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第14話

 自分だって「人殺しの医師」だということを伏せ、前世から身の程も弁えず、思慕を抱いていたことを黙して、正親の告白を受け、恋人になっている。  正親に詫びることはあっても、詰め寄り、責め立てることなど元石にはできる筈もなかった。  だが、もし、正親に全ての記憶があって、元石に告白をしてきたのだったら、元石は耐えられなかった。 「(いざとなったら、脅して、言いなりにさせるとか……って、正親はそんな人間じゃないし、仮に周囲に前世は人殺しだったんだなんてバラされても、取り合う人間ばかりじゃないと思うけどさ)」  元石は座り込んでしまう身体に力を入れて、立ち上がると、掃除をすべく掃除機をかける。  ウィーンという音が辺りに響き、元石は考えることをそのままに、掃除機を動かす。 「(バレなきゃつきあうくらい良い……って思ってた訳じゃない。けど、普通に正親のことを考えるなら別れるべきだろうな。元主治医の、元人殺しの前世も現世も同性の恋人なんて頼まれてもつきあうべきじゃない。いや……)」  そこまで、元石は考えて、掃除機をかけていた手を止めた。 「(正親の為なんて言ってるけど、自分の為か。自分が人殺しと詰られて、軽蔑されて、振られるのがこわいだけだ)」  本当なら元石の両親が帰宅してしまうにはまだ間があった為、正親と映画を観たり、ゲームをしたりするような計画もあった。  だが……。 『慎?』 『ごめん、何だったっけ?』 『いや、映画だったら、アクションかサスペンスもの、どっちが良いかって話だったんだけど、またにした方が良さそうだな』 『え?』 『顔色、なんか悪そうだし? まぁ、もう12月だし風邪とかひき始めてるのかも』  帰り支度……という程ではないが、正親は鞄に自分が持ってきたものを詰めると、元石に着替えて休むように促す。 『大丈夫だよ、少し夢見が悪かったから寝不足なだけだし』  と元石が言うと、 『添い寝が希望ならするけど、今日はゆっくり休んだ方が良いと思う。もう期末は終わったけど、今度は俺の家にも来て欲しいさ』 『……そう、だね。確かに、冬休みとかも沢山会えたら良いしね』  正親の労わりに対して、何とか元石も答える。  本当は正親の方から切り上げてくれて助かった、と思いながら。 「(正親とは一緒に過ごしたいけど、寝不足なんて何回も使える言い訳じゃないし……)」  もやもやとする気持ちに何とかケリをつけると、また元石は掃除機をかけ始めた。

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