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第17話
元石が正親と約束したXデー。
その日まで元石は満足に眠れない日々が続いていたが、何とか1泊できるくらいの荷物を詰めて、正親との待ち合わせの場所に来ていた。
「(一応、家には友達何人かで泊まりがけで勉強するとは言って出てきたけど……)」
待ち合わせたのは正親の家がある住宅街から1番近い駅をすぐ出たところにある広場。
基本的に青水学園には制服というものもなく、生徒は自前のスーツやスポーツウェアをTOPに合わせて着ている。元石も例に漏れず、黒いシンプルなスーツとネクタイを買っていて、白やブルーのシャツを合わせていた。
すると、元石が広場へやって来て程なくして、正親がやって来た。
「ニューヨークでもイルミネーションは力、入れてやってたけど、日本も気合、入ってるね」
「ああ、ロックフェラーセンターとかブライアントパークとか有名だよね」
「慎、結構、詳しいじゃん。メディニエ大老が行きたい、行きたい、行きたいって言ったからロックフェラーセンターとダイカーハイツには行ってたけど、いつか慎とも行けると良いな」
「……」
「あ、立ち話も何だし、そろそろ行くか」
「うん、結婚式とか控えているのに風邪とかヤバいよね」
本当は話をするだけならそこら辺のカフェに入れば良いのだろうが、正親がどんな反応を示すか分からないし、同性の高校生カップルというのをおいておいても公衆の面前で別れ話なんてできない。
それなら、カラオケボックスとかホテルとか個室のあるようなところに入れば良いのだろうが、それもそれぞれ違う理由から却下したかった。
「(カラオケだって誰が入ってくるか分からないし、ホテルなんてもっとないだろうな)」
話をするのにそんな高級なホテルなんて入る必要はないが、昼間から男子高校生2人でチェックインなどできる訳がないと元石は思う。
しかも、正親に沿うように歩いていくと、元石はいつの間にか、閑静な住宅街に足を踏み入れていて、正親邸の前に立っていた。
「さぁ、どうぞ」
青水学園は単に金持ちで優秀な子息というよりは家柄が良かったり、格式のある血筋に生を受けた子息が通う学校として有名だ。
実は元石も両親は特に資産家という訳ではないのだが、心臓の悪かった祖父の家は名家で、彼もまた学生の頃は青水学園に通っていた。
正親邸はその祖父の旧家を勝るとも劣らない煉瓦造りの洋館だった。
「凄い家だね。まるで、映画か何かに出てきそう」
「はは……メディニエ大老にはホラーゲームか何かって言われたよ」
正親は鋳物製の門をスマートキーで開ける。静かな音が聞こえ、門が開くと、正親邸は元石を客として迎えているようだった。
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