24 / 85
恒星:ようこそ玄英の部屋へ 4
「縛ったり触ったりすんのはなし。あんたのご主人様になるつもりもないけど、啖呵ならいくらでも切れる」
AVなら「女王様とお呼び」とか「この雌豚」とかなんとか、オーソドックスな定番というものがあるんだろうがあいにくそんなものは知らないーーお互いヤロウだしな。
「おね……お願いします」
彼がもぞもぞと座り直し、熱の冷めやらない身体ごとこちらに向いた。
……とは言ったものの、啖呵ってお国言葉や「スベらない話」なんかと同じて、「切って」と言われたり「切ろう」と思ったりしてすらすら出てくるもんでもない。自然な流れの中でスイッチが入った時ならマーライオン並に噴出できるんだけど。
「つか……俺一応これでも、言い過ぎたかなと反省してたりするんだけど。あんたまさか、ずっと興奮してたとか?」
正面から見下ろしながら聞くと、彼はほんのり上気した肩を小刻みに震わせ、こくりと頷いたーーうん、わけんからん。確かに奥が深いわ。
「震えてんじゃん。寒い?」
彼は首を横に振って「あの、あんまり優しくされるのは……ちょっと」と呟いた。
「萎える?」「そういうわけでもないんですが……」
俺はちょっと考えて、そのまま遠山の肩を押して床の上に倒し、腕を頭の上まで持ち上げると側に落ちていたベルトで手首を縛った。
「えっと……嬉しいけど……やっぱり困ります……これじゃ手が使えな……」
「せっかくしてやってるのに、ごちゃごちゃ言うなよ」
そこから後は……悪魔が降りてきたとしか思えない。彼の腰の上辺りに立ったまま跨がると、小さく悲鳴が上がった。
「やっぱりわからんわ。あんたに見えてる俺って、一体どんななんだろうなあ?俺なんてあんたみたいに容姿端麗でも何でも無い、いかにもなモブ顔でスペックは平均値の凡人、中味はまるきり昭和のオッサンだ。俺には男の趣味がいいとか悪いとかよくわからんが、やっぱり趣味悪いとおもうぞ?それか視力が……いや、実際悪いか」
すると足元に転がされた遠山が意外にも、真っ赤な顔を歪めながら反論した。
「それでもぼっ、僕の好きになった人です。いくら本人でも、そんな言い方したら怒ります」
「じゃあコレがよっぽど節操がないのか……」
俺はそう言いながら裸足の足で彼のプライベートゾーンの真芯に触れた。
「っ……」
もちろん人様の急所中の急所だから、言葉は荒くても細心の注意を払って慎重に……彼が「嫌だ」とか「痛い」とか言い出したらすぐ謝ってやめるつもりだった。
が、彼は俺の顔と足元とを代わる代わる凝視しながら肩で息をつき、粗い息の間からだんだん甘い声を漏らし出した。
ーーやべえ。この人、顔だけだったら俺、めっちゃ好みだわ……
ーーいやでも、顔だけだぞ。身体はまるきり男だし……
個室トイレの薄暗がりではなく、居住空間の明るい照明の下で改めて見ると、手加減をせずにでたらめに縛られた跡がより痛々しく、身体の線が美しいだけにグロテスクな艶かしさがある。
「叫んだっていいんだぞ?」
「ああああっ!」
全身を真っ赤にして震わせながら仰け反った瞬間はあまりにも背徳的な美しさに満ちていて、しばらく呆然となった。
「……ご、ごめんな。大丈夫か」
我に返って手首のベルトを外して助け起こした。彼は無になった表情のままぽろぽろ泣いた。
ーーこれは……さすがにあり得なかったわ……
てっきり引っ叩かれるかもと思っていたら、泣きながら抱きつかれた。
ともだちにシェアしよう!