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第11話(R15)
「慎? 慎?」
何度も元石を呼ぶ正親の声に、元石は淡い緑ではなく、濃い茶の目を開ける。
まるで、前世からいきなり現世へ戻されたような感覚だと元石は思うと、すぐに違うと思った。思い返すことはできるけど、行き来することはできない。
時間的に干渉ができない、過ぎ去ってしまった過去世でのこと、なのだ。
「凄い声、出すから何かあったのかと思って、来てみたんだけど」
元石は出かけに全て抜いていったコンセントを入れ直すように、混乱気味の思考を繋いでいく。
自身の現世の両親が葬儀へ行ったため、正親を自宅へ呼んだこと。
正親の前立腺を責めたこと。
正親から前世、現世を問わず、好きだと言われたこと。
正親がピザを頼もうとして、クーポンがあるからカレーにすると決めたこと。
元石は正親と同じカレーを頼んだのだが、そのカレーが意外と美味しかったこと。
ベッドは正親へ譲り、元石はソファで眠りについたこと。
正親の表情とともに思い出していく。
「大丈夫。ちょっと見た夢が悪かっただけ」
夢というにはあまり生々しく、残酷なもので、今、元石が嘘をつき、正親と共に生きていることを責めているようだった。
「寝言、何って言ってた?」
元石はソファの近くにあったタオルを拾うと、顔に当てる。特に、汗を沢山かいた訳ではないが、手持ち無沙汰だったのだ。それに、今は何でもない、と表情を正親に取り繕える自信がなかった。
すると、正親はあっけらかんと答えた。
「ああ、何だっけ? 忘れたけど、普通に話してるみたいだったから『何』って聞き返したかな? そしたら、慎、反応ないし」
「そう……」
良かった、と元石は思った。
だが、正親と過ごす初めての夜がこんな調子だとすぐにバレてしまうかも知れない。幸い、正親が転校してくる前に学力アップと顔合わせを兼ねた合宿や修学旅行は終わっていたが、これからも正親とつきあえるのなら何度となく、そんな場面も出てくるだろう。
「ごめん。まだ起きるにはちょっと早いよね」
元石は心を落ち着けると、スマートフォンで現在の時間を確認する。起きがけでコンタクトをしていないが、スマートフォンの画面を見る限りで、5時前だった。
「あ、全然。前の学校じゃあ、異様に早起きのヤツがいて、よくテニスとかやってたし。あとは、走るのもつきあうと冬とかは星とかも見えたっけ」
正親は現世でも体を動かしたり、星を見たりするのが好きなようだった。
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