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恒星:ホムパと玄英と愉快な仲間たち 1
俺、青葉恒星(アラサー会社員)の勤める「ガルテン松山」には創業記念日やら業界のイベントデーに次ぐ裏「Xデー」が存在する。
新規取引先「D’s Theory」の社長(かつ天才科学者)遠山玄英が打ち合わせや広報イベントで来社する日がそれだ。数日前から(主に女子社員中心に)社内はまるで七年に一度の奇祭前のような、歓喜とプラス方向の殺気(?)が充満している。
幅広い年齢層の女子社員たちが浮き足立ってしまう気持ちはよくわかる。浮き沈みは比較的少ないが地味目の業界で、冴えない中高年社員が多数派の中小企業に突如現れた非日常ーー見目麗しきマルチリンガルの天才研究者で紳士的なヤングセレブーー「三種の神器」どころか天から千手観音レベルで森羅万象与えられ過ぎの、宇宙人レベルのスーパーダーリンキャラだもの。
社内には非公式ファンクラブまでできているとか何とか……
とは言え、全く業務に関係ない事で万が一にでも本人に失礼があっては困るので、彼のスケジュールについては社のトップと担当課である俺の部署の部内秘扱いになっている。
……はずなのだが、何故か毎回ひっそりリークされている。リスク管理とかセキュリティとかコンプラうんちゃら以前の問題だろ、これ。
一社員である俺にとっては知ったことじゃないがーーなぜならもっとデカい爆弾を密かに抱え持っているから。
当の遠山玄英の秘かな性癖を知ってしまい「ご主人様」認定されてしまったこと、何だかんだ押し問答があって数ヶ月、とりあえず「普通の恋人から」ということで非プラトニック(若干SM寄り)な交際をなりゆき任せで続けている。
いつの間にか何だかんだずるずるダラダラ、週の半分ほどを玄英のマンションで過ごすようになってしまった。
休日には界隈をぶらぶらした帰りにマドンナで食事をする。たまには……いやしょっちゅう喧嘩するし頭に来て(啖呵で)しばき倒すんだがそのたび玄英がなし崩し的にナニに持ち込もうとするので……ゴホンゴホン……ええと。
もしかしてラブラブなんじゃないかな俺ら(こっ恥ずかしいわ。くそ)
こんなの(特に女子社員に)バレたらLGBTQ云々以前に、女子社員全員を敵に回して石打ちの刑に処されかねない。さもなくばパニックが起きて会社組織が崩壊ーーいや、流石にそこまではいかないだろうが俺が居づらくなりそう……紆余曲折を経てせっかく入れた、ちょいグレー寄りのホワイト職場なのに。
というわけで目下、墓場どころか宇宙船ボイジャーよろしく銀河系の果てまで持って行く覚悟で隠し通している。
同期の堀田から急に合コンの付き合いが悪くなったと苦情を言われたり、詮索めいた事を聞かれたりはしているものの、しばらくの間は何とかなりそうだ。
仕事ではもちろん、公私混同厳禁でお互いその辺はきっちり……
「ご主人様!」
「その呼び方、すんなって言ったろ!」
「でもここ、僕の家……」「あんたとこの社員がいるだろうがっ!」
今日は(ちょっと慣れちゃったけど)あの日常空間離れした夜景の見えるリビングで、玄英の会社「D’s Theory」の社員を招いたホームパーティーが開かれているーー数ヶ月に一度、こうして部下を招いて親睦を図るのだそうだ。
「次の週末、ホスト役手伝ってくれないかな。恒星のこともみんなに紹介したいし」
そんな頼み事をされたのが一週間前。
「別にいいけど……何すりゃいいの?」
「恒星、料理得意じゃない。僕が飲み物担当で、君が食べ物担当」
「は?料理できるつったって一人もんの平均的自炊レベルだぞ。パーティ料理とか作れねえし」
休みの日にたまに作るくらいで、レパートリーの最高難度は「肉じゃが」だ。
「全然いいよ。基本ポットラック だから、何か一品作ってくれればいいし」
部下呼んでホムパとか、さすが職場の人間関係フラットな社交の国の人……
「そんなんでいいなら……考えとくけど」
「よかった!日本人のホストが食事担当してくれるって言ったら、みんな楽しみにしてて……」
それ、相談じゃなくて決定事項じゃねえか。
「んな、ふわっとした情報で無駄にハードル上げてんじゃねえよ!JAR○に訴えんぞ」
家主の小学生が外で勝手に安請け合いして来てしまうドラ○もんの心理がよくわかる。
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