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恒星:玄英が実家にやって来る!(何も聞いてないけど) 2

「そうそう。今度の日曜、D’s Theoryさんの対応よろしくね」  水島課長まで当然のようにこんなことを言って来るし。 「……はいっ?」 「ああ……、ええと、それに関しては……青葉君、ちょっとこちらに」  内川補佐が不自然にそわそわし出す。 「実は、今回の商品が上手くいったら引き続きうちで『D'sアース』を業務用の資材にも展開する話が進んでてね」 「ええ。もう試作品の仕様候補がいくつか上がって来てます」 「実はそれを受けて、D's Theoryさんのたっての希望で、青葉造園で社員研修をさせてもらうらことになってるんだ。せっかくだから青葉君には接待も兼ねて、当日の案内係を勤めてもらおうかと……言ってなかったっけ?」  内川補佐、まさかの伝達ミス? 「……全くの初耳です」 「じゃ、今言ったから。そういう事で後はよろしく」 「ちょ、待ってくださいよ。小学生ですかっ」 「実家帰ったついででいいし、休日手当も出すからさあ。それとも都合悪い?」 「いや…………暇ですけど」 「よかったあ。日程や内容は先方で話し合って決めてあるはずだし、外国人社員が大半だそうだけど、通訳さんもいるって言うし」  知ってる。 「我が社代表というか、顔つなぎ役でひとつ頼むよ」  それは構わないとして……何でわざわざウチ?  思い当たるのはパーティーの時、「実家が造園業」って話になって、周りの人らが一度見に行きたいって盛り上がってた事だ。  確かに、「遊びに来る?」くらいは言ったかもしれない。興味ある何人かが個人的に来る程度だったら、俺も全然いいかなって思ったし。  いつの間に、何がどうしてそうなった?恐るべし社交辞令の通じない文化圏。まさかの 国内治外法権。 「でも、社員研修ってったって……うち、零細業者もいいとこですよ?社屋兼実家だって歴史的な建造物でもなんでもないし、古いだけで狭いし利便性イマイチだし。わざわざ来てもらったところで面白くも何とも……」 「それがいいらしい。個人の住宅って観光や社用じゃなかなか見る機会がないから新鮮なんだそうだ」 ーーあ、それであんな盛り上がってたのか。 「急に決まった話だが、先方にも快く了解いただいた。遠山社長も楽しみにしていて、条件次第では製品のモニターもお願いしたいそうだ」 ーーまるっと俺の頭越しかよっ。全米と一緒に泣くぞ。   「なに、そう気構えなくても大丈夫。小人数の会社で親日家の人ばかりだし」 ーーうん、知ってる。  まあ俺だってたまの助っ人以上に家業に関わってるわけじゃないし、実家がどんな仕事受けてようが構わないんだけど……  跡取り候補の一人孫は勤め人になってしまい家業を継ぐ気は無し、本業の日本庭園の仕事は年々激減して公共施設の緑地管理や分譲地のエクステリアの下請けみたいな仕事で細々と繋いでいるーーそんな先細りの零細企業にとって、金になるかどうかはおいておいて久々に元気の出る仕事には違いない。 ーーでも何か、スッキリしねえ。

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