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第10話

「-様、もうここはそんなには保ちません。早く脱出路へ」  炎と煙で包まれる寸前の玉座の間。  前世の元石は同じく前世の正親へ緊迫した様子で言うと、脱出路を出現させる仕掛けの5つのうちの1つを解除する。 「なぁ、-よ」  正親はいつになく、真剣な面持ちで、元石を呼び止める。元石は何となく、正親が次に言いそうなことが分かり、「なりません」と切るように言う。 「まだ何も言っていないけど?」 「どうせ、くだらぬことでしょう。というより、今はー様が生き延びること以外、瑣末なことでございます」  元石のペリドットのような淡い緑色の、理知的な瞳が炎の中で揺れる。  元石は残り4つの仕掛けを解こうとするが、正親に後ろからふんわりと抱き締められて、手は動かない訳ではないが、大きな身動きができない。 「俺はこの国の皇帝……そうだな?」 「ええ、2日前に戴冠式をされていましたね」  思えば、5歳で神童と呼ばれ、7つの時には宮殿で医術だけでなく、様々な学問を正親と共に手ほどきを受けた。  良き学友として語らえるように。  また正親が悩んだり、哀しみにくれたり、皇帝としての道を踏み外したりすることがあれば、1番傍にいて、支えられるように。 「じゃあ……」  瑠璃色の美しいカーテンや絨毯が緋色に激しく燃え上がる。正親の声はパチパチという高い音やごぉごぉという低い音にかき消されてしまう。 「たの……俺を……国の、……帝の、まま……」  何?  なんて、言っているの?  元石はまともに聞こえない耳以上に、まともに動かない口を動かして、問う。  声が正親に届かない。  届かない。 『頼む、俺をこの国の皇帝のまま……』

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