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恒星:玄英が実家にやって来る!(何も聞いてないけど) 1

「地球に優しい」が商品の付加価値として市民権を得て久しい。近年ではSDGs(持続可能な開発目標)も一般名詞として市民権を得てきた。  これまで便利で快適な体力消費社会を支えてきたプラスチックやポリエステルなどの石油製品も、生分解性原料やリサイクル素材への転換が求められている。  だが、それらのいわゆる「エコ素材」は多くの場合、使用感や耐久性、特にコストの面が課題となる。玄英が学生時代の研究で編み出した画期的な製法により、それら諸問題をクリアした夢の新素材が生まれた……んだそうだ@受け売り。  玄英の会社「D’s Theory」は日本の間伐材や竹素材に再生ペットボトルを掛け合わせた新素材「D'sアース」シリーズを製造、販売する会社だ。 「見たか?ガルテン松山が『日本園芸新聞』と『月刊私の庭』のトップに取り上げられたぞ」  はしゃぎ気味の堀田が業界紙や雑誌を持って来た。 「注目の新素材「D'sアース」シリーズを日本の企業で初めて採用、家庭用のエコ園芸資材を近日中に発売……『日本園芸新聞』は業界新聞だが『月刊私の庭』は趣味の一般誌だからな。一番バズってんのはこれ」 「『ウーマン・エコノミスト』?」 「そう。キャリア志向の女性がメインターゲットの経済誌。今月号に遠山社長のインタビュー記事が写真入りで載ってる」 「あー……そうなんだ」 「『ウーマン・エコノミスト』なら私もWEB版で読んだわ。SNSでトレンド入りしてたわよ」  我が社で唯一、遠山社長のオーラにアテられない最終兵器系女子、水島課長が会話に加わった。 「あの見た目とハイスペックぶりですもんね!男でも憧れます」  俺も諸般の事情から精一杯、興味ない風を装ってはいるものの、内心はワールドカップで日本初優勝?ばりのハイテンションだ。 ーー『ウーマン・エコノミスト』とかめっちゃメジャー誌じゃん!発売日にダッシュで書店巡りして買ったわ! ーーあの人、そういう事いちいち言わないしなあ。そもそもプライベートで仕事の話しないし…… 「ところで、青葉君はどうなの?」 「えっ?俺ですか?」 「他課の女子社員みたいにキャーキャー騒ぐのは論外としても、仮にも取引先の社長なんだからちょっとは興味持ちなさいよ」 「あー……はい」  我ながら擬態うますぎるわ(満足) 「周囲に有名人がいようが動じないのも青葉君のいいところですけどね」  内川補佐が苦笑いでフォローしてくれた。いつもすみません…… 「それじゃ駄目。今や時の人なんだし、どこで話振られるかわからないじゃない。堀田君のように営業担当ではないとしても話の種くらいは仕入れておきなさい」 ーー人前で絶対言えないネタなら死ぬほどあるんだが…… 「遠山社長の取材申し込みが殺到してるらしいですね。あの見た目ですし、そのうちテレビや動画サイトのコメンテーターの仕事でも来たら大ブレイクするんじゃ……」  堀田がミーハーぶりを発揮して他人事なのにウキウキしている。 「それはどうかな」  俺は反論した。 「あの人、見た目は華やかだけど根は研究者肌だし、本業に集中できないんじゃ本末転倒だ。学生時代にアメリカで成功して注目された時からメディアの露出は避けていたけど、環境問題に関する取材だけはたまに受けていた。今回のインタビューはうちの社の新製品の宣伝のためにきっと例外で……」 「青葉……関心ない割にずいぶん事情通だな」  はっーーやばい。つい口が滑った。 「いやっ……、ええと、D’s Theoryの古賀さんに聞いたんだよっ」 「ああ、たまに遠山社長にくっついて来る、検察官ぽい人な」  ……比喩。  あれだけの人なのだから玄英が世間に注目されて当然だし、好評価なのは素直に嬉しい。だが、ただでさえ違う世界の人がますます遠い存在になってしまいそうで、日陰の身の一般ピープルとしてはやや複雑だ。 「ま、俺も課長の言う通りだと思うぞ。それちゃんと読んで、さっそく週末の接待に生かしてくれよな。よろしく」  堀田は持ち込んだ雑誌や新聞を俺の机に置いたまま、戻って行ってしまった。 ーーん?え?接待?何の?

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