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恒星:実家de濡場 3

「ご主人様、やっぱり苦しいですっ……せめてもう少し強く……っ」 「駄目。痛いだろ」 「痛くてもいいっ……」  俺は玄英に何を言われてもしばらくそれを無言で続け、ころ合いを見計らって彼を(また)いで 膝をついた。 「玄英。よく頑張ったね」  滑らかな脚を割って座り込み、手の指を潜らせて圧をかける。玄英がぞくぞくするような嬌声をあげた。 「しっ。声抑えて……準備も何もしてないから、浅い所だけな」  玄英の切ない息遣いと溶ろけそうな熱を感じながら、丁寧に(なか)を探る。 「比較対象がそもそも限られてるし、比較するようなもんじゃないけど……ひょっとして玄英、女の子より感じやすい?」 「しっ、知らなっ……」  紅潮した背中がさっきとは異なる上下動で波打ち、やがて小刻みに震えた。伏せた顔の下から、くぐもった泣き声がする。 「ごめんなさ……ご主人様のベッド、汚し……」 「どこがいたたまれないんだよ。こらえ性のない困った奴だな」 「ごめ……」 ーー明日、誰にも見つからないうちにベッドカバーごと洗濯だな。  絶望と虚脱でぐったりと見上げた玄英の額に、くるくるの前髪がへばりついている。 「玄英、すごく可愛い」  俺はくしゃくしゃと頭を撫でてキスした。露わになった広い肩には数日前につけてしまったらしい噛み痕と、その上に生々しく上書きされた痕ーー昨夜つけてしまったらしいが、夢中だったらしくその時の記憶はどちらも曖昧だ。  今まで誰に対してもこんな事をした覚えはないので自分でも戸惑う。興奮すると噛み癖のある人間だなんてことも知らなかった。  縛る方は跡が残らないくらいに上達したが、これではは意味がない。  小さく舌打ちして玄英の上に四つん這いになり、皺くちゃの浴衣を着せ掛けてやった。 ーー汚れてははないけど、着替え必要かな…… 「玄英。こっち向いて」 「……はい」  従順な玄英は不自由な腕を布団にめり込ませながらどうにか寝返りを打ち、半泣きでぐずぐずの顔ごと仰向けになった。背中ほどではないが胸元にもうっすらと数カ所、痕が残っているーー俺は汚していない方の指でそれらの痕を撫で、ため息をついた。 「玄英の肌は綺麗だから、本当は痕なんかひとつも残したくないのに……駄犬は俺だわ」 「僕は嬉しいですよ?」 「だって、いくら何でも噛まれたら痛いだろ」 「痛くないです」 「嘘つけ。三十過ぎてんだからシミになるぞ」 「別にいいよ。服で隠れるし」  玄英は浮遊感から冷めて少しすつ地上に降りて来た。 「俺が嫌なんだーーせっかく綺麗な肌してんのに。まあ、我ながら何言ってんだって感じだけど」 「日本の……というか東アジア圏の『美肌至上主義』みたいな価値観て独特だよね。面白いとは思うけど」 「それだけじゃないんだけどな。だって痛覚が気持ちいい訳じゃないんだろ。初めて噛んだ時、めっちゃ叫んでたの覚えるし」 「それは……びっくりして……それに叫んだら余計興奮しちゃって」 「うっわ、ドM」  俺は失笑しながら玄英の艶やかな頬を手の甲でさすった。 「俺さ、本当は恋人に優しくしたい人なんだよね。玄英のことだってベッタベタに甘やかしたいのに、どうしてこうなっちゃったか……」 「優しくしたい」と口では言いながら、目の前のこの人が劣情にまみれて上品な顔を卑猥に歪ませる様を、もっと見てみたかったりする。 「ご主人様は甘いし優しいですよ。もっと酷くしてくれても……」  本心が伝わっているのかいないのか、玄英がとろんとした、半分眠そうな声で答えた。 「マジかよ。そろそろ手ェ解けとか無いの?」 「ううん。このまま添い寝して欲しい」  玄英は横を向いて俺の指を軽く噛んだ。 「マジで甘ったれのドMだわ」  俺は声を立てて笑った。 「玄英、もう一回後ろ向いて」  玄英はまた、えっちらおっちらと寝返りを打って元の体勢に戻った。羨ましいくらいの立派な体躯を芋虫みたいに縮めて苦労しながら小刻みによたよたと動いてんの、本当に可愛い。  背中に覆い被さると玄英の肩口がびくりと跳ねた。

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