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恒星:ようこそ玄英の部屋へ 5
「ご主人様、最高!」
当惑しながらもしばらくなすがままになってしまう俺。
俺の目は至近距離にある赤い縄目が刻まれた滑らかな肩とそれに続く背中に釘付けになっていた。無意識のうちに自分のつけた痕をなぞるーー罪悪感も感じてはいるのだが、正直に言うと、子どもの頃の日焼け後の皮を剥いたりかさぶたを剥がしたりした時の痛々しい快感を思い出した。
それか、まっさらな新雪の上を泥混じりの靴で歩き回るような、新品の教科書に落書きをするような……背徳感や虚無感と背中合わせの達成感。
彼の髪や息が耳にかかり二人分の熱とか心臓の音とが色々生々しくてうるさい。身体の中が変な浮遊感で少しおかしくなりかけているところに、彼が耳元に囁いてくる。
「ご主人様……大好き」
「主人じゃないって何度……っ」
突然キスされた。とにかく頭が真っ白になってしまって感想もクソもないのだが、とりあえず無駄に巧い。不穏なざわつきを感じて慌てて奴を押し戻した。
「はっ、離れろ……!つか、身体くらい拭けよ!……ちょっとついちゃったじゃねえか」
「あっ……本当だ。ごめんなさい……じゃあ、クリーニングに……」
「このまま出せるかっ!つか先にお前がソレ、洗って来いよ!」
火を吹きそうな顔を見られたくなくて、俺は慌てて反対側を向いたーーあり得ない。この人のせいで俺まで変な空気に引きずられてしまった。
遠山は俺の言ったことを無視して、鼻歌でも歌い出しそうにテンション高くにじり寄って来たーーもう帰りたい。
そして遠山はそんな俺の気持ちなんか全く無視してにじり寄って来た。
「ご主人様、これ、僕のせい?」
「……っ?」
あり得ないーー同性相手に反応するのも、それを一番気取られたくなかった相手にいきなり触られてしまうのも。
最悪だ。
「っ……こ、これはそういうんじゃ……!いいから放っといてくれ」
よく知らない他人であるはずのこの人との距離感がさっきからものすごく狂いっぱなしでおかしくなっているーー
「ご主人様、可愛いなあ」
「やめ……」
気がつくと上手に壁際に追い詰められ、やたら手際よくベルトが外されたーーって、一体何する気だこの人。
「今度は僕がしてあげる番だから……」
「いいっ!順番とかそういうの気にしてないからっ!てか、頼むからかまうな!」
いくら何でもこれはまずい。超えちゃいけない警戒色のトラロープ、開けちゃいけない方のドアだ。全身が総毛立って頭の中でアラートが鳴っているのに腰でも抜けたのか、どうしても力ずくではねのけて逃げられない。
「本当はこのまま最後までしちゃいたいけど、いきなりじゃ可哀想だしね。準備も要るし……」
無駄に切なそうにため息をつかれるーーえっそうなの?準備って何?最後って……おい。
「ちょっ……」
次の瞬間、彼の熱い舌や硬い口蓋、添えられた繊細な指先の感触をさっきよりも鋭敏な器官で感じ取るーー身体じゅうに電流が走ってぐずぐずに溶けてゆく。
「や……やめ……、お前っ、主人様呼びするくせに……や、ご主人じゃねえけど、……言う事……」
自分でも何を言っているのかよくわからないまま、うわ言みたいにわめいた。歴代の元カノにだって、こんなことさせたことがない。
俺の腿の間にうずくまる遠山の表情は、淫靡とか退廃とか嗜虐美とかのギュギュッと生搾り果汁120%かよってくらい壮絶に美しかった。
一杯一杯になりながらも手慣れてる感じが複雑で、奴の乱れた髪を触らながら叫んで果てた。茶灰色でふわふわと柔らかそうに見えて、意外と芯のある髪質だった。
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