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恒星:実家de濡場 2

「ご主人様、お願い。少しだけ……少しだけください」 「駄目」  振り解いて逆に無茶苦茶しがみつかれないよう、口ではたしなめながら思わせぶりにゆっくりマウントを取りにかかる。  玄英の帯を解いて跡が残らない程度の力加減で手首を縛り、俺の帯も繋げてベッドの柵に結わえつけた。彼は抵抗することなく、とろんとした表情に淫猥な期待を滲ませたまま大人しく従っている。 「少しじゃ済まないだろ」  思わせぶりに耳たぶを含んでねっとり舌を這わせてやると、 「じゃ、おやすみ」  と囁いてぱっと身体を離した。 「……えっ?」 「朝イチで起こしに来てやんよ。俺は客間で寝るから」 「どどど、どうして?全放置とか意味わかりませんが!」  お預けを食らって絶望する玄英の表情がまた、いい。俺は帯のない浴衣をかき合わせながらすっとぼけた。 「だって客間に誰も寝た跡が無いと変に思われるじゃん。客用の布団っていいやつだからぐっすり眠れそう」 「ご主人様酷い!こんな状態じゃ僕、眠れません。明日は研修の引率と通訳っていう大事な仕事があるのに!」  この状態の玄英にしてはまともなことを言う。 「ああそうか……接待係としてはそれも困るか。うちの会社、安全第一だし」  自身の昂ぶりを最大限に持て余して悶える玄英の情け無さは事故を通り越して惨状レベルだ。最高に卑猥で綺麗。  祖父ちゃんとオッサン連中にそそのかされたり心配されたりしながら、俺は今日も禁酒を貫いた。素面でなかったらとっくの昔に理性が吹っ飛んでいただろう。  素面最高。俺、偉い。 「仕方ないからちょっとだけ付き合ってやるよ。後ろ向け」 「……はい」  玄英は素直にこちらに背中を向けてうつ伏せになった。  上腕に絡まるだけで体を成していない浴衣が邪魔で、さらに手首の側まで引き上げる。縛る前に脱がしておけばよかった。  乱れた淡い色の髪がワイン染めのような首筋にかかり、薄紅のグラデーションがミルク色の肩口まで広がって長い脚がベッドの端からだいぶはみ出しているーーいつもつくづく思うのだが、自分と同じ生き物かと思うくらい綺麗な人だ。  立ったまま俺も狭いベッドの空いたスペースに乗った。マットレスがギシギシ悲鳴をあげるーー合板の全年齢用ベッドともどもおそらく耐用荷重オーバーだが、最中に真っ二つになったりはしないだろうーー激しく動いたりしなければ、だが。 「あの、ご主人さま……明かり……消してもらえませんか」 「は?今さら何で?テイラー様とも目ェ合わねぇだろ」 「だって……いたいけでピュアな十代のご主人様の痕跡が残ってる部屋でこんな……」  何それ。答えが斜め横過ぎる。 「待て。何の妄想だよこのショタコン」 「しょ……た?」  いや、妄想されてるのは既に三十路に片足突っ込んだオッサン顔のゴツい成人なので別にショタコンではないが…… 「つか恥じらうとこ、そこなのかよ。十代の俺に興奮して自分で押し倒してきたくせに意味わからん」 「そうなんですけど……うまく言えないけど、何となくいたたまれないんですよ」 「十代後半の男なんか全然ピュアでも何でもねえだろ。俺だって下世話でしょうもないことばっか考えてたし。自分のこと振り返ったらよくわかんだろうが」 「……そうだったのかな……」  玄英はそうでもなかったのかな。キリスト教圏のいいとこの坊ちゃんって、潔癖に育てられてそうなイメージ……そりゃもう精神的拷問ばりに……これも勝手な妄想だけど。  そんな風に育った人をアレコレしちゃうのって……考えただけでクる。俺、自覚がなかっただけでやっぱり変態なんだろうな。  下着越しに玄英の形の良い臀部を踏みつけた。 「あっ……」  数十センチほどの隙間に片足立ちしただけでマットレスがぐらぐらと不安定に動く。俺は背中を壁に預けたまま、ほんの少しだけ体重を繰り返し掛ける。  玄英とマットレスの間にあるのは昔懐かしい真綿の敷布団だ。文字通りじわじわと締め付けられて……とはならないだろうが、かなりもどかしい感覚だろう。 「ご主人様……これ、嫌っ……」 「ん。嫌ならやめる?」 「やっ、やめないで……」  悶々(もんもん)とするしかなさそうな絶妙な圧をキープし続けると、足の裏で玄英が小刻みに愛らしく揺れている。

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