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6.新たな出会い

  「おはようございますシーリンさん」 「おはようリク。なんだい、酷い顔だね」 「ははは……」  今日も早くから厨房で下処理をしていた料理長の妻のシーリンに挨拶をするが、そんなリクの顔色は良くない。  昨晩、パーティーの片付けも終わってこっそり持ってきたぶどう酒で乾杯をしたリク達。  久しぶりの酒は美味しく、勧められるままに調子に乗って飲んだ。  ただでさえ酒を飲み慣れていない体に更に適量を超えるアルコールが入り、只今リクは絶賛二日酔い中だった。 「なんで裏方なのに二日酔いになるんだい」 「何でですかねぇ」 「こっちが聞いてんだよ」  呆れ顔のシーリンはリクへ木のカップを渡す。中は少し温かな液体で満たされていた。 「二日酔いに効く飲み物さ。今日は必要な人が多いだろうと思って作ってたんだ」 「シーリンさんありがとうございます……っ!」  ありがたい飲み物を両手で受け取り、顔を近づけて匂いを嗅ぐ。  一瞬美味しそうな香りがしたが、その後に薬草のような匂いに少しだけ顔をしかめる。  しかしここで断るのも失礼なので息を止めて一気に飲み干した。酸っぱいような苦いような複雑な味だった。 「ご……ごちそうさまでした」 「いい飲みっぷりだねぇ。もう一杯いっとくかい?」 「いえいえ皆さんも必要でしょうし一杯で十分です!」  シーリンの優しさを全力で回避しさぁ仕事だと厨房を後にしようとする。  そんな時、顔なじみのない若い男が入って来てシーリンへ手を上げた。 「どうもー、二日酔いに効く飲み物くださーい」 「あらアンタ早いじゃないか」  どうやらシーリンと知り合いらしく、男は勝手知ったる様子で厨房の奥まで入ってくる。  シーリンが飲み物を用意する間に切られた野菜をつまみ食いしようとしてどつかれていた。 「はいよ、アンタはここで飲んでいきな」  シーリンが用意したのは先程リクにだした物と同じ木のコップ。そして更に銀のコップが一つ乗っていた。  男は木のコップを手に取り一気に飲み干してシーリンに返す。 「うえー……相変わらず不味いね」 「なに情けない声出してんだい。ほら、さっさとそっちも持ってってあげな」  シーリンは残された銀のコップを盆に乗せて男に押しやる。  その銀のコップは本来客やナジャーハ家の者にしか使われない高級品だ。  それを若い男が当たり前のように持って行こうとしている。いったいこの男は何者なのだろう。  そんな考えが顔に出ていたのか、男はリクを見てニヤリと笑う。 「これなー、ライル様の分だよ」 「え、ライル様の?」  突然知った名前が出てリクは呆気に取られる。そんなリクの様子が面白かったのか、男は更に楽しそうに笑って言う。 「そ。なんたって俺はライル様の側近だからな」 「えぇっ、凄いですね! こんなお若いのに大出世じゃないですか!」 「まーね」  得意げに胸を張る男は俗っぽくも見えて、言っては悪いがとてもナジャーハ家の側近には見えない。  しかし人は見た目じゃないしな、と思っていたら背後からこれまた呆れた声が飛んできた。 「なーにがライル坊っちゃんの側近だい。今回は運が良かっただけだろう。本来ならライル坊っちゃんの側近になれるほどの実力は無いんだからアンタは」 「かーちゃんそこまで言わなくても良いじゃん……っ」 「もっと勉強しなさいって言ってんのさ」  シーリンに叱られ急に子供っぽくなったカルイにリクは首をかしげる。  その会話はまるで親子だ。何より男は今確かに…… 「……かーちゃん? え、お母さん?」  男は確かにそう言った。リクの聞き間違いでなければ男はシーリンを母親と呼んだのだ。  驚いたリクがシーリンを見ると、気付いたシーリンが微笑んで男の肩をばんばん叩いた。 「あぁ、リクにはまだ紹介してなかったね。私の息子のカルイだよ」 「どうもどうも、可愛い一人息子のカルイでーす」 「はぁ……」  確かに軽いな、なんと言うか、ノリが。  突然の知り合いの息子の登場、しかも緩い空気を醸し出す男に呆気に取られたが、リクとしても軽いノリは嫌いじゃない。  ライルの側近であるのに偉そうぶるでもなく、気さくにリクに話しかけてきたのも好印象だった。 「ライル様の側近ってどんな仕事なんですか?」  ナジャーハ家の側近と話す機会もそうそう無いだろうと、リクは興味本位で尋ねてみる。  するとカルイは考える素振りを見せ、首を傾げながら答えた。 「んー、なんか……人探しとか?」 「人探し?」  人材探しの事だろうか。それになんで自信なさげに首を傾げるのだろう。  いまいちピンとこずにリクも一緒に首を傾げていたら、カルイは思い出したように時計を見た。 「おっとヤバいっ、そろそろ戻らねーとライル様に怒られるな」 「あまり迷惑かけるんじゃないよ」 「分かってるって。じゃーな少年!」 「はは……少年じゃなくてターリクですよ。また会いましょうカルイさん」 「おっけー、ターちゃんな。またな!」  少年という歳でもないのだが、忙しなく出ていったカルイにリクは笑いながら見送った。 「ターちゃん……」  皆からリクと呼ばれていた為、なれない呼び名にむずむずする。それでも悪い気がしないのは、カルイが屈託なく笑うからだろう。  立場はまったく違うが、悪い人ではなさそうなので出来れば仲良くなりたい。そしてあわよくば、元気になったライルの話も聞きたいものだ。  そんな事を考えながらリクも裏庭の草むしりへと向かった。  

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