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恒星:はじめてのワンナイト 2

「ところでさぁ、昨夜(ゆうべ)大丈夫だった?」 「ゆっ、昨夜?」  立ち去りがけに堀田が投げた無邪気な問いに、さっきまでの(いき)でいなせな(自己申告)勢いは消し飛び、一瞬で挙動不審になる俺。 「飲み会の後だよ。平日だから二次会もなくあっさり解散したけど。お前的には今日の『D’s Theory』のプレゼンの方が大事だろう」 「あー……でも俺、今日は課長の裏方だし、資料も準備してあるから……」 「さすが。お前、酒癖はオヤジの絡み酒入ってて最悪だけど、仕事だけはきっちりやる男だもんな」 「……」  すっ飛んでいた昨夜の記憶が戻ってきた。別な同期の結婚が決まり、平日のど真ん中だというのに有志で盛り上がってしまったのだ。 「何だ、言い返すかと思ったら」 「へっ?い、いや……俺はもう仕事スイッチ入ってんだよ。常識人モードなの」 「ははっ。まあうちの営業部としてもデカい案件だからな。頼むぞ」 「あ……あのさ、堀田」 「ん?」 「俺、帰り道誰かと一緒だった?」 「いや?駅までは一緒だったけど、お前だけ方角別だろうが」 ーーそういやみんなと別れた後、帰りに寄り道したっけ……その後、正体無くすまで誰かと飲んだってことか? ーーじゃあ、何かあったとすればあの後……  リサイクルヤードに向かう堀田のデカい背中を見ながら俺は記憶の続きを必死で手繰(たぐ)った……少なくとも、会社の人間相手にやらかした可能性は無さそうだ。職場内のドロドロは回避できそうでホッとしたが、それはそれで別な問題は残る。 ーーじゃあ一体誰と……  そう。俺は昨夜、俺史上初にして最大のやらかしと堀田にも誰にも言えない秘密を背負い込んでしまった。 ーーいやいや、堀田に言われるまでもなく、今はこの後のプレゼンの方が大事だ……集中しないと。

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