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40.叱られるロング

   朝食を終えてから、三人はいつものように護衛詰め所の屋上へと移動した。人に聞かれたくない話をするには最適の場所だからだ。  いつの間にかカルイも合流していたが、少し距離をおいてもらった。 「えー、なんで」 「だってここで聞いた話をライル様に報告するでしょ」 「覚えてるのは報告するかもしれないけど、俺ほとんど覚えてねーよ?」 「……でもダメです」  そんな訳で三人で話の続きをする。  ロングは昨日が臨時で仕事だった為に今日は休暇らしい。  ルルは「今のリクのそばなら怒られる事はないわ。長いものには巻かれるのよ」と胸を張った。複雑な心境である。 「それでそれで! ライル様とはどこまでいったのよ」 「ルルさん落ち着いて」  恋バナに目を輝かせるルルを制し、いったいどこまで話したものかと頭を悩ませる。  あまりライルの事を話すのも悪い気がするし、何よりリク自身が事細かに伝えるのは恥ずかしい。  なのでリクは「改めてライル様から思いを伝えられただけですよ」とだけ話した。  渾身の愛を思いっきり叩き込まれて思考が再起不能になり、今現在も頭がライルで占められているが、そこら辺は割愛させてもらった。 「つまりリクは身を引くつもりだったのにライル様からかえって詰め寄られちゃっておまけに囲われてその重い愛情に落ちそうなのね」 「なぜっ!?」  なのに何故かルルにはお見通しだった。どこかで盗聴でもしているのか。  ふむふむと一人納得しているルルの横では、頭を抱えたロングがうなだれている。そんなロングを見たリクは、心配してくれているようだと勝手に感動している。 「これはさぁ、もうライル様から逃げるのは無理なんじゃないの? ていうかリクももう逃げる気なんか無いんじゃない?」 「そんな──」 「そんな事は無いだろ!」 「ロングは黙ってて」 「……」  この場で一番年上のはずのロングが一番年下のルルに叱られしょげる姿は少し哀れだった。  しかしそんな事を気にしていられるリクではない。  ルルの言葉をロングが否定したが、リクからしたらどうにも強く否定出来ないのだ。  立場が違う、身分が違う、育ちが違う、価値観が違う。なにより自分は彼に相応しくない。  そう信じてライルから逃げていたのに、今はどうにも逃げる気になれない。  それは逃げられそうにないからという諦めでは無い。でも、じゃあ、何故逃げないのか。 「……次は何が来るんだろう」  ぽつりとリクが呟く。  食べ物だとか宝石だとか服だとか、ついには部屋まで与えようとするライル。  次に会った時は、いったい何が待ち構えているのだろう。 「次は本じゃない?」  突然カルイが話に割って入った。  いつの間にかそばに来ていたカルイはしっかり話を聞いていたらしい。先程までは離れた所で空を見ていたがどうやら飽きたようだ。  そんなカルイは「次は本でターちゃんを埋め尽くす気っぽいよ」と三人に言う。 「何で分かるの?」  ルルが問えば、カルイはいそいそとリクとロングの間に居座り話を続けた。 「昨日ターちゃんとライル様が街に行った時さ、本買ってもらって喜んでただろ? それに味をしめたっぽい」 「それで本を?」  次に問うたのはリクだ。 「うん、朝から商社呼んで山程買ってたもん」 「だからやることが極端……──」  と、ここでリクの言葉が途切れる。リクはカルイを見て、カルイは「何?」と言いたげに首を傾げた。 「──なんで昨日の事を知ってるんですか? カルイさんは付いて来なかったのに」  カルイは街での護衛はしていなかったはずだ。なのにまるで見ていたかのような口ぶりにリクは疑問を覚える。  すると何ともなしに、 「そりゃ俺も秘密裏に護衛してたからだよ。いっつも目立たないようにターちゃんの後ついていってんの」  なんて答えるものだから、カルイを除いた三人は顔を見合わせた。 「そうだったんですね……でもその秘密裏を僕らに喋って良いんですか?」 「あ、ダメだ! 今の無し」 「……」  まぁライルとて、守秘義務の遵守をカルイには期待などしていないだろう。本当に秘密裏に行わなくてはならない事はカルイには伝えないだろうな、と三人は思う。 「それにしても……困った」  カルイはさておき、今後をどうするか改めて頭を悩ます。そんなリクにルルが「何を困ってるのよ」と不思議そうに尋ねた。 「何って、ライル様への返事ですよ」 「でももう答えは出てるように見えるけど」  「へ?」  思わずルルに振り返り、目を丸くする。その様子を見てルルはおかしそうに笑った。 「……そう見えますか?」  今度はリクがルルに尋ねたが、ルルはにっこり笑ってはぐらかす。  しかしもうそれが肯定としか見えなくて、リクはまいったなぁ、と笑い返す。  ライルがリクを思って色んな物を必死に準備している光景を思い浮かべる。前は戸惑いしかなかったのに、今はなんだか胸が温かくなるのだ。 「……答え、出てるんですかね」 「私にはそう見えるわ」 「いや待て、答えを出すには性急すぎなん──」 「──ロングは黙ってなさい」 「はい……」  二人の会話を聞きながらリクは勢いよく立ち上がる。 「そろそろ仕事の準備しますね。話を聞いてくれてありがとうございました」  始めは友人とは言え、ライルの話をするのは戸惑われた。  だが、とてもすっきりした気分の今は、二人が居てくれて良かったと心から思う。 「いってきます!」 「いってらっしゃいリク」 「あぁ……頑張れよ」  心強い笑顔のルルと、未だに心配を顔に出すロングに見送られ、リクは己のなす事をするために駆け出した。  もう周りの目など気にならなかった。 【おまけ】 「──ルル、俺を応援するんじゃなかったのか」 「応援してたわよ? 何度も二人っきりにしてあげたじゃない。なのにロングったら、全然リクに気持ちを伝えないんだもの」 「そりゃっ、リクに拒絶されたらもう友人ですらいられなくなるだろっ」 「……ライル様の足元にも及ばないわね」 「……そういうルルは副支配人とどうなんだっ」 「今度デートするわよ? 十三回誘ってようやくね!」 「……そうか」  おわり   

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