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十六、私も頑張りますので

 冬が近づくにつれ、数少ない外部受験組はピリピリし始め、クラスを越えて結束するようになった。俺は篠井越しに何人かと親しくなり、情報交換をした。  一方の内部推薦組はのんびりと残りの高校生活を楽しんでいる。春日もその内の一人であって然るべきなのだが。 「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」  センター試験のプレテスト帰り、塾近くのコーヒーショップで落ち合った春日が、そんなことを聞いてきた。  日本のカップル最大のイベントを前に、俺の予定帳は朝から晩まで直前講習びっしりである。その落胆が顔に出たらしい。 「そんな顔しないで……分かってる、志門くんにとって大事な時期だってことは」  付き合って初めてのクリスマスだぞ、チクショウ。ええい、来年は性の六時間を堪能してやる。 「志門くん」  氷の声で名前を呼ばれた。邪な考えも表情に出てしまったらしい。 「で、何が欲しい?」  春日からもらえるもの。なるべく身につけられる物がいいな。 「んじゃ、手袋。ちょっと今の、ぼろっちいから買い替えようと思ってた」 「手編みは無理だよ」  春日が冗談を言うが、編み物か……何事も俺より器用にやる男だが、そういう器用さはない気がするな。 「高級ブランドとか止めろよな」 「まさか、志門くんに似合うの買ってあげる」  春日が含み笑いをした。どういう意味だよ、くそ。 「じゃ、春日は何が欲しい?」  俺が聞き返すと、春日は目を瞬かせた。 「え?」 「じゃ、ないよ。俺も春日にあげたい」  なんで俺からもらうことを考えてないんだ。 「ん……じゃあ、ボールペンとか」  文房具? 春日なりに気を遣ってるのかもしれないけど。 「もうちょっと良いの言ってくれよ。そこまで貧乏じゃないぞ、俺」 「……だって、いつも使えるし、それなら」  ふと、共通科目の授業を受けている春日の姿を思い描いた。その手にあるのは俺のプレゼントのペンか。春日はペンを噛む癖があるんだよな、考えてる時にさ。物思いに耽る春日の歯にカリカリと……嗚呼。 「志門くんってば」  いかん、本人を前に妄想してしまった。 「なんか……もう、同じ教室にはいられなくなるんだよなって」  よりにもよって俺たちは高三で付き合い始め、学部どころか大学が別になってしまうのだ。 「ん、まあ……いつでも連絡してくれれば」 「春日は、自宅から通うの?」 「そうだね、工学部のキャンパス、高校より近いし」  そうか。俺も残念ながら、自宅から大学に通うのだ。今更、独り暮らしをしたいだなんて親に言えない。 「ボールペン、大学でも使えるような奴、買ってやるよ」 「ん」と、春日は鼻でうなずいて、コーヒーを飲む。喉仏が動いた。春日の中を這うその液体が、俺は羨ましかった。  友達にクリスマスプレゼントを買うと母に申告して、お年玉貯金からの予算をゲット。海外の文具メーカー製だという、流線型の美しいボールペンを買った。  春日もクリスマス当日はホームパーティーだとかで忙しいらしいので、その少し前に会うことにした。と言っても、直前講習は朝から晩までびっちり、昼休みに例のコーヒーショップまで春日に来てもらう、慌ただしいスケジュールだ。  前の日の夜、なかなか寝付けなかった。春日に会えるのは嬉しいんだけど、イチャイチャする時間が全くないのは寂しい。俺たちは喫茶店で軽いキスさえ出来ないのだから。  俺は暗がりの中、自分の机を見た。その上に置いた鞄の中には、春日へのプレゼントが入っている。気に入ってくれるだろうか。デパートの文具売り場でプラチナのボディを見た時、これが一番春日に似合うと思った。隙のない美しさ。それが春日の手にしっくりと収まる様を想像して、俺はニヤニヤした。  俺のプレゼントを手にした春日か……すらりとした指先が掴む棒状の……棒状の……いかん。  布団の中で思わず足を丸めるが、もうそこはじんじんと温まっている。春日の手はあれでけっこう力強くてだな……いやそうじゃなくて……春日はオナニーとかすんのかな……いやそうでもなくて……やっぱりお尻の穴をいじるんだろうか。ボールペンなんかあげて大丈夫かな。俺と出来なくてムラムラした時に使っちゃったりして。  でも春日の中ってすごい熱いし、あのボールペンはちょっと冷たすぎるんじゃないか。入れた拍子に、その冷たさにびっくりして、でも我慢できないからごしごし擦ってる内に体温が伝わってくるんだけど、やっぱり細すぎるから物足りなくなって。春日のあそこは感じてくるときゅうきゅうするから、ボールペンでも締め上げちゃうな。それで気持ちいい所を自分で突いて、感じてるのと寂しいのとで涙目になって、 「志門くんとえっちしたい……」  とか何とか言いながら、一人イッちゃうのか。くそ。俺も今一人でイきました……じゃないよ。何やってんだよ。  そんなわけで、明くる日にコーヒーショップでプレゼントを渡す時、まともに春日の顔を見ることができなかった。 「どうしたの、志門くん?」  俺の態度がよっぽどおかしかったのか、春日はプレゼントにあまり喜ばず、変な顔をしてしまった。  春日がプレゼントしてくれた手袋は、ボーダーのニットのもので、スーパーの衣料品コーナーではまず買えそうにないブランド物だ。ボーダーの色づかいがカラフルかつ大胆で、手の甲は太めの、指先は細めと強弱がついている。 「志門くん、もうちょっと明るい色の方が似合うよ、服」  春日は俺の私服を眺め回している。俺は春日と自分を見比べた。ワインレッドのダッフルコートが椅子の背に掛かってて、その下は白のセーターと黒のボトムス。対する俺は、中学生の時に母親が特売で買ってきたダークグレーのセーターを未だに着ているのだ。 「うーん……今まで制服だったからなぁ。大学だと私服だしちょっとは考えないとな」 「そうだね、母親が買ってきた服を何年も着回すのは止めた方が良いね」  図星を突かれた俺は黙り込む。 「ごめんって。今度一緒に服買いに行く……って、時間がないか」  うっうっうっ。みんな受験が悪いんや! 「ああ、もう次の授業の時間だ!」  飲みさしのコーヒーを一気飲みして、俺は立ち上がった。手袋を早速はめよう。肌触りも違うなこれ。 「ん……志門くん……行ってらっしゃい」  何か言いたそうな春日を置いていくのはつらかったが、俺は塾の校舎へダッシュした。  そして、春日からのラインに気づいた頃は、もうとっくに夜になっていた。 『初詣、一緒に行こうよ。その後少し、初売りも見よ』  俺はその言葉を胸に、残り少ない今年を乗り切ったのだった。  ──一月三日。  朱の大鳥居をくぐり、神社の砂利道をザクザク踏んで、本殿を目指す。他地方から参拝客も来る有名な神社なので、人出がまだ多い。春日とくっついて歩けるので、混雑は大歓迎だ。 「ここさー、一日に来ると、並ぶんだよね。三日だと、空いてて良いよ」  春日の頬には、白のダウンジャケットのフードについたファーが添えられている。俺も一張羅の黒のダウンジャケットなんだけど、隣に並ぶと値段の差が分かるな……くそ。  家族と行った近所の初詣では合格を祈願したが、春日を隣にして願うのはただ一つのことだ。心なしか、手を合わせて目を閉じる時間は長くなった気がする。  社務所をちらりと見たが、既に元旦の初詣でお守りを買ってしまったので、遠慮しておく。 「志門くん、お金あるよね?」 「うん。お年玉持ってきた」 「んじゃ、服、何か買おうか」  ここは素直にお洒落上級者の春日を師と仰ごう……でも、素材の差ってあるよね。  春日が連れて行ってくれたのは、俺の家の最寄り駅でも見かける、若者向けのブランドショップだった。白い壁に明るいフローリング、ひっくり返され続ける服を畳み続ける店員。全品半額になっているらしいが、んじゃいつもの値段って何なんだろう。 「そういうモノだから深く考えないの」  ……だそうである。  メンズのコーナーはカップルがちらほらいて、彼氏の身体に服を当てて嬉しそうにしている女がいた。 「ほら、こういうのとか」  で、俺も春日に服をあれこれ押しつけられる。ピンクとか嫌なんだけど!? 「ちゃんと鏡見ろ、鏡を」  春日に言われて、ピンクのカーディガンを羽織って鏡を見ると、頭で思ったのとはだいぶ違う……うん。悪くないような。 「志門くん、ひょっとして明るい色、避けてない?」  そうかもしれない。夏の制服とか、白いシャツ着るとすごく子供っぽく見えるんだよな、俺。 「似合うのに」  と春日に言われては俺に意見などない。着せ替え人形さながらに春日の勧めに従い、予算の範囲でトップスとボトムスを買う。受験の時の勝負服にしよう。  店を出たところで、時計を見ると午後三時。お茶の時間……だろうか。 「えぇと、その」──どこか店に入る?と言いたいのだが、それは俺が本当に言いたいことではなく。 「こっち」と、固い声で春日は言うと、俺の意志など確認せずに、アーケード街をすたすた歩き始める。  迷いなく歩く春日の後ろに、ひょこひょこついていく俺。ああ……どこ行くんだろう……ここからY駅はちょっと遠いんだけど……でも……。  アーケードを抜けて、あっち折れてこっち入って、だんだん人気なくなってきたし、あの、つまり。 「正月早々、ホントに元気だよね」  春日が腕を組んで憤然と立ち止まった建物は……和風の旅館がコンセプトらしい、ラブホテルだった。 「あ、えっと……ここ、良いの?」  ラブホテルは、男同士の利用を断ることがけっこうあるらしいのだ。 「入れる。調べた。っていうか、俺任せにしないで欲しいんだよね」  春日は長めの襟足をさらりと掻き上げ、俺をしらっとした冷たい目で見た。 「だって……姫始めとか言ったら怒るかなぁって」 「今更、怒るわけないでしょ!!」  ……怒鳴ってんじゃん。 「あほくさ」と吐き捨て、春日は中へ入っていった。俺は咄嗟に紙袋をぎゅっと抱きしめてしまった。服が入っているから柔らかい。  中のフロントには係員がいて、ちょっと恥ずかしかったが、向こうは慣れた様子だ。また全部春日任せにしちゃったけど。  Y駅周辺のどこかうらぶれた感じとは異なり、内装はピカピカ、やや過剰な赤と黒で彩られた和室だ。ベッドだけど、布団敷きっぽくしてあるし、風呂が何と檜である。わくわくしながらお湯を溜める。 「もう少し値段出せば露天だったけど、これで良いでしょ」  と、もう春日は服を脱いじゃっている。早くないですか。  ご丁寧に、ハンガーラックも着物を掛けるようなデザインのもので(衣紋掛けというアレだ)、俺もひょいひょいと服を掛けていく。  隣には縦長の三面鏡のドレッサー。男女のカップルには必要なものなのだろう……でも、配置されている角度が妙な気がする。俺は三面鏡の扉を開いた。すると、鏡の全面に布団が映りこんだ。そこで俺はこの鏡の真の用途を理解した。 「志門くんってば」  春日に呼ばれたので、俺は浴室へ向かった。湯を張った浴槽から香ばしい木の香りが漂ってくる。そこに俺の春日がつかっているのだ。旅番組のモデルみたいに。ってか、春日と本当の温泉にも行きたい。 「あの、お邪魔します……」 「はい、どうぞ」  こうして春日とお風呂入るの久々だな。年末は直前講習で全日潰れてたし、明日からまた講習が始まる。束の間の逢瀬だ。 「ふー……」  湯船に肩までつかって、思わずため息。湯気にかすむ春日がまぶしく見えた。すると、春日が指を絡めるように俺の手を握ってきた。ゆらゆら揺れる湯の中で、指先が触れ合う。なんかそれだけで……勃ってしまった。  春日は俺の表情の変化に気づいて、そこを手で支えるように触れてきた。 「元気だね」  鼻に掛かった声で、春日が低く囁いた。俺は夢中で春日の桜桃のような唇に吸い付く。 「ん、もう、がっつくな」  と言われても、こうして過ごすのは久しぶりなんだから、そう大人しくしてられない。  胸板をまさぐり、乳首をつんと指で押すと、春日の身体が湯を掻き分けるように震えた。 「あ、そこ、あんまり……だめ……」  親指の腹でこねるようにぐりぐりと刺激し続けると、春日は目と口をぎゅっと閉じて、胸の感覚に集中する。 「ん……胸、ばっか……もう……」  ゆっくり持ち上がった瞼の向こうが、とろとろに潤んでいた。俺は春日の股間に手を滑らせる。艶やかな表情とは裏腹に、そこはどくどくと猛っていた。 「ここで、する……?」  春日が俺の胸にしな垂れかかる。淫らに蒸れた肌がべったり張り付いてきた。春日の尻を割るように両手で掴んで押し開き、肉穴の輪郭を引き延ばす。 「もう、入れて……大丈夫だけど……」 「いや、もうちょっと、したい」  春日の感じる部分を、教えてもらったり探したりしながら、少しずつ覚えている所なのだ。肉穴に寄っている皺を指先でかりかりと掻いてから、まずは中指を。 「あっ……いじわ、る……」  中指を鉤爪のように曲げて、穴に引っかけるようにしながら、くりくりと左右に振る。前立腺というのが気持ち良いらしいのだが、まだいまいち場所が分からない。 「あん……そんな、指、中で……動かしちゃ、やだ……」  春日が俺に身体を擦りつけて悶えてきた。お返しとばかりに、俺の昂ぶりが掴まれ、反らす動きに引っ張られる。ちょっと痛い。  中を掻く動きを繰り返しながら、指を徐々に伸ばしていく。腸壁の向こうがぽっこりと膨らんでおり、そこを優しく撫でてやる。 「あんっ! そこ、一番、イイトコ……触っちゃ、やだ……!」  そんな風に言いながら、春日は腰を沈めて俺の指さえも貪り出す。荒波のように湯が上下して、湯船の縁からこぼれる。  風呂のお陰もあって、春日の中はちょうどよく茹でられた卵のようにぷりぷりとしている。それが俺の指をきゅうと締め付けてくるのだ。これが性器だったら、呆気なく達しただろう。 「志門くん、いじわるしないで……入れてぇ……早く、早くして……」 「じゃ、風呂、出よっか」 「えぇ……なんでさ」  春日は親指を噛みながら俺をなじった。俺は強引に風呂を出た。湯が俺の腰を引き止めるかのように絡みついてくる感触がした。 「向こうでしたい」  俺がバスタオルでせっせと身体を拭いていると、春日もむすっとしたまま風呂を出てきて、身体をおざなりに拭いた。 「ったくもう、じれったい……ああ!」  俺より先にベッドに行った春日が、事態を悟って大声を上げる。バタンバタンと物音。  見れば、春日が三面鏡の扉を閉めてしまっていた。 「いや、開いておいてよ」 「や……やだやだやだ! 絶対にやだ!」  三面鏡にしがみついている春日の尻が突き出ていたので、俺がつるっと撫でてやると、春日は膝を寄せて身をくねらせた。 「んっ……もう、やだ……鏡とか、恥ずかしいのやだ……」 「それが見たい」 「うぅ……だめ……お願い、そういうの……本当に……」  春日のうつむく顔が影で覆われる。これは恥じらいじゃなくて本当に嫌そうだな。ちょっと可哀想か。  俺は春日の腰を引き寄せて、ベッドにそっと導いていった。布団に飛び込むように二人でひっくり返る。ふわふわで雲の上にいるみたいで。 「ごめん。じゃ、普通にしよ」  泣き顔になってしまってる春日の頬と額にキスしてやった。  それでも鏡に映したかった未練から、鏡のある方向に春日の正面を向けて、俺は後ろから抱きすくめた。 「バックでしたい」 「ん……あの……」  俺が要求を耳打ちすると、春日はちらちらと視線を動かしながら。 「俺は、絶対、見ないけど……志門くん、が、見たいなら……鏡……開けても、いい……」 「え、あの」  春日の顔を覗き込もうとすると、春日はぷいと顔を背けてしまった。 「俺に見ろって、言わないなら……良い」  後背位からの挿入を終えた俺は、春日の下に滑り込むようにして、膝を折ってベッドに座り直した。  春日が俺の太股を挟むように大きく足を開き、俺の腹の方へ尻をずらす。  背面座位といえば、以前に俺の部屋でやったら壁にぶつかったわけだが、この広さなら平気だ。  鏡には、俺の望んだままの光景がそこにあった。春日の逞しい赤い槍、その下にたぷんと膨らむ玉袋……なのに、尻の穴は俺なんかに貫かれていて、時々引き絞られる筋肉の動きまでが見て取れる。  俺はゆっくりと腰を沈めては持ち上げる動きで、春日の中を上下に往復する。その動きで、春日の怒張もつられて跳ね回る。堪らなくいやらしい眺めだ。 「かすがぁ……すげえ、エロい……」  俺に犯されて戸惑う春日のペニス。結合からローションがぷちゅんと音を立て、泡になったものがつぅと俺の股間に垂れてくるのも、はっきりと鏡に映し出された。ローションをかき混ぜていると、だんだん粘り気が出てきて、竿に絡む襞の感触がくどくなる。 「ねえ、春日も、ケツ振って……ちんちんもっと動かして……」  俺が乞うと、春日は更に開脚して、片手で体重を支え、尻を俺へ押しつけるようにしてピストンを始めた。 「しもんくん……これで……どう……?」  春日自らが動いたことで、鏡に映る春日の一物は、まるで鎌首もたげた大蛇のように暴れ回った。俺はそれを食い入るように見つめた。  だが、春日はもう片方の手で顔を隠している。頬から首筋、さらには肩までが朱に染まる。その発情の美しさに目を奪われる。 「……きれいだ、春日」 「ッ……そう……?」 「うん、すごく」  俺は春日の腰を抱えるようにしてから、腹から胸、脇をさすっていく。脇に触れられた春日はこそばゆそうに背を縮めた。 「もうっ……くすぐったいってば」  それから俺の手は春日の荒ぶる股間に落ちる。心臓を直接、掴んでしまったかのような錯覚。 「あっ……やぁ、触んないで……」 「春日、休まないで」 「えっ、だって……あの……」  春日は躊躇いがちに俺の上で腰を使う。それに合わせて、猛獣の角のようなそれを、研ぎ澄ますようにひたすらしごく。鋭利な先端に指先で触れると、テグスのように糸を引く。 「んぅ……あん、あぁん……先っぽ、触っちゃ、だめ……」  春日は声をかすらせ、尻を落としてもじもじとする。顔を覆う手が下がり、何が何でも鏡を見まいと、唇までへの字にした必死の形相が露わになる。 「ほら、休むな、動け」 「あっ、あん、あぅ、突いちゃ、や……!」  腰を揺さぶって、催促を掛けるように突き上げていくと、春日は大げさに頭を振った。  春日の昂奮を掴んでいる手に、じくじくとした体温が伝わってくる。皮を滑らせるように手を往復させて、その熱を広げていく。 「んっ、んぁ……そんな、イくから、イっちゃうよ、イっちゃう、ちんちんイく、イくってばぁ……は、はぅ……」  春日の上体が横へ傾いだ。俺は慌てて春日を抱き止めるが、春日はふらふらと布団へ倒れてゆき、俺から離れていった。 「もー……つらい、横にならせて……お願い……」  茶の瞳から、大粒の涙が、次から次へと零れだしていく。 「え、あ……ごめん、そこまで嫌だった?」 「そーじゃなくて、志門くん、めちゃくちゃ……硬くって……もう……」  俺は自分のそれに目を落とした。ゴムが外れかかっているので、新しいのに替えた方が良さそうだった。 「もう、新年早々に、昂奮しすぎなんだよ、馬鹿……」  春日は泣くのと怒るのと照れるのとで、複雑な顔をしていた。新しいゴムとローションをつけた俺は、ベッドに寝そべる春日の太股を持ち上げて開かせた。 「続き、良い……?」  春日はうつむくようにうなずいたので、側位での挿入を試みながら、鏡をちらちらと確認する。俺を見上げる春日は、もう目を閉じていなかった。俺に焦がれる、濡れた瞳が──もう、鏡なんか見ている場合ではなかった。  俺は春日の瞳に映る自分の姿を探した。春日が顔を逸らそうとするので、頬に手を添えてこちらへ戻す。 「春日ってば……こっち見て」 「ん、うん……分かった、けど……」  躊躇いがちの春日に、そっと口付けてやった。先ほどの責め立てるような抽送を止めて、自分を春日に馴染ませるようにゆっくり動く。抱えた太股の内側を時々は撫でてやる。 「あ……ぅん、いい……ああ……」  春日は穏やかに息を吐いた。どことなく、くつろいでいるような感じだ。いつも俺、乱暴にしすぎてたかも。  俺は腰を前後に振る動きをゆるやかに続けた。春日の尻が汗で腹に張り付き、むちむちで気持ちいい。 「かすが、いい? きもちいい?」 「ぅん……気持ちいい」  春日の股間に手を回すと、そこはもう萎えてしまっていた。柔らかいままにそれを揉みほぐしていく。 「も、だめ、そこ触るの……あ」  手でこねくり回す内、弾力が出てきている気がする。 「も、さっきから、しもんくん、えっち、しつこい……もう、変になっちゃう」  春日の中を掻き回す感覚も粘りついてきて、何だか搗きたての餅を弄んでいるようだ。 「あん、もう、あぁん、しもんくん、気持ちいい、いいの、あぁ、そこ、そこ、突いちゃ、あっ、突いて、突いてぇ……」  そんな春日の声を聞いていると、欲にはち切れんばかりの肉棒がむず痒くなってくる。春日の中を往復すればやり過ごせるかとも思うが、そうすればするほど、全身に掻痒感に似た快楽が広がっていく。 「あん、いい、しもんくん、そこ、そこいい、いいの、いいトコ当たってる、すごい、すごいよぉ」  我知らず、俺は春日のペニスの裏を押し込むように腰を打ち付けていた。俺が抱えている春日の膝裏は汗びっしょりで、滴り落ちてくるほどになっていた。 「もう、イッちゃ……あぁ、しもんくん、俺イッちゃ……イッちゃう、イくぅ、イっ……!」  絶頂を迎えた春日が尻のうねりに巻き込まれるように、俺は快感の波に飲み込まれて、臍の下が溶け出すような感覚で精を吐き出していった。  春日が身をよじって、俺を振り切るようにして挿入を解いてしまった、と思った次の瞬間に、俺が布団に引き倒されて、春日が首っ玉にかじりついてきた。 「気持ち良かった」  雨だれのような静かな声でそう囁きかけられ、俺の背筋がぞくりと震えた。俺が春日を抱いていたのに、立場が逆に思えてくる。 「我慢してたんだからね」  耳たぶが舐められて、耳の穴に舌先が押し込まれて。 「会いたかった」  そう言われて頬にキスされて、俺はポーッとなってしまう。もう果てたはずなのに、性に冷めるどころか、体がまた火照ってきた。 「もうすぐセンターだよね」 「うん……頑張るから」  春日と同じ大学だったら、もっと頑張れたのに。春日とこうなることが分かっていたら、俺は付属大に……いや、でも。『春日と一緒にいたいから』なんて理由で進路を変える俺を、春日は好きになってくれないんじゃないか、というのは、自惚れだろうか?  春日は俺から余韻を吸い取るように身体を絡みつかせてくる。鬱陶しいような愛おしいような、相反する思いが交錯する中で、春日の背をさすっていると、 「俺……待ってても、良い?」  春日が不思議なことを訊いてきた。 「え、何を?」 「ん……いや、良い、やっぱ」 「何だよ。何か言いたいことあるんだろ」 「だから、言ったじゃん」  春日が言ったこと? 『待ってても良い』って……ああ、そうか。 「まぁ、受験終わるまで、あんまり、その……うん。少し集中する、けど」  さすがにセンター後の二次試験となってくると、デートして云々って気にはちょっとなれないかもしれない。バレンタインデーのチョコレートぐらいは準備しよう。うん。 「春日は三学期の登校日、何するの」  もう俺たちの卒業単位は出揃っているので、週一の選択授業で思い思い、残りの高校生活をのんびり過ごすのである。 「志門くんは?」 「俺は図書館で自習」  塾の自習室よりは、学校の方が落ち着くのである。先生にも許可は得た。 「……じゃあ、俺も、行く」  俺は目をぱちくりさせて春日を見ると、春日はもう前髪と両手で顔を隠している。 「あの、一緒にいたい……気が散るなら、良いけど……本でも読んで、大人しくしてるから……」 「俺、毎日行くけど、良いの?」 「うん……あの……それに」  春日がそこでちらと視線を投げかけた。 「したくなったら、ちょっとだけなら、良い」

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