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34.話をしよう

   ガタガタと馬車の揺れる音だけが響く。  交わった視線はお互いそらさず、じっと相手の考えを伺うようだった。  リクは緊張で喉が渇き、コクリと唾を飲み込む。  そんなリクの腰を引き寄せたままのライルは、しばしまぶたを閉じて深く深く息を吐いた。 「リク」 「ひゃい……っ」 「……」 「……っ」  そしてまた視線が合わさったかと思ったら名前を呼ばれたわけだが、盛大に噛んでしまいまた沈黙が訪れた。  なぜこの深刻な空気の中で噛むのか。思ったより緊張していたにしても己が不甲斐なくて、真っ赤になりプルプル震えてしまう。穴があったら入りたい。  しかしそんなリクを見て、悲しげだったライルがほんの少し笑ったから、まぁ良いかとも思う。  とても恥ずかしいが、まぁ、結果オーライだ。  僅かに緩んだ空気の中、ライルは一つ咳払いをしてまた口を開く。 「……リク、まだ今日が終わるには早い。屋敷に着いたら私の部屋に来てくれるか」 「え……? え、えぇ、かまいませんよ」  戸惑いながら了承したは良いが、心臓がバクバクとうるさい。  わざわざ部屋に招いていったい何を言われるのやら。  だがここが正念場だと言い聞かせ、リクは背筋を伸ばし顔を引き締める。そんなリクの頭をライルは撫でて、心配するなと言いたげに笑った。  ライルを冷酷だと噂したのは、いったい誰なのだろう。  * * * 「だだいまー」  屋敷に着き、まず二人を出迎えたのは間延びした声だった。 「『ただいま』は僕たちのセリフですよ」 「あ、そうだった。おかえりおかえり」  今日は屋敷でのんびりしていたはずのカルイから寝ぼけた事を言われて、呆れ顔で返事をする。  それでもヘラリと笑うカルイは、積まれた荷物を降ろして屋敷へと消えていった。  リクはライルに連れられて屋敷内へと向かう。その最中、周りからの視線をいやに感じたが、目を合わせる度胸は無かったので気づかないふりをした。  連れて行かれたのは当然ライルの私室だ。相変わらず洗練されて美しい部屋だった。  ただ、前と違う点は菓子が山積みになっていない事だ。  ほんの少し期待していたリクは思わず肩を落とすが、それに気づかないライルでは無い。 「すまないなリク。シーリンから怒られたもんでな」 「へ? シーリンさんから?」 「シーリンいわく、『リクはあるだけ全部食べちまうんだからあるだけ持っていくな』だそうだ」 「ちゃんと自己管理できるのにぃ……」 「……」  目を輝かせてハムスターのように頬袋に菓子を詰め込むリクの姿はまだ記憶に新しい。  しかしライルは無駄な事は言わずに黙ってうなずいた。  そんなこんなで、テーブルには新鮮な果実が常識的な範囲で盛られていた。  その中にあったぶどうをライルは手に取りリクの口に入れる。もぐもぐしている内にリクはソファーに座ったライルの上に座らせられた。 「話をするの、これじゃないとダメですか?」 「リクと目を見て話したい」 「じゃあ向かいに座りましょうか」 「リクと触れていたい」 「むー……」  横抱きにされて抗議の声を上げるが、なんだか可愛いわがままを言われて許してしまう。  大の男に可愛いも何も無いだろうが、なぜだか今は可愛く見えてしまうのはかなり絆されているからだろうか。  また一粒を口に放られて水々しい甘さを堪能するリクの頭に、ライルが頬ずりをする。  そして一つ息を吐いて、ライルはゆっくりと口を開いた。 「──リク、馬車での話の続きをしても良いか?」 「……はい」  さっそくか、ともぐもぐしながら背筋を伸ばす。  なんせ次から次にぶどうを口に放り込むからもぐもぐが止まらないのだ。  こんな状況で食べさせなくても、と思うが、もしかしたら彼も緊張しているのかもしれないとも考えた。  

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