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48.悪い顔

   ライルが今日はのんびりしろと言うので、リクはその言葉に甘える事にした。  動けない程ではないが、体のあちこち、特に股関節が痛いのだ。おまけにあちこちに小さな内出血の痕が散らばる。  こんな姿で屋敷を歩けば情事を見せびらかして歩くようなものだろう。  更にライルはもう仕事などしなくて良いと言うのだが、そればかりは断った。  与えられるだけの存在にはなりたく無かったからだ。 「では、私はお前に何を与えれば良い?」 「もう十分すぎるほどもらってます。昨日は、ライル様を困らせるようなわがままも言っちゃいましたし……」 「わがまま?」  お互いゆったりとした服のままラグに移動して、これまたゆったりと寛いでいた。  リクの服は白地に赤と金の糸で刺繍がしてあり、ライルは黒地に青で同じような刺繍が施されている。よく見なくてもお揃いの服に、いつの間に準備したのだろうとこっそり笑った。  そんなリクだったが、クッションに背を任せて隣に座るライルが目を丸くしているのに気づく。  どうしたのだろうかと見つめていると、ライルは一つ息を吐いてリクの頭を撫でた。 「リク、あれはわがままなんかじゃない。それに、私のほうがリクからたくさんのモノをもらっている」 「……? なんの事です?」 「分からなくていいんだ。リクは、そのままでいてくれ」  ライルは肩を引き寄せふわふわの髪ごと額に口づける。  どうやらライルは自分の髪が気に入っているらしいとリクは思う。用意された果実水を飲みながら、くすぐったさに身をよじった。 「……私は母上ともっと向き合うつもりだ。いや向き合わなければならないんだろうな」 「……ライル様……」 「私は、まだ子供だったようだ。自分の境遇ばかり悲観して、母上の苦労を何も分かっていなかったんだ」  自分が語ったおせっかい。どう考えても出過ぎたマネだと思っていたが、それでもライルは真剣に考えてくれたようだ。  ライルとて嫌な思いをしただろうに、己の言葉を受け入れようとしてくれる。  なんて、強くて優しい人だろうか。  じんわりと胸が温かくなり、嬉しいはずなのに泣きそうになった。 「正直、リクの事も母上に認めてもらわなくともかまわないと頑なになっていた。だがもう一度、母上と話をする」 「……ありがとうございます」  リハームの反応を見る限り、リクを完全に認めるのは難しいだろうと考えていた。  それでもライルは諦めないと言う。  だったら、自分も諦めずに前を見よう。認めてもらえるような働きを自ら見せるのだ。  きっとこれからも身分差や性別から様々な壁が出てくるだろう。  けれど大丈夫。彼を見ていれば自然とそう思えるのだから、きっと大丈夫。  自分も彼も、生半可な気持ちで共になったわけじゃないのだから。 「──それで、話は戻るが。リクは何か望む事は無いのか?」 「そう言われましても……今でも十分すぎるほど贅沢させてもらってますよ」 「だが、まだ私は満足していない」 「えぇー……」  ライルの満足とは何だ、と、これ以上の贅沢の仕方が分からないリクはほとほと困ってしまう。  しかしライルも困った顔で見てくるので、リクはなんとか要望に応えようと頭を回転させる。  要するに頼ってほしいのだろう。好きな人から頼られたいのは自分だって良く分かる。  じゃあ何ならライルに頼れるだろうか。  考えて、考えて、 「あっ」  一つだけ、思いついた。 「……じゃあ、一つ話を聞いてもらえますか」 「もちろんだっ、何でも聞く!」  ずっともやもやしていた事があった。  しかし自分ではどうしようも無くて諦めていた事。  けれど、目の前の人物なら確実に解決出来るだろう。ライルの権力と地位を使えば……。  リクは人の悪い笑みを浮かべてライルへ向き合った。  そんな顔も可愛いとライルは思った。  

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