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第8話(R15)
「なぁ、慎よ?」
「……何?」
前立腺の感覚を掴むという名目の性行為を終えて、元石慎はてきぱきと正親の身体を清める。
一瞬だけ皇子だった頃の正親と重なり、返事が遅くなったが、ローションやタオルを片づけるのに夢中になっていたという感じで、聞き返す。
「慎よ……」
「だから、何?」
「いや、随分と見ない間に色々、変わったなぁ、って。前の世界の慎は……」
「前の世界の、僕は?」
「前の世界の慎はまず、誰かを好きになんかなりそうにならなかった。勉強や仕事ばかりで、誰かと交わるのでさえ、そこに利害のあるなしで全て決めているような感じがしてた」
「そう……だったんだ?」
元石は正親から抱かれていた自分像を伝えられると、確かに思い当たる節はあった。
元石は過去世では国の臣下としては勉学に励み、医師としての職務をまっとうするしかなかった。
正親への、皇子への決して赦されない思いを隠し続け、誰にも知られてはならなかった。
もし、物事を利害のあるなしで割り切れなかったら、その時点で自害するか、そこまで行かなくとも、死の間際まで正親と沿って生きていくことはできなかっただろう。
「特に、前の世界で俺の婚約が決まった時はおめでとうの一言で、切々と今後の経済関係や政治関係がどうのこうのって言われて、ちょっと俺の方が戸惑ったくらい。ああ、好きなヤツに言われる台詞としては悲しすぎるよなって……」
と笑う正親はしみじみと言った。
「正親はどうして、そんなヤツが好きだったの?」
ローションの入ったボトルをベッドサイドの棚の奥へ収納すると、元石は棚の蓋をパタリと閉じた。
思えば、不思議だった。
元石も良家の出ではあったが、正親は皇帝の実子。しかも、即位順位が1番高い皇子だった。
先程の婚約話に登場した正親の皇妃候補も1度だけ遠くから目にしたことはあるが、その容姿は天から降りてきたと噂されていた通り、美しい姫君だった。
また、所詮は噂なので、どこまでが本当で、どこまでが作り話かは分からないが、民からも慕われていて、元石にも匹敵する程、才知にも恵まれていた。その上、女性ながら馬術や剣術にも明るいと評判だった。
頭脳はさておき、人徳や美貌、さらには武術の心得まで兼ね備えた女性に頭でっかちの男である元石が正親から好かれる要素は傍目から見てもなかった。
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