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15.屋敷を震わす声
日が暮れ始めた頃、ライルは自室へと向かっていた。
「眠る前のお茶はご準備しますか?」
「いや、いい」
「かしこまりました」
そばに居たルクリアの問にライルは短く答え、カルイが部屋の扉を開ける。
部屋に入ればすかさずルクリアがライルの上衣を受け取り、ブラシをかける為に広い部屋の一角にある衣類部屋へとかけていった。
「ルクリアちゃんって良く働くよねー」
「お前も見習え」
「俺は俺で頑張ってるよ!?」
と言いながら部屋にあった菓子をバスケットに詰めるカルイ。
確かにそういう所だけは素早いなと思うが感心はしなかった。
「そういや例の物届いてますよ」
「あぁ、テーブルに出しておいてくれ」
「了解!」
そう言うや否や目当ての木箱に手を伸ばそうとしたカルイをライルは一喝して、先に菓子を触った手を洗わせた。
フットワークは軽いが細かな気遣いが出来ないのが問題の男である。
カルイは綺麗になった手で改めて木箱を開け、テーブルに中身を並べていく。
衣類部屋から戻ってきたルクリアは、その光景を不思議そうに眺めた。
「ほら、ルクリアちゃんもこっちおいでよ」
「え、でも良いんですか? 私が近くで見ても」
「もちろーん! だってこれルクリアちゃんに準備した物だからさ」
「へ……っ!?」
そう驚くルクリアの目の前に広がるのは、数々の装飾品だった。
可愛らしい物から豪華な物まで並べられた装飾品は、どれも一目で高価だと分かるほどの宝石が付いている。
目を白黒させるルクリアの腕をカルイが引き、装飾品が並べられたテーブルの前に連れてくる。
「ライル様からの贈り物だよ。寝たきりの時にたくさん世話になったからそのお礼だって。だからどれでも好きなの選んで良いよ」
「でもっ、こんな高価な物いただけませんよ!」
喜びより戸惑いを見せたルクリアは、咄嗟にライルを見る。
そんなライルはルクリア達から背を向けてラグに座っていた。そしてクッションにより掛かり立膝をして、夜の中庭を眺めながらルクリアに告げる。
「かまわん、好きな物を持っていけ。気に入った物が無ければ新たに持ってこさせる」
振り返る事もなく言うライルにルクリアは益々困った顔をする。
そんなルクリアの様子を見たからか、それとも何も考えていないのか、カルイが軽い口調でルクリアの背を叩いた。
「ほら、ライル様もあぁ言ってるしさ。それともほんとに好きなのが無い?」
「い、いいえ、そうじゃなくて……宝石なんて持った事無いから何を選べば良いのか分からなくて……」
「そっかぁ、そうだよね。じゃあコレなんかどう?」
「うわぁ、とっても綺麗です! これが私に似合いそうですか?」
「さぁ? 分かんないけど一番豪華そうじゃん。どうせもらうなら一番高いやつが良いかなって思ってさ」
「そ、そう……ですね……」
カルイの身も蓋もない物言いに顔を引きつらせながらも、ルクリアは素直にその装飾品を手に取る。
カルイが言った通り一番豪華な装飾品はずしりと重く、様々な宝石が使われている。
一つ一つが美しく輝き、そのきらびやかさにルクリアはほぅっと見惚れた。
「ほんとに綺麗……私には似合いそうにないけど、ずっとずっと大切にしますのでこちらをいただいても宜しいでしょうか」
「もちろーん! ライル様決まったよ」
「そうか」
やはり興味が無いようにそっけないライルだったが、カルイとルクリアは気にせず二人でキャッキャと他の宝石達を手にとってはしゃいだ。
賑やかにしながらも片付けを終え、二人は共にライルの部屋を出る。
そこで先程の装飾品が入ったツヤのある布袋を握りしめ、ルクリアはふかぶかと頭を下げた。
「カルイ様、本日はありがとうございました。私にはもったいないほどの物をいただいてしまって心苦しいですが、ライル様の心遣いが嬉しかったです。ライル様には改めてお礼を言いたいと思います」
「別に気にしなくて良いんじゃない? ライル様お金持ちなんだから宝石の一個ぐらい平気だよー」
「そうかもしれませんが……」
困ったように笑うルクリアは、袋を大切そうに胸に抱く。
そして、「これからも誠心誠意努めさせていただきますね!」と元気に笑った。
そんなルクリアを微笑ましく見ながら、カルイは頭を撫でて手を振り別れる。
ルクリアもカルイを見送って、自室へと足を向けた。
人の声が無くなった屋敷は、僅かな明かりだけで薄暗く静まり返る。
そんな中、一人の声が屋敷の空気を震わせた。
「……話と違うじゃん」
静まり返った屋敷に、不意に吐き出された呟き。
舌打ちと共に紡がれた言葉は、誰に聞かれる事もなく屋敷から消えた。
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