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14.専属侍女の噂
リクはいつものように人気のない場所でのんびりしていた。
少し寂しいが街に行くには中途半端な時間しかないし、屋敷内の人の多い場所に行けば仕事を振られる。
かといえずっと部屋に引きこもるのもつまらないので、時折人目を避けてぶらついてはいつも同じ場所で休んでいた。
「よぉリク、来たぞ」
「ロングさん!」
せっかくの僅かな自由時間なのにこんな事で良いのだろうかと虚しくなっていた時に現れたロング。こんな時だからこそ、親しい者の声にリクは大げさに喜ぶ。
おそらくルルがロングに自分の居場所を伝えてくれたのだろう。リクは心の中で感謝する。
「久しぶりだな、元気か?」
「僕は相変わらずですよ。ロングさんもお変わりありませんか?」
「俺も相変わらずだよ」
そう言いながら手招きをするロングを見て、リクは立ち上がる。
「どうしました?」と聞けば「いい場所教えてやるよ」とリクの手を引いた。
案内されたのはまだリクが足を踏み入れた事のない場所。警護の者が主に使う建物の屋根の上だった。
「今は庭師の仕事も手伝ってるんだろ? ここなら庭からも近いし誰も来ないし眺めも良い。今のリクに丁度いいんじゃないかと思ってな」
「ロングさん……」
まだ親しくなって数月なのだが、ここまで親切にしてもらえた事に感動する。同時に、これは異性からモテそうだと感心もした。自分もいつか真似しよう。
共に壁に寄りかかって座り、他愛もない話をする。その内容は主にライルの新しい専属侍女となった。
最近のリクは人との関わりが減った為に中々噂話を耳にしない。
おまけに朝に会話する厨房のシーリンも庭師の親方も噂話には疎かった。
そのためロングから聞かされる話にリクは興味津々に耳を傾ける。
「ライル様が人を探してるのは親身になって世話した使用人に恩を返す為か、寝てるからって不敬を働いた使用人に罰を与える為のどっちなのかってみんな話してたんだけどな」
「僕も少し聞いてました」
「でも、あの様子を見るに前者だったみたいだな」
「へー」
良い方向での探し人で良かったとリクも安心した。顔も知らぬ噂の侍女であるが、不敬で追い出されたとなっては他人事でも可哀想だからだ。
それにライルも順風満帆な生活を送っているのかと思えば自分の事のように嬉しくなる。
寝たきりの頃のライルしか知らないが、奇跡の復活を遂げた後の生活が幸せで良かったと心から思う。
ただ、不安要素もあるのだが。
「……ルルさんから僕の話聞いてます?」
「ライル様に不敬を働いたかもしれないって話をか?」
「それです」
「でもリクは善意のつもりだったんだろ? 別にそこまで怒られないと思うけどなぁ」
「そうだと良いんですが……」
確かに世話をしたとか髪を整えただけだと聞けばそうも思うだろう。
しかしながらリクは人には言えない事をしでかしている為に不安は募る一方だ。
「ライル様は厳しい方だって噂も聞くので心配なんですよ」
「まぁ……俺も話した事は無いが見た目は厳しそうだな」
「……」
ロングの言葉が更に不安を煽る。
リクの中でのライルの印象は、穏やかな顔で眠るライルのままだ。
しかし皆口々に厳しい方だと言う。これは平穏無事な生活の為にも出来る限り関わらないのが賢明だろう。
そう改めて決意したリクは、この話はもう終えようと話題を戻した。
「……そう言えばロングさんはライル様の新しい専属侍女の方を見たんですよね」
「あぁ、警護してる時にたまたま近くを通った」
新しい専属侍女が決まってから十日ほど経つが、リクはまだその姿を見ていない。なんせリクがライルから逃げ回っているので見る機会がない。
元気になったライルを見たい気持ちもあるが、それより寝たきり時の不敬がバレて追い出される方が困る。
なので、ライルが来ていると話が流れてきたらさっさとその場から立ち去るようにしているのだ。
かといって興味が無いわけでは無いので、ロングに話を振ってみた訳だが、
「どんな方でした?」
「そーだなぁ、ちっこくて可愛い感じだったな……リクみたいに」
「うわっ! それ嫌味ですか自分が大きいからってー」
「いやそういう訳じゃ──」
と、話はどんどん脱線していく。
伝わんないなー、とぼやくロングと、まだ成長途中なんですと言い張るリクで、静かなはずの屋上は賑わった。
リクにはとても楽しい時間だった。
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