだよ」 明るく言うヒスイの顔を見る 優しく微笑み僕の頭にポンと手を置く 「あの人に出会えて俺は生きる意味を知った。生きたいと思った。既に死に体の俺を、見つけてくれたんだ」 穏やかな目でヒスイは思い出しているようだった 「だからよ。一族は俺以外滅んでも、俺は不幸なガキのまんまじゃ無かったんだよ。確かに不幸で、憎むことも悲しむことも散々あったが今が良ければいいじゃん。って俺は思ったわけさ!」 何でそんなふうに思えたのだろう 何が彼をそこまで立ち上がらせたのだろう 彼にとって不幸な出来事が糧となり今がある それは、多分わかる あの地獄と罪があるから今の僕がいる だけど、それでも僕は 『許せない』 それはいまだに黒く、深く、濁っている そして今も復讐の炎が燻っている ……… 「言われたんだ。好きにしろって。助けたつもりもないし強要もしないし恩を感じる必要もないむしろ迷惑だ。と」 「随分とはっきり言うね」 「昔からそうさ。御師様はいつも静かに微笑んで己で選べと言う。だから俺は選んだ。誰よりも強くなって御師様を幸せにするってな」 そうはっきり言った横顔は とても揶揄う気になんてなれない強く真っ直ぐで 彼の騎士としての誇りと誓いだとわかった 「へへ。くそ恥ずかしいこと言っちまったな」 照れたように笑い僕の頭を一撫でしてベンチから立ち上がる 背伸びをして空を仰ぎ見た 「だからよ。お前も頑張りすぎんなよ」 「えっ?」 空を見上げたままだった 「大切な人が一人で苦しんでいることほど、辛いことはねぇーんだからよ」 その言葉の真意はわからなかったけど 頭によぎったのは 大切な人たちの笑顔と たった一人の僕の騎士の姿だった ▼ 「……」 「ねぇ飲まないの?本当に坊やすっごく可愛いのね。今夜お姉さんと遊ばない?」 「ちょっと、私が弟にもらうの!」 「そっちなの?じゃあ私は彼女にしてもらおうかしら」 「ほら、あ~ん」 「きゃ!食べる姿まで可愛い!癒されるぅ!」 「ねぇねぇ?うちの店で働かない?もちろん給仕で働いて休憩になったら私たちを癒してもらえたらいいからさ」 「チッ…」 「……ふぁ」 なぜこうなった 先程まで飄々としたヒスイが、心の本音を語ってくれて 見直したところだったのに 僕は女性たちと可愛い男性たちに囲まれている 端っこでやけ酒のようにシュワシュワした飲み物(酒ではない)を飲んで憎らしげに僕を見ているヒスイ お前が連れてきたんじゃないか に、逃げたい 一刻も逃げ出したい 「わぁほっぺぷにぷに!」 「ほんとだぁ!」 「やぁーーんかっわいい!」 「マジ俺の弟にしてぇ」 「ちょっと私の弟にするの!」 僕を中心にそれぞれ騒いでいる どうしてこうなった… あの後広場の見事な噴水や教会、皇立図書館や博物館などを案内してもらって途中飲み物やお菓子、二人の分のお土産まで一応買ったりして充実した観光していたのに 路地裏に連れ込まれて怪しげなお店に入った そしたらこのザマだ 表の人たちは清廉とした信徒たちでいっぱいだが ここは白い建物にさまざまな色の布で覆われて外界と遮断されていて別世界のようだった 露出が多くいい匂いのする美男美女が接客している こ、ここって大人の来るお店じゃないのか? さっきまで一途に思慕する一人の男感出してたくせに 楽しそうに両手に花で騒いでいるヒスイ 好感度がガタ落ちである こんなところでユダやログナスに見つかったら何を言われるか 大騒ぎになる ぼ、僕は無実だ! あ!服を捲らないで!お触り禁止! いちいち僕が慌てるたびにここの人たちは楽しそうに笑う 泣きたいよこっちは…… そしていつのまにかたくさんの人が僕のところに集まり 他のお客さんが冷たい視線で僕を見ている 僕は無罪だ! 「と、ととトイレに!」 「あらそう?場所わかる?ついていってあげようか?」 「もうウブな子に手を出す気か?俺が案内してやるよ」 「ダメダメ!あんたが手を出すとみんな豚さんになっちゃうんだから」 「大丈夫。この子は特別に子犬にしてやるぜ」 「子猫じゃない?」 「「たしかにー」」 ひぇ 逃げなきゃ ソッと離れると衝撃があった ガシャン 「あっごめんなさい」 ぶつかった人の背負った鞄から何か落ちてそれを拾う バチッ!! 「ッ!?」 闇の瘴気が広がる 「…!」 「わっ!」 後ろから引っ張られて後退させられる 「クソ!何しやがった!」 ぶつかった男がそう言った 「ぼ、僕は何も」 ぶつかってしまったけど それより、この気配この魔力は 「おいおいこの国でそんなもんどうやって持ち込みやがった?死にたいらしいな」 ヒスイが苛立ったように言う 「うるさいガキが!ぐわっ!」 男を一瞬で床に押し付け拘束するヒスイ 見事だった 「ッ!あぶない!」 ヒスイに抱きつくように突き飛ばす 「なんだよ!」 驚きながらも僕の背に腕を回し衝撃を抑える 先程までヒスイがいた場所が闇の気配で澱んでいて 男が半分飲み込まれ苦しんでいる 「きゃあーー!」 店員さんが悲鳴をあげると固まっていた店内の人たちが我先にと逃げる その中に、あの赤黒い光を宿した何かを持っている人物が人並みに紛れ出ていくのが見えた それを僕は追いかけた 「おい!どこに行くんだ!って!」 手を伸ばしたヒスイの手が空を切る 「邪魔すんな雑魚がよ!」 「グガァアッ!!」 白い牙と長い赤い舌で目がなく 黒いものが纏わりついた元人がそこにはいた 駆け出していた僕はそれに気づかぬまま 外に出てしまった 外に出ると人がぶつかりながらも外に無闇に走って逃げる 衝撃に耐えながらも僕は走った …いた! 後ろ姿が見えた この国の人と同じ白い布を多く使った服を着ているが その禍々しい気配があるものを持っていてすぐにわかる 何で最初は気づかなかったんだろう 「そこのお前!待て!逃げるな!」 追いかけながらそう言った 奴は振り返り角を曲がりながら逃げるが僕も障害物を避けて走る 「待てって、言ってるだろ!風よ吹き飛ばせ!」 短縮詠唱魔術で奴を攻撃する 動きを止めるだけだ 緑色の光の風が奴にぶつかろうとした だが防がれる 「イクシオンの猛火!」 凄まじい熱風で防がれた 聞いたことのない呪文だ だが奴の足は止まった 「お前何者だ!」 「お前こそ何のようだ。失せろ」 その声はひどく冷たく、殺意を感じた だが僕は引かない 「何を隠し持っている!」 「ッ!なぜ貴様が知っている。奴の手先か」 「誰のことか知らないけど、それは闇の遺物か暗黒系統の魔道具だろ?そんなものをこの国に持ち込むな!」 「部外者なのか?ならなぜ…まぁいい。邪魔だけではなく何か知っているようだな。後々障害となるだろう。ここで死ぬがいい」 「殺されるつもりはないぞ!」 奴が何か仕掛ける前に僕は魔術を行使する 「豊穣の大地 慈雨(慈しみの雨) それは地に根を張る眷属へと流れる命の恵み 天界に根ざすもの!パーリジャタ」 赤い木の根が地面から飛び出して奴を覆う 高位魔術だ! 「やるな。だが甘い。彼のものよ 聖なる光を降りそそがん ホーリーレイ」 黄金色の瞳が輝きその手から巨大な魔法陣が浮かび上がって光の束が雨のように降り注ぎ僕の魔法とぶつかり合い相殺する あの短時間の詠唱でこの威力だ 只者じゃないし、それにこの気は神気だ 「神の信徒のくせに禍々しいのを持ってきて何がしたいんだ!」 まさか咎人?そんな思考が浮かんだ なら僕の復讐の相手に関する情報が得られるかもしれない 「何も知らない愚かな雑種風情が何を言う。……貴様、その魂は、なるほど奴の手先らしい穢れた咎人め」 「ッ!?」 僕が、咎人? いや違うそんなはずはない 奴の言葉に動揺するな 「関係ない!何か悪さをする気なのは明白だ!僕が許さないぞ!」 何とかしてみせる 守られてばかりは嫌だ! 拳を握りしめる 「許しを請うのは、貴様だ!」 奴の神気が膨れその手には金色の槍が握られていた それを僕に向け突き刺してくる 「解放せよ!我が敵を滅する!」 魔法剣に魔力を流す 互いの刀身がぶつかり激しい光を放つ 奴は強い だけど負けるつまりは全くなかった だが僕はまだ知らなかった この国で起きている出来事を 膨れ上がった闇の恐ろしさを

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