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恒星:実家de濡場 1

 扉(襖含む)の向こうはいくら親しくてもプライバシーだという文化と、玄英の育ちの良さに感謝だーーな本を探してベットの下のぞいてりしたけどな。  秘密を作りたい訳ではないが、俺のような雑種のなんちゃって「坊ちゃん」と比べたら玄英はきっと血統書つきの貴公子だ。だから俺もせめて釣り合うように騎士とか紳士なサムライとかーーそういうイメージでいきたい。  子どもの頃の写真ならまだギリギリ見せられるが、眉剃ってイキってたバッドボーイ時代の写真なんて永久に黒塗り非公開で隠蔽(いんぺい)しておきたい。 「気が済んだらいい加減自分の部屋に戻って寝ろよ……わっ」  玄英がいきなり覆い被さってきたので、俺はベッドに尻餅をついた。 「恒星に制服着せて、したかったなあ」  可愛らしく甘えて来たって、言ってる事は変態だ。 「そんなん俺がナえるわ!」  アラサーの短ラン姿とか、悪夢でしかなくね? 「つか、しねえし!今、こんな事で実家出禁になったら……」  天井におわす正統派美少女時代のテイラー様と目が合った。なんか気まずい。 「お祖父様はもう寝てしまったし、清さんとダイは別な建物だし、他の人達は家に帰ってしまったんでしょう……」    耳元には深窓の王子様どころか百戦錬磨のデカい小悪魔の囁きが…… 「元カノは連れ込んでたくせに」  だからどこでそう言う言い回し(以外略) 「連れ込んでねえって。そん時は清さんの他にも若い衆も離れに住んでいたし、ご近所やら出入りの業者やら、やたらと人の出入りの多い家だったから」  十代のやんちゃ盛りの頃、この部屋が悪友の溜まり場となっていたことは確かだが、それには言及すまい。 「まさかそんな昔のこと妬いてんの?それ言うなら玄英だって結婚してたじゃん」 「そうだった……ごめん」  玄英には言えないが、ある日突然ウチと隣近所が社員旅行やら町内会の旅行やらに出かけてしまって俺は彼女と……という妄想ならよくしていた。  それが今、Road to三十路の今頃になって同性の恋人に押し倒されている……何だか不思議な気分だ。  互いの湯上がりの匂いで脳まで満たされて、はだけて露出した胸元どうしが生々しく密着する。珍しく玄英の方から噛みつくようなキスをしてくるので()せそうになる。そのまま貪りたかったが、どうにか押し戻した。 「ちょ……さすがにやばいって。急にどうした」 「だってこの部屋、ご主人様の匂いで一杯なんだもの。興奮する」 「嘘つけ。埃臭いだけじゃないか」 「自分の匂いは自分じゃわからないでしょう」  そういうもんなのか?  玄英の方こそ、ここん家の風呂備え付けの、近所の商店街で買ったいつものお得用シャンプーと一番安い石鹸(ボディソープですらない)の匂いが汗や体温と混じり合って複雑にアップデートされ、何やら淫靡な香りを漂わせているーー昭和の団地妻みたいな(知らんけど)  これも本人にはわかるまい。 「俺の臭い?……って、どんな……」  少なくとも玄英みたいな高級媚薬みたい な匂いじゃなくてガチ庶民っぽい臭いなんだろうな……って、どんなだよ。焼き魚と醤油の臭いとか?(嫌すぎる)  そういやそろそろ加齢臭もヤバいかもしれない。凹む。 「んー、日向で遊んできた子どもみたいな……でも、とーっても、コケティッシュな匂い。ご主人様の浴衣姿もセクシーだし、このベッドで思春期のご主人様が寝起きしてたと思うと余計にクる」 「勝手に妄想してスイッチ入れてんじゃねえよ、変態」  俺も実は、玄英の筋肉質のストレートな身体に子どもみたいな短丈の浴衣が着せられているミスマッチさが猥褻(わいせつ)に思えて、ずっと落ち着かない。  女役をしたい願望は今のところないが、宗教画に描かれた天使のように整った顔を情欲に歪め、俺の首筋や胸元に唇を落とす玄英の姿には触感以上に掻き立てられるものがあるーー俺だって必死に理性と戦ってんのにーーああ、もう。

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